第20回UNDP邦人職員リレーエッセイ「開発現場から」 ベトナム事務所 斉藤貢さん

 クイニョン市近郊のフーカット空港で開催された汚染土壌埋め立て処分場の竣工式。写真中央が筆者(2012年8月)

2013年12月13日

ベトナム戦争・・・枯葉剤・・・ダイオキシン
いきなり穏やかでない単語が並んでいますが、これは私が現在担当しているプロジェクトのキーワードです。地球環境ファシリティ(GEF)の資金提供を受け、国連開発計画(UNDP)はベトナムでダイオキシンに汚染されたホットスポットの環境修復を支援しています。私は、その業務のため、2010年12月からUNDPベトナム事務所でシニア・テクニカル・スペシャリストとして働いています。

ベトナム戦争時に旧南ベトナム政府の統治下だった中・南部ベトナムでは、1961から70年にかけて枯葉剤という化学物質が大量に散布されました。目的は2つで、森林を落葉させ敵のゲリラを上空から見つけることと、農作物を枯死させ食料供給を遮断することです。枯葉剤は一種の除草剤で、こういった目的の農薬は過去も現在も広く使われています。しかし、当時の技術でつくられたものは製造過程で有毒のダイオキシンが混入していました。ダイオキシンは化学的に安定した物質で、環境中に長期間残留し、生体内に蓄積・濃縮されやすい性質があります。

現在、中・南部ベトナムの環境(水・大気・土壌)中のダイオキシン濃度は徐々に低下していると考えられ、多くの地域で影響のない程度になっています。しかし、まだホットスポットと呼ばれる高濃度の汚染地域が各地に点在しています。それらは、主にベトナム国防軍基地内(戦争当時の米軍基地)にあり、貯蔵や輸送中に漏出したものと考えられています。

現在、ダイオキシンによる大規模汚染が3か所の基地で確認され、それ以外にも小規模な汚染が指摘されています。私の担当するプロジェクトでは昨年、その3か所の1つ、ベトナム中部のクイニョン市近郊のフーカット空港の除染活動を行いました。具体的には、遮水シートで作られた埋め立て処分場に汚染土壌を隔離し、兵士や近隣住民がダイオキシンに接触することがないようにしました。その他、将来的にダイオキシンの分解処理をすることを考慮し、ベトナムの状況に適した技術の実証試験を行っています。

タイ・・・モロッコ・・・ソロモン諸島
大学で建築工学を学び、エンジニアとして建設会社で働いていたころの私にとって、海外に行くこと自体ほとんど思いもよらないことでした。会社からバンコクにある系列会社への出向を命じられ、初めて乗った国際線は片道切符、海外生活について何も知らないままの赴任でした。

それでも帰任時には、またこの地で働きたいと思うほどに気に入ってしまい、そういえばバンコクには国連の機関がたくさんあるから、あの中に入ればまたここに戻って来られるかもしれないと思いつきました。そして、手始めに、国際協力の経験をしようと思い青年海外協力隊に参加しモロッコで廃棄物行政にかかわり、帰国後は大学院に入って環境工学を専攻しました。その後、南太平洋のソロモン諸島で初めてUNDPの仕事をする機会を得て、国連ボランティアとして環境プログラムを担当しました。

結果的に、地球を1周して、仏教、イスラム教、キリスト教という異なった文化圏での生活を経験し、またインドシナの地に戻って来て、現在に至ります。最初の動機が不純だったものの、今では国際協力の大切さや国連の存在意義などを認識しつつ日々の業務を行っています。ずっと昔にニュースで聞き、新聞で読んだベトナムの枯葉剤・ダイオキシン問題に今自分が携わっていると思うと、微力とはいえ解決に向けた貢献ができることにやりがいを感じています。

沖縄・・・水俣・・・福島
ベトナムのダイオキシン問題は決して単なる対岸の火事ではなく、日本の環境問題にも深くかかわっています。今回のプロジェクトによる調査で、軍事基地は何種類もの化学物質で複合汚染している実態が明らかになりました。近代戦においては次々と新しい戦略的化学物質が開発され配備されています。それが何らかの原因で環境中に放出される傾向は、現在の基地においてはますます強まっていると考えられます。沖縄の米軍基地や返還された土地でもそういった化学物質の保管や廃棄が報道されており、これらは将来的な汚染浄化の必要性を示唆しています。

また、日本の公害病問題は、ベトナムにとっても多くの教訓となっています。先日日本で開催された水銀に関する水俣条約の締結会議は、水俣病の教訓の上に化学物質管理の重要性を改めて訴えかけました。水俣病が発生したのは1950年代で、ベトナムの枯葉剤問題より古いのですが、今でも水俣病認定などを巡り訴訟が続き、完全解決には至っておりません。

土壌汚染の環境修復には様々な技術が開発され、提案されていますが、基本となるのは汚染された土壌そのものの撤去・隔離です。これは現在福島で実施されている除染と基本的に同じです。住民への健康影響、汚染の拡大防止、作業員の安全確保、処分施設の建設等々、ベトナムと日本で交流・交換ができる技術・ノウハウがたくさんあります。

最後に

2013年は日本ベトナム友好年(日本ベトナム外交関係樹立40周年)で、日本でも、ベトナムでも数多くの文化交流イベントが開催されました。これを機に、ベトナムに住む日本人が、現地の人たちとの相互理解を深め、結果的にベトナムが日本人にとってより住みよい国になっていくことが期待されます。同時に、ベトナムがベトナム人にとってより住みやすい国となるよう、引き続き日々できることを積み重ねていきたいと思います。

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斉藤貢(さいとう みつぐ)
UNDPベトナム事務所 持続可能な開発クラスター シニア・テクニカル・スペシャリスト

北海道大学出身。専門は環境工学・建築工学。(株)大林組、タイ大林への出向を経て、青年海外協力隊としてモロッコに派遣される。2006年からUNDPで勤務開始(ソロモン諸島、カンボジア、ベトナム)。