第2回UNDP邦人職員リレーエッセイ「開発現場から」 UNDPイラク事務所 半田滋さん

 イラク北部のスレマニアで円借款の新規事業サイトを視察


2011年12月26日

国連開発計画(UNDP)イラク事務所の半田滋です。国際協力銀行(現JICA)、民間企業を経て、2008年にUNDPに転職。イラク復興支援に関わり、4年が経過しました。イラクは長年に渡る戦争、経済制裁等で国際社会から隔離されていたことに加え、2003年以降は治安問題が復興の大きなボトルネックとなっています。イラク入りを始めた2008年当初と比較すれば、バグダッドで聞く爆破音は大幅に減少しましたが、2011年末には米軍が正式にイラクから撤退し、今後の状況はまだまだ不透明であることには変わりありません。現在でもバクダッドやバスラでは移動の際に防弾チョッキを着用し、事業実施サイトへはヘリコプターや軍隊の警護のもと移動する必要があり、安全には最大の配慮がなされています。

UNDPイラク事務所では、イラク国家開発計画と連動する形で、ガバナンスの強化、包括的経済開発、民間部門の活性化、環境、公共サービスの向上を柱に復興をサポートしています。私はイラク事務所所属ですが、隣国ヨルダンに駐在しイラクの復興支援に関わっています。イラクには毎月2度は出張し、極力現地でイラク政府や他国政府のカウンターパートと議論を交わす努力をしています。

UNDPイラク事務所での日本との連携
私は現在UNDPイラク事務所において、日本政府及び国際協力機構(JICA)との連携案件のチームリーダーと包括的経済開発、民間部門活性化部門のプログラムマネージャーを務めています。日本政府・JICAはイラク復興支援に中心的な役割を担い、日本との連携はイラクの復興支援を語る上では不可欠であり、本稿ではその日本との連携について触れます。

日本政府・JICAはイラク復興支援に対し約4000億円の円借款をコミット・実施しています。その円借款の事業が効果をもたらすことは当然ながら、手続きの透明性・資金の適正使用(アカウンタビリィー・汚職防止)を担保することも課題であり、日本側の関係者だけではそれを確保することに限界がありました。

そこで、イラク政府、日本側双方に対して中立性を保つことが出来る国際機関であるUNDPが円借款事業のモニタリングに参画することとなりました。モニタリングを効果的に行うために、色々な仕組みを開発する必要があり、そのため、日本政府・JICAとイラク政府及びUNDPは共同でイラク復興支援案件をモニタリングする特別委員会を設置し、UNDPはそのモニタリング会合を中立的な立場でサポートする役割を担っています。

四半期毎に開催されるモニタリング会合では、元石油大臣であるイラク首相府顧問が議長をつとめ、10以上の実施機関が一同に会し、案件の進捗の報告・確認を行っています。UNDPは各案件の進捗状況を第三者として日々モニタリングしつつ、問題分析を行い、改善策を提案しています。具体的には各案件の案件実施体制の妥当性や調達・資金管理のプロセスを定量分析し、プロセスに時間を要している場合は、原因となる課題を摘出、場合によってはイラク側、日本側双方にその改善を求めます。それがJICAの実施する研修につながり、UNDPが講師を務めることもあります。

このモニタリングプロセスを通じ、イラク側の実施機関・省庁の能力を向上、国際的な商慣行の導入を図ることを目指しています。イラクは長年海外からの投資が行われてきていないために、潜在的な市場価値は極めて高いのは周知の事実です。国際的な商慣行に準拠した調達や資金管理の能力を向上させることは、市場を整備し、他国の企業が参入する入り口となります。イラクでは日本企業への評価が高いことから、潜在的な市場への参入余地が広がると思われます。

本連携のきっかけは治安問題により現地での日々のモニタリングが困難であったことがきっかけですが、モニタリングはドナー国・UNDP双方の強みが活かされる案件だと感じています。紛争・脆弱国では治安問題により、現場に入るリスクがある中、UNDPは以前から培った人的資源が現場に存在します。円借款資金という国際的商慣行に準拠することが求められる資金が投入され、技術協力が提供される一方、UNDPはイラク政府との円借款実施案件に捉われない幅広いネットワークを活かし、現地スタッフを有効活用することで現場での案件の実施・促進を日々モニタリングするという相互補完の形をとっています。

また、モニタリングにはUNDPの第三者としての客観性・中立性が意味を持ち、ドナー国・イラク政府双方に対し改善点を提案し、個別実施機関への研修にとどまらず、複数の実施機関にまたがる共通の研修を行うことができます。更に、UNDPは他のドナーからも資金を受け、様々な案件を実施していることから、様々な他のドナー案件との橋渡しを提供することができ、イラク国内・他のドナー国への情報発信を強化する役割を担うことができます。

イラクでの連携は一つの事例にすぎません。私は国際機関UNDPに勤務するスタッフですが、同時に日本人です。UNDPで開発に携わりながらも、各関係機関の強みを活かし、相互補完し合えるプラットフォーム構築は非常に重要です。UNDPとしての客観性・現場力と相手国とのネットワーク・情報蓄積/発信力を活かしながらも、日本との連携を深め、被援助国の開発に相乗効果をもたらすプラットフォームを形成する、そんな案件を今度とも形成していくことができるように日々努力をしていきたいと思います。

2011年は幸運なことに、UNDP本部の対外関係・アドボカシー局に3か月出向の機会を得ました。本部で政策決定に微力ながら関与した際、現場での経験の重要性を改めて痛感すると共に、本部で個々の現場の経験をグローバルな政策レベルに反映させていくことの重要性を肌で感じました。これからも現場で地道に開発を支援し、あらゆる機会を捉えグローバルな政策レベルに関与した仕事ができるように日々精進していきたいと思います。一個人ですが、プラットフォームの創設に世界的に携わることが常に目標です。

※半田さんの日々の業務について、JICA広報誌「JICA's World」の2011年10月号でも紹介されています。こちらからご覧いただけます。

※半田さんが実務に携わるJICA-UNDPの業務協力協定は2011年12月に延長が決まりました。発表時のプレスリリースはこちらからご覧いただけます。

---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
半田 滋 (はんだ しげる) 
Team Leader, Loan Management
Program Manager, Inclusive Growth and Private Sector Development Sub-cluster 
Economic Recovery and Poverty Alleviation Cluster
UNDP イラク事務所 

1973年、大阪府大阪市生まれ。京都大学法学部卒。米国University of Southern CaliforniaでMaster of Public Administration、Master of Accounting(共に修士号)を取得。国際協力銀行(円借款担当。現JICA)、民間企業(ボストンコンサルティンググループ、ローソン/ナチュラルローソン)の勤務を経て、2008年からUNDPイラク事務所に勤務。 

UNDP Around the world

You are at UNDP Tokyo 代表事務所
Go to UNDPグローバル