第15回UNDP邦人職員リレーエッセイ「開発現場から」 UNDPガーナ事務所 竹本祥子さん

 Aowin Suaman群では雨期に毎年マーケットが浸水し、毎年大きな被害を受ける。AAPの支援を受けてマーケットを高台に移転。オープニングセレモニーに在ガーナ日本大使館の方々と参加。 PHOTO : Shoko Takemoto / UNDP Ghana, 2012

2013年5月21日

ガーナにおけるAAP環境ガバナンスの取り組み

「都市における気候変動適応策と災害対策」をテーマにした修士論文を書き上げた4か月後の2011年10月、私は、国連開発計画(UNDP)ガーナオフィスにJPOのプログラムアナリストとして着任し、アフリカ気候変動適応支援プログラム(AAP)を通じてガーナにおける気候変動適応策の実践に携わることになりました。初めてのアフリカでの仕事と生活に、最初は四苦八苦しましたが、大学院で学んだ気候変動適応策に関する様々な知識やスキルを、開発の現場で実際に試し、またそこから新しい知識や見解を得ることのできる、とても充実した経験を積んでいます。

TICAD IVから生まれたAAP。ガーナも20のアフリカ参加諸国の一員として、2010年から2012年までAAPを通じて 気候変動適応に向けた様々な先進的な取り組みの実施を行っています。中でも、ガーナでは、 気候変動への適応力を高める様々な活動及びシステム作りを国・セクター・地方政府、及びコミュニティレベルの政策・計画・予算等にメインストリーミングする(主流化する、織り込む)ことに取り組みました。これにより、AAPは、気候変動の影響にも対応できる、より強靭なガバナンスシステムの形成に大きく貢献する結果となりました。

ガーナにおける気候変動の背景
ガーナは近年急速な経済成長を遂げ、2011年に国民総生産(GDP)は約392億ドル、1人当たりの所得が1400ドルを超え中所得国の仲間入りを果たしました。しかし、国内の格差はかえって広がっており、総人口2497万人の多くは、 実質的な「豊かさ」を感じることができていないのが現状です。 特に北部3州においては、灌漑設備がままならない状況の中、人々は自給自足農業に頼った生活を送っており、例年の洪水や干ばつによって住居や農作物など数少ない資産を定期的に失い、困窮した生活から抜け出すことが難しい状況にあります。

このような背景の中、ガーナにおける気候変動の影響は、地域によって大きく異なるものの、乾期における気温の上昇(2080年までに約摂氏1.5度~3度)と(気象モデルによって予測は異なるが)北部3州における雨量の変動と増加と言われています。UNDPはAAPを始め、様々なプロジェクトや活動を通じて、ガーナ政府と連携して、ガーナにおける 災害・気候変動対策に資する技術的・経済的支援を行っています。

AAPによる気候変動適応策のマルチレベル・メインストリーミングの取り組み
同じ気候変動の取り組みでも、適応策と緩和策の実施においては大きな違いがあります。再生可能エネルギーシステムの導入など、国家レベルでの大規模な温室効果ガス削減の取り組みが最終的に優位な効果をもたらす緩和策。一方、適応策は、もちろん国家レベルでの政策的・構造的改革は必要ですが、最終的に「適応アクション」を起こさなければならないのは個人・家庭・コミュニティ・自治体政府等です。よって、適応策の実施においては、ローカルなレベルで様々な人々が、季節の変化や異常気象となって現れる気候変動の影響に対応するためのソフト・ハードのシステムや能力を、どれだけ身につけることができるかが大変重要な鍵となります。だからこそ、気候変動適応策をメインストリーミングする( 主流化する )上では、国家レベルだけでなく、気候変動の影響が最も顕著とされる農業、水等のセクター、そして、地方政府、自治体、コミュニティも含めた、いわゆる縦と横のマルチレベルガバナンスに置けるメインストリーミングが重要となるのです。

AAPを通じて、ガーナはまさにこの気候変動適応策のマルチレベル・メインストリーミングを試みました。国家レベルにおいては、各省庁や各地方政府の大臣など を対象とした気候変動適応策に関するワークショップを開催し、なぜ適応策のメインストリーミングが必要なのか、また具体的にどのように政治・政策に反映させるのかについての意見交換の場を設け、ハイレベルな政策決定者の理解と賛同を得ました。また同時に、ガーナ環境科学技術イノベーション省への支援を通じて9つのセクターポリシー(開発計画、農業、災害対策、沿岸整備、教育、森林、保健、住居、観光、交通、水資源、テクノロジー、公共財政)を含むNational Climate Change Policyを作成し、現在議会で策定に向けた審議が進んでいます。

また自治体レベルにおいては、2011年時点で国内170あった郡議会の主計官全員を対象に、AAPは全国を周り、気候変動適応策を郡の開発計画や財政計画にどのように織り込むのか、自治体政府における気候変動メインストリーミングマニュアルを作成し、普及啓発を行いました。その結果、2012年度にガーナ財政省に提出された149の群議会からの財政予算案の約43%(合計64 郡議会)に、気候変動適応策という名目(climate change / resilience / adaptation)が含まれ、それぞれの群議会が自分なりに強靭性を強化すると発案した農業、住居、環境、災害対策等の活動に合計約5519万ガーナセディ(約2794万米ドル)の予算請求が行われました。

ガーナは現在地方分権化への移行の真っただ中。自治体政府は、中央政府からできるだけ自立し、自らの地域コミュニティの経済的社会的問題をいかに自らのアイディアとリーダーシップで改善していくことができるのか、今模索しています。地域の未来を考えたとき、季節の変化、異常気象の増加は、今ある様々な問題や脆弱性をより深刻化させる可能性があります。このようなメッセージを発信しながら、AAPは地方分権化のプロセスに上手に抱き合わさって、多くの郡レベルの予算案に気候変動適応策をメインストリームすることができたのではないかと思います。

どのようにしたらガーナの環境ガバナンスがより良いものになるのか、政府のパートナーや同僚と議論していると 、ふと、大学の環境経済学の授業で習った「リープフロッグ(カエルとび)」というコンセプトを思い出します。リープフロッグとは、経済発展の途上にある国々が、先進国が辿ってきたような、エネルギー利用 ・CO2排出量を大幅に増加させ、深刻な環境汚染の上に成り立つ経済発展のモデルではなく、先進的な技術やアイディアを駆使して、これらの先進国の過ちを「飛び越えて」、持続可能な低炭素社会を築くことができるのではないかという考えです。

日本を含め、先進国で気候変動適応策が自治体レベルで予算化されているケースは未だ極めて少ないのが現状です。そう考えると、ガーナにおけるAAPの取り組みは、先進国の気候変動適応策のプロセスの「リープフロッグ」につながった、と言えるのではないでしょうか。もちろん、適応策が郡の予算にメインストリーミングされているからと言っても、本当にこれらの活動が効果的に実践されたのか、また、郡議会が「気候変動適応策」という名目で実施した活動がどの程度地域のレジリエンスを向上させることに効果的かということは、今後継続的にモニタリング、及び評価する必要があります。実際に、現在中央政府からの予算の支給が何ヶ月も遅れており、郡議会の財政はかなり厳しい状況にあります。

ガーナにおける気候変動適応策、そして、環境ガバナンスの向上に向けた取り組みはこれからもまだまだ続きます。私も、さらなる「リープフロッグ」の機会を模索しながら、このプロセスを応援していきたいと思います。

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竹本 祥子 (たけもと しょうこ)
UNDPガーナ事務所 
サステナブルデベロプメントクラスター プログラムアナリスト

2006年に大学を卒業後、米国World Resources Institute(環境シンクタンク)でインターン。その後、東京を拠点とした環境コンサルティング会社(エックス都市研究所)で日本・アジアにおけるバイオマス資源を活用したビジネス、及びCDMプロジェクトに従事。米国マカレスター大学卒業(国際学・環境学専攻、地理情報システム副専攻)。マサチューセッツ工科大学都市計画(環境政策・プラニング)修士。 

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