日本の民間企業とナミビアの密猟防止に取り組む

第46回UNDP邦人職員リレー・エッセイ「開発現場から」 UNDPナミビア事務所 三輪智香子さん

2018年7月11日

 

パトロールキャンプの落成式(2017年11月)

 

 

ナミビアについて

ナミビアという国を聞いたことがなくても、世界最古の砂漠といわれユネスコ世界自然遺産にも登録されている「ナミブ砂漠」は聞いたことがある、という方は多いのではないでしょうか。国名の由来となったこのナミブ砂漠をはじめ、野生動物の聖地と呼ばれる広大なエトーシャ国立公園等で見られる荘厳な自然景観や動・植・鉱物の多様性は、ナミビアが世界に誇るもののひとつです。

ナミビアはアフリカ南部に位置し、日本の約2.2倍の国土に約250万人(名古屋市の人口と同程度)が暮らしています。1990年の独立後、ダイアモンド・銅・ウラン等の資源開発に牽引されて経済成長を遂げ、中所得国となった一方で、著しい所得格差や高い失業率(34%)といった経済・社会的課題を抱えており、特に女性や若者、障がい者や少数民族が支援を必要としています。また、気候変動、森林の違法伐採、野生動物の密猟といった環境・生物多様性保全に対する課題や、干ばつ、洪水、山火事等の自然災害は、牧畜や農業を営みほぼ自給自足で生計を立てている人々の生活に打撃を与えています。

 

仕事内容

UNDPナミビア事務所は、ナミビア政府の策定した第五次国家開発計画、貧困・経済格差削減促進計画などに沿って、環境・エネルギーと貧困削減というふたつの分野を柱とし、支援プログラムを行っています。また全ての活動に、国の制度・仕組みの整備や、ジェンダー平等のための要素を盛り込んでいます。

私はモニタリング評価官として同事務所に配属されており、同事務所のプログラム全てのモニタリング評価を担当しています。モニタリング評価とは、計画通り活動が行われたかや、どのような結果・効果が得られたかなどを日々確認し、活動を客観的に評価する役割を指します。具体的には、年次計画の進捗管理及び中間報告、年次報告書の執筆・データ収集などに携わっています。この活動をしっかりと行うことで、活動の効果及び効率を上げ、透明性を高め、説明責任を果たすことができます。さらに、各国政府や援助機関、非政府組織(NGO)、民間企業など様々な組織から信頼され、連携や資金提供の機会も増えます。

プログラム担当官は、プログラムの活動実施に日々走り回っており、計画通りの結果・効果が得られているかを立ち止まって考える機会があまりありません。私は、資料やデータに基づき、活動のうまくいっているところと計画通り進んでいないところを分析し、状況改善のために何ができるかを提案し、それが効果を発揮したとき、モニタリング評価の仕事にやりがいを感じます。また、うまくいっている活動については、好事例として関係者間で共有したり、ウェブサイトやソーシャルメディアで紹介したりしています。現場の工夫で積み上げられてきた小さな成功を集め、組織、さらには世界レベルで効果の高い開発に貢献しているということを示すと、現場で汗を流している人たちは活動の意義が再確認できたと喜んでくれ、私の仕事への原動力となっています。

 

Yahoo!JAPANとのパートナーシップ

私は、UNDPナミビア事務所において、日本有数のインターネット企業であるYahoo!JAPANとのパートナーシップ構築に携わっています。Yahoo!JAPANは、生物多様性と種の保存を重視し、違法な野生生物の取引は一切許容しないという方針のもと、ナミビア最大級の規模を誇る最も有名な観光地のひとつ、エトーシャ国立公園の密猟防止パトロールキャンプ建設のために500 万円を寄付しました。パトロールキャンプとは、密猟防止のためパトロールを行う際に拠点として利用する施設のことです。このパトロールキャンプの落成式が、2017年11月4日にエトーシャ国立公園においてUNDPナミビア常駐代表、ナミビア環境・観光省大臣、在ナミビア日本国大使の参列のもと執り行われ、テレビ、新聞、ラジオ等同国のメディアで大きく報道されました。 

アフリカでは、1年間で2万頭以上のゾウや1300頭以上のサイが密猟者によって殺されたと報道されています。密猟は野生動物や生物多様性保護、観光、社会経済開発に多大なる負の影響を及ぼします。

ナミビア環境・観光省は、UNDPなどの支援を受け、2014年から4年間の予定で密猟防止プロジェクトを実施しています。エトーシャ国立公園を含むナミビアの全21の保護地区が対象となり、密猟パトロールのための研修や設備の提供が行われました。

エトーシャ国立公園は日本の四国と同程度の面積を持ち、その広さゆえに密猟の防止が難しく、深刻な被害が出ています。Yahoo!JAPANと密猟防止プロジェクトの共同出資により建設された新しい密猟防止パトロールキャンプでは、水を引き、太陽光発電も備えました。密猟パトロール隊、警備隊、地域住民らによって活用され、密猟防止の効果が高まっています。

この密猟防止パトロールキャンプは、フジテレビの取材を受け、「世界動物ゲキレアハンター」という2018年7月15日(日)19時57分~21時54分に放送される番組で取り上げられます。日本で暮らしている人たちに、ナミビアの密猟問題について興味をもってもらうきっかけになれば嬉しいです。

過去に民間企業で働いていた経験から思うのは、Yahoo! JAPANは、寄付金だけでなく、それよりもっと大切な企業イメージなどを含めて、UNDPを信頼して託してくれたのだろうということです。これからも民間企業との信頼関係を強め、企業理念の達成のため、そして持続的な開発目標(SDGs)の達成のための重要なパートナーとして、UNDPを選んでもらうべく、精一杯努めたいと思います。

 

完成した監視塔の前で

 

 

UNDPのJPOとして

私は外務省のジュニア・プロフェッショナル・オフィサー(JPO)制度(国際機関への就職を希望する若手に対し、日本などの政府が一定機関経費を負担し、職員として派遣する制度)を通じて、現在の仕事に就きました。UNDPは国連システムのグローバルな開発ネットワークと言われますが、以前はこの言葉を聞いても私にはピンときていませんでした。これまでUNDPで働いて、UNDPの本質は正にネットワークだと考えるようになりました。約170の国や地域でプロジェクトを実施しているUNDP職員は専門的知見や経験を共有し、さらに世界中の政府機関、NGO、研究・教育機関、民間セクター、メディア等とのネットワークが広がっています。このネットワークでは、ある課題についてアドバイスを求めると、ほぼ必ず、役に立つアドバイス又は関連情報が手に入ります。

様々な方からアドバイスや情報をいただき、これまでやってこられたことに深く感謝しつつ、これからはこのネットワークに情報を提供する側にもなって、グローバルな開発ネットワークの更なる拡充に貢献できるよう、日々努力していきたいと思います。

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三輪 智香子(みわ・ちかこ) |  UNDPナミビア事務所モニタリング評価官
早稲田大学国際教養学部卒業後、米国コロンビア大学にて国際関係学修士号取得。民間企業、在ミクロネシア日本国大使館等での勤務を経て、2017年2月より現職。

 

ナミビア全国清掃キャンペーンにてUNDPナミビア事務所の同僚と筆者(右端)