第16回UNDP邦人職員リレーエッセイ「開発現場から」 UNDP本部開発政策局 吉村麻美さん

 UNDP本部の同僚たちと(最後列右から3番目が筆者)2013年5月。UNDP New York本部にて。 PHOTO : UNDP New York


2013 年6月26日

国連開発計画(UNDP)本部・開発政策局・HIV/エイズ、保健と開発グループの吉村麻美です。私はポリシー(政策) アナリストとして、世界各国のHIV/エイズと保健分野におけるジェンダーの平等推進と女性の地位向上を支援しています。現職前はUNDPレソト事務所で2年間、同様の業務に従事していました。本稿ではUNDP本部とレソト事務所におけるHIV/エイズとジェンダーに基づく暴力に関する業務についてお話します。

HIV/エイズとジェンダーに基づく暴力の現状
HIV/エイズの蔓延とジェンダーの不平等は世界の開発問題として位置づけられています。特にサブサハラ・アフリカでは、HIV/エイズの拡大は開発成果を妨げる深刻な問題です。国連合同エイズ計画(UNAIDS)の報告によると、2011年末、サブサハラ・アフリカにおける成人の20人に1人はHIV/エイズに感染しており、そのうち56%は女性であると報告されています。HIV/エイズの患者や感染者への差別や偏見は未だに多く、特に女性や子どもなど社会的弱者においては最も深刻です。HIV/エイズ拡大の原因はジェンダー不平等にあるとされており、中でも、女性と子ども(特に少女)のHIV/エイズ患者・感染者に対するジェンダーに基づく暴力の被害は甚大です。そのため、HIV/エイズの蔓延防止とジェンダー平等の推進と女性の地位向上は8つあるミレニアム開発目標のうちの2つに掲げられております。女性や子ども、HIV/エイズの患者・感染者を暴力と人権侵害から守ることは急務です。

UNDP本部での取り組み
これらの状況に対処するため、私はUNDP本部で現在以下の3つの業務に従事しています :

1) 女子差別撤廃委員会へのHIV/エイズ項目検討のためのアドボカシー活動
2) HIV/エイズ、ジェンダーに基づく暴力防止への男性関与を促すプロジェクト推進
3) HIV/エイズ、ジェンダーに基づく暴力と弊害となる飲酒行為撲滅プロジェクト策定

女子差別撤廃委員会とは、女子差別撤廃条約(以下、CEDAW)の実施状況を監視するために設置された国連機関です。CEDAWは男女の完全な平等の達成に貢献することを目的としており、女性に対するあらゆる差別を撤廃することを基本理念としています。またCEDAWは国際人権法の基本条約6つのうちの1つでもあり、日本も1985年に締結しています。委員会は締結国からの報告を受け、女子差別に関するあらゆる項目を検討し、締結国に対して是正項目の提案・勧告を行います。この条約は女性の基本的人権を守る上で最も重要な国際法とされており、UNDPはこの委員会に対し、HIV/エイズに関する差別回避について活発な議論が行われるようアドボカシー活動を続けています。

2つ目は、HIV/エイズの蔓延とジェンダーに基づく暴力を防止するため、男性の積極的な関与を推進するグローバルプロジェクトです。ジェンダーに基づく暴力は女性だけの問題ではありません。男性や少年たちを暴力防止のためのパートナーとして位置づけることが重要です。このプロジェクトでは研修を通して、男性たちが積極的に関与するにはどのような政策が必要か、各国が既存の国家政策を精査し、今後取るべき行動について、アクションプランとして作成します。また研修後には参加国に対し、国別フォローアップを実施。これまで、延べ34か国・170人の政府・NGO・国連関係者が研修に参加してきました。UNDPでは現在、ナイジェリアとウクライナに対し国別サポートを実施しています。

3つ目は世界保健機構(WHO)との共同プロジェクトです。多量飲酒は本人の健康を害するだけでなく、周囲の人たちの健康にも悪影響を与えるというのは、一見当たり前の事実のようにも思えますが、HIV/エイズとジェンダーに基づく暴力について、飲酒の観点から取り組んだ事例は実はあまりありません。そこで本プロジェクトでは、各国のアルコール政策にHIV/エイズの蔓延防止とジェンダーに基づく暴力防止を盛り込むことを狙いとしています。現在、パイロット事例参加国を選抜中です。

UNDPレソト事務所での活動
レソト王国は四方を南アフリカ共和国に取り囲まれた人口220万人の小さな国です。国土全体が標高1500メートルを超えるため「天空の王国」と呼ばれています。レソトのHIV/エイズ感染率は世界で3番目に高く、成人(15歳~49歳)の23%がHIV/エイズに感染していると言われています。中でも、成人女性の26.7%はHIV/エイズ陽性とされており、成人男性の18%を大きく上回ります。また、レソトではジェンダーに基づく暴力も深刻で、2009年の調査では約37%の夫が妻に暴力行為をしたとされる回答結果が出ています。更に妻が性交渉を拒否した場合、約67%の男性が妻を脅してもよい、また、29%の男性が妻に性交渉を強要することを容認すると回答しています。

このような状況の中、レソト政府はHIV/エイズ患者・感染者の女性達の人権保護支援とジェンダーにも基づく暴力防止を重点施策の1つとしており、私は主にジェンダー省の暴力被害者救済センターの設立とHIV/エイズと共に生きる女性達のリーダーシップ向上研修の支援を行っていました。救済センターは「ワンストップセンター」と呼ばれ、ジェンダーに基づく暴力の被害者に対し、被害直後から総合的な支援をすることを目的としています。被害者は、HIV/エイズ検査を含む緊急医療、相談・カウンセリングなどの心理的支援、自立して生活するための職業訓練や警察への被害届及び告訴の手続きなど、様々な支援を必要としています。当時レソトにはそのような総合的な救済施設がなく、首都マセルにレソト初のセンターを設立することが切望されていました。また、HIV/エイズと共に生きる女性達が、偏見や差別、暴力を廃絶するための政策協議に積極的に参加出来るよう、リーダーシップ能力向上のための研修も行いました。「受益者という立場に甘んじることなく、自らが国家政策に提言できるよう、自分自身のリーダーシップ能力を向上させたい」と意気込む参加者の言葉が今も心に残っています。

世界では未だHIV/エイズ患者・感染者に対する偏見及び差別や暴力が続いていますが、様々な活動の積み重ねがHIV/エイズ患者・感染者を含む一人ひとりの基本的人権が尊重される社会への改革の一歩になることを信じ、試行錯誤しながら、今日も邁進しています。

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吉村麻美 (よしむら まみ)
UNDP本部開発政策局 Policy Analyst

日本アイ・ビー・エム株式会社、一般財団法人民際センターでの勤務を経て、2010年3月から2012年3月までUNDPレソト事務所にて勤務。2012年4月よりUNDP本部(開発政策局・エイズ、保健と開発グループ)にて、HIV/エイズとジェンダーに基づく暴力防止に関連するプロジェクトを担当。米国・ワシントン大学卒業(地理学部・国際開発学専攻)。カナダ・ウォータールー大学修士課程修了(地理学部・ジェンダーと開発学専攻)。ニューヨーク在住。

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