災害から家族とコミュニティを守る。一人の女性と家庭菜園の話(ガイアナ共和国)

2019年6月6日

 

 

「私一人でこんなことができるなんて、思わなかった」と語るのは、29歳のベラ・ブラウンさん。ガイアナ共和国内陸部北ルプヌニ地方にある先住民のコミュニティに住む女性です。彼女は2018年11月に参加した「参加型農業気象ワークショップ(Participatory Integrated Climate Services for Agriculture, PICSA))で得た学びを基に、自分の家の庭先で菜園づくりを始めました。

国連開発計画(UNDP)とガイアナ農業省水文気象部によって行われたこのトレーナー養成ワークショップは、日本政府拠出による「ガイアナ及びドミニカ国の女性の災害管理能力強化のための支援」プログラムの一環として行われたもので、特定の地域ごとの気象情報を基に、生計手段として最適な農産物や家畜を選択可能にすることを目的にしています。ここで得られる情報は、洪水や干ばつの影響による食料不足リスクが高く、また金融へのアクセスや訓練などへの機会が非常に限られるこの地方の小規模農家や女性にとって非常に貴重なものです。

ワークショップ参加前のベラさんは、自宅から5kmほど離れた畑まで往復3時間を歩いて通っていました。4人の子どもを持つシングルマザーのベラさんにとって、それは簡単なことではありません。その上、ベラさんの畑は低地にあり水はけが悪いため、作物は大雨や洪水が起こるたびに大きな被害を受けていました。

ベラさんはワークショップで、降水量予測データを活用した作物の選定法や、必要なコストに対して採算をとる方法などを学びました。さらに毎日往復する必要もなく、天候の変化にも対応できる家庭菜園の可能性に気付いたといいます。しかしながら、農業についてこれまで学んだことがなかったベラさんは、ワークショップで学んだことをすぐに消化することができなかったため、家に帰るとすぐに近所の人から農業の本を借りて、自分自身で勉強し始めたのだそうです。

育てる作物を決めても、家の裏の空き地を耕すところから始めなくてはなりません。誰かに耕してもらうほどのお金もなかったので、ベラさんは家にあるものを使って、畑を耕し、環境を整えました。「近所の人たちは、私が畑を一から作り始めたのを見て、すごく驚いていたわ。」と振り返ります。

 

 

家庭菜園を始めてから数か月で、ベラさんが作るインゲンマメやホウレンソウ、ネギなどはコミュニティの人たちから大人気となりました。「今までは子どもたちにこのあたりで手に入りやすい根菜類しか食べさせられなかったのが、今では栄養のある緑黄色野菜をあげることができて嬉しい。近所の人たちに余った分を売ることで、副収入にもなっているの」といいます。聞けば、ベラさんは今まで、収入が足りない時には子どもを預けて別の村まで何時間もかけて通い、働いていたのだとのことでした。今は、子どもたちと一緒にいられ、その子どもたちも畑を手伝ってくれるようになりました。

「このワークショップが私の人生の転機になりました。農業の知識がなかった私でもできたのだから、コミュニティの他の女性たちにも必ずできるはず。今後は、他の女性たちとも協力して、コミュニティの畑を作りたいと思っています。」と力強く語ってくれました。

UNDPがこのプロジェクトを開始して6か月、ガイアナ共和国ではベラさんのようなコミュニティ内のリーダーが67人誕生し、その数は日に日に増えています。これからもUNDPはガイアナ農業省水文気象部と協力して、生計の安定化と災害対応能力の強化に向けた支援を行っていきます。


 

 

内野恵美(うちの・めぐみ)
UNDPガイアナ事務所/UNVジェンダー・スペシャリスト

女性のエンパワーメントに関心があり、民間企業勤務ののち、東日本大震災後は岩手県大槌町にて女性の手仕事を通じた雇用創出を支援。そののち外務省で途上国の女性のエンパワメントのための政策立案に携わり、また、インド、アメリカのNPOにてマイクロファイナンスなどを通じた女性の金融アクセスの改善に貢献してきた。
2018年5月からは日本の震災支援の経験を活かし、南米ガイアナ共和国の国連開発計画 (UNDP)にて、国連ボランティアとして同国の女性の災害管理能力強化プロジェクトに携わっている。米国コロンビア大学大学院ソーシャルワーク研究科修了(修士)。