中東・アフリカの暴力的過激主義を防ぐ

第45回UNDP邦人職員リレー・エッセイ「開発現場から」 国連開発計画(UNDP)エジプト事務所 プログラム・アナリスト 栗原優介さん

2018年6月12日

 

平和維持活動(PKO)計画担当者向け研修

 

 

2016年には世界の3分の2の国がテロリストの攻撃を受けたといわれており、テロリズムは世界の平和と安定、人権、持続可能な開発にとって大きな脅威となっています。テロリストが掲げる暴力的で過激な思想が世界各国で蔓延する中、その対応は急務です。UNDPエジプト事務所は、紛争解決及び平和維持・構築のためのカイロ国際センター(Cairo International Center for Conflict Resolution and Peacekeeping & Peacebuilding、略称CCCPA)を支援することで暴力的過激主義の防止に取り組んでいます。

2018年4月、CCCPAは、「アフリカの角」と呼ばれる地域を含むアフリカ東部において、暴力的過激主義に対する「対抗的な語り(Counter-Narrative)」についてのワークショップを開催しました。「対抗的な語り」とは、テロ行為を誘因・助長するような暴力的過激主義に対し、異議を申し立て、非暴力で寛容な考えを育むものです。ワークショップでは、日本および中東・アフリカ・ヨーロッパ等24カ国から、研究機関やNGO、平和維持活動関係機関の代表者、約70名が、それぞれの活動成果や研究結果を持ち寄り、暴力的過激主義対策についての検討を行いました。様々な国や組織からの参加者が共通のテーマについて話し合い、知見を共有することのできる貴重な機会になりました。

近年、テロ組織がインターネット上のソーシャルメディア等を通じ、映像や音楽を巧みに使って若者に働きかける行為が認められており、オンライン上で「対抗的な語り」を普及させる対策の重要性に着目されがちです。しかし、本ワークショップでは、インターネットへのアクセスが限られる地域や人々の存在を考慮し、オンライン以外の取り組みの必要性についても議論がなされ、コミュニティの能力強化等、各国固有の事情に応じた対策の必要性が確認されていたことが印象的でした。個別の対策を検討することは、取り組みの難易度を上げることにつながりますが、他方で、UNDPが果たすことができる役割は大きいと感じています。その他にも、政策レベルでの取り組みやジェンダー視点の重要性などについて活発な議論が交わされていました。

 

浦上防衛大学校准教授によるプレゼンテーション

 

UNDPは2008年からエジプト政府と協力してCCCPAの活動を支援していますが、同時に日本政府からも継続して資金供与や講師派遣など、多方面にわたる支援を頂いています。CCCPAは、設立当初、「アフリカの紛争解決及び平和維持のためのカイロ地域センター」(Cairo Center for Conflict Resolution and Peacekeeping in Africa)として、アフリカ地域に展開される平和維持活動(Peacekeeping Operation:PKO)関係者の能力強化と、紛争予防・平和構築分野での研究活動を中心として活動してきましたが、現在ではテロ対策・暴力的過激主義の防止といった新しい領域の課題に対しても取り組みを主導しており、地域的にもアフリカのみならず全世界を対象とするなど、活動の重要性は更に高まっています。

テロリズムに代表される暴力的過激主義は、国境を越えたグローバルな問題であるとともに、ローカルな取り組みが必要とされる分野でもあります。UNDPには国際機関として世界170以上の国や地域でグローバルに活動を行っており、同時に、開発機関として各国個別の状況に対する知見も有しています。グローバルとローカルの双方の強みを活かしつつ、様々なステークホルダーと協力して事業を進めることは、私個人としてもUNDPで働く醍醐味であると感じています。

2018年4月24日には、エジプト政府、日本大使館、UNDPの三者にて、プロジェクト新フェーズの実施にかかる署名式が行われました。中東・アフリカ地域の平和と安定の維持・促進に貢献すべく、これからも取り組みを進めていきます。

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特別寄稿:栗原優介 UNDPエジプト事務所 プログラム・アナリスト