第19回UNDP邦人職員リレーエッセイ「開発現場から」 UNDPアフガニスタン事務所 境悠一郎さん

 カピサ州にて地方政府の担当者と同僚と道路建設プロジェクトの視察と進捗確認(2013年8月)

2013年10月31日

アフガニスタンは2001年のタリバン政権崩壊後、アフガニスタンの自立を目指す国際社会の多大な支援を受けてきました。その間インフラ整備(道路等)、教育の普及(就学人数が2001年の100万人以下から800万人に増加、女子の教育拡大)、保健医療(基礎医療を受けることが可能な国民の割合が2001年の8%から57%に増大、乳幼児死亡率が2003年の165人/1000人から77人/1000人に減少)等の面で大きな改善が見られました。その一方で、まだ世界でも最貧国の中の1つで、国連開発計画(UNDP)が発表する人間開発指数で2012年は187か国中175位となっています。また、タリバン等反政府武装勢力が影響力を拡大した地域も多く、治安情勢も改善が見られません。

こういった情勢の中、「治安が改善され、アフガニスタンが平和と復興を遂げるには反政府勢力との和解及びその構成員の社会への再統合が必要」との考えが、アフガニスタン政府と国際社会の間で有力になりました。アフガニスタン政府は2010年7月のカブール会議でアフガニスタン平和・再統合プログラム(Afghanistan Peace and Reintegration Programme = APRP)の設立を発表し、日本をはじめとする国際社会から支援表明を得ました。そして、アフガニスタン政府を代表し、和平交渉・合意を目指す高等和平評議会と再統合プログラムを実施する事務局(Joint Secretariat = JS)がアフガニスタン政府内に設置されました。APRPの主な目的は1)和平交渉と再統合に対する国民の信頼と参加を醸成する啓発活動、2)反政府戦闘員の動員解除、再統合と武器管理、3)再統合者の社会復帰を促す経済的支援、職業訓練、識字教育、生計支援プロジェクト、4)再統合者とコミュニティを対象とした開発・雇用創出プロジェクトの実施を行うことです。UNDPはJSを中心とする中央・地方政府や関連機関のプログラム実施能力開発及び実施支援を行っています。2010年にプログラムが立ち上がってからこれまでに7000人以上の元タリバン等反政府戦闘員が再統合に応じています。

私は本プログラムを支援するUNDPのプロジェクトでコミュニティ開発の分野を主に担当しています。再統合者を対象とした開発・雇用創出プロジェクトを通して戦闘を辞めて市民として普通の生活を始める元兵士が、限られた期間であれ、雇用機会や生計を立てる手段を得ることで社会復帰するのを促します。プロジェクトの種類は臨時雇用機会をつくり出す、洪水防御壁、学校、クリニック、井戸、道路、橋建設などのインフラ事業、道路補修、農業事業(森林再生、果樹園、冷蔵施設、灌漑用水路)、そして職業訓練等があります。また、対象を元兵士のみとすると、戦闘に参加していた者を優遇し、一般住民にとって不公平になるので、こういったプロジェクトは、平和の配当としてコミュニティの一般住民も対象になります。プロジェクトが政府機関によって実施されることで、元兵士と住民の政府に対する信頼を構築し、また元兵士が一般住民と隣で働き、一緒に職業訓練で勉強することで、コミュニティ内での和解を進めることも目的の1つです。

さて、再統合プログラムにおける開発・雇用創出プロジェクトの課題の1つはどうやって再統合者のための長期的または持続的な雇用機会を創出するかという点です。多くは一定期間の臨時雇用は生み出しますが、プロジェクトが終わってしまえば元兵士は雇用や生計手段を失い、一般市民として生活し、家族を養うすべを失い、反政府勢力への回帰を促すことにもなりかねません。そこで、APRPでは既存の省庁のプログラム等と連携することにより、中長期的な開発プロジェクトの活用をプログラムに組み込んでいます。例えば、公共事業省と連携した公共事業プログラムではカンダハール州、ナンガルハール州、ヘラート州等の8州で約1800人の元兵士とコミュニティの一般住民が道路整備・維持管理に従事しています。このプログラムの雇用はフルタイムで期間は1年単位なので臨時雇用よりは安定したものといえます。APRPではその他、農村復興開発省、農業灌漑牧畜省、そして労働社会福祉・殉教者障害者省と連携して開発・雇用機会創出プログラムを実施していますが、APRPがプログラムとして終了した後もこういった省庁・地方政府が再統合・平和構築に対する配慮を政策・プログラムに取り入れることによって、再統合者支援が続く体制の構築に取り組んでいます。その他、効果的な再統合に必要な持続的雇用機会を創出するには、民間も含めたより大きな労働市場との連携、また農産物の加工・流通事業やコミュニティが決めた事業を行うセンターの設立など事業完了後も雇用や生計手段の創出が見込まれるプロジェクト等が有効的です。

日本政府はアフガニスタン支援の目的を「アフガニスタンを自立させ、再びテロの温床としない」こととし、元タリバン等兵士の社会への再統合は、日本のアフガニスタン支援戦略の3本柱の1つとなっています。日本は元タリバン等兵士の再統合に関して、国際社会の議論を主導してきた経験があり、APRPに対し約5200万ドルを拠出し最大のドナーでもあります。また、2002年のアフガニスタン復興支援国際会議や2012年のアフガニスタンに関する東京会合など、アフガニスタンに関する国際会議を日本で開催し、政治分野の支援も行ってきました。2012年の東京会合では「変革の10年」(2015-2024)に向けて国際社会はアフガニスタンを見捨てず、自立を目指した支援を続けていくというメッセージが発信され、これはアフガニスタンの復興及び治安維持能力向上には支援の継続が必要不可欠という意味でも非常に重要なものでした。同時に国際社会の責任だけではなく、アフガニスタンが開発戦略を、透明性の中で実施する上での目標、指標が設定され、それを定期的に検証するメカニズムである東京フレームワークが創設されました。

ミレニアム開発目標(MDGs)の1つである極度の貧困状態(1日1ドル25セント未満)で暮らす人々の割合を1990年から2015年までに半減するという目標は達成されたと言われ(1990年の47%から2010年には22%)、世界銀行などの援助機関は新たに2030年までに極度の貧困の撲滅(極度の貧困率を2030年までに3%まで減らす)という目標を掲げました。こういった具体的な目標に対するコミットメントを世界で共有することは効果的です。貧困撲滅や所得以外の要素で測る貧困(教育、保健医療、仕事、食料、飲料水など)削減を考える時、今後課題の1つとなるのはアフガニスタンのような紛争国や脆弱国だと思います。また、今日の相互依存が深まった世界ではこういった国を支援し成長・開発に貢献することが、回り回って世界のため、そして日本のためにもなると思っています。

私はこういう考えもあり、平和構築に関わりたく、2007年から2011年までは西アフリカのUNDPシエラレオネ事務所で、政府の説明責任や透明性の向上を目指した「開かれた政府」プロジェクトや、国内人権委員会や公共放送局などの公共機関の設立を支援するプロジェクトを担当しました。現在はアフガニスタンで再統合が行われている地域においての持続的な生計手段の創出を目指しアフガン政府を支援するという目的に向けて、UNDPの一員として日々どのように貢献できるか考えながら仕事をしているところです。

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境 悠一郎(さかい ゆういちろう)
UNDPアフガニスタン事務所

アフガニスタン平和・再統合プログラム(APRP)プログラム・スペシャリスト。ウィスコンシン大学政治学・スペイン語専攻卒(2001)。商社勤務を経てアメリカ ン大学・国際開発マネージメント修士号取得(2007年)。UNDPシエラレオネ事務所ガバナンス部門(2007-2011年)。2011年から現職。

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