第22回UNDP邦人職員リレーエッセイ「開発現場から」 UNDP本部・危機予防復興局 馬目美奈子さん

 2008年の選挙後の暴動で避難し、その後政府から与えられた土地で新たに生活を始めようとしているケニアの元国内避難民(IDPs)の調査を実施した際の様子

2014年2月18日

「ヤギを買います!」。国連開発計画(UNDP)の支援による灌漑施設建設のための短期雇用で現金収入を手にしたケニア北部の遊牧民の女性たちに、使途を尋ねるとこう答えました。遊牧で暮らす彼女たちにとって、ヤギは唯一の財産であり、またそのヤギが子どもを産み、増えれば、女性たちは自らの子どもに譲ることができます。いわば銀行のようなものです。しかし、ケニア北部は度重なる旱魃で水が枯渇し、ヤギも安定した財産ではない状態でもあります。そこで2012年にケニアに出張し、グループでの現金貯蓄と遊牧以外の生計手段を多様化させる重要性を伝え、地元コミュニティによる貯蓄とビーズや蜂蜜などによる小さなビジネスの支援を始めてから1年後、その活動が4つのコミュニティで根付いて収入を生み出しているという報告を受けました。遊牧女性の姿を思い浮かべながらうれしく聞きました。

現在、UNDP本部・危機予防復興局の生計手段と経済復興(Livelihoods and Economic Recovery )グループに、生計手段・復興(Livelihoods and Recovery)アナリストとして勤務し、自然災害および紛争後にある国や地域の復興を支援する業務に携わっています。

Livelihoodsを日本語に訳すと「生計手段」になりますが、開発の文脈においては、技術や知識などの人間資源、水、エネルギーなどの基本インフラ資源、ネットワークや信頼関係を含むグループメンバーシップなどの社会資源、貯蓄や資金アクセスなどの金融資源、そして自然資源の5つの資源(キャピタル)によって成り立っていると考えられています。個人、世帯、コミュニティ(地域)がこの5つの資源を各々の能力を通して実現していくことが、持続可能なLivelihoodsにとって重要になります。

所属チームでは自然災害や紛争などの危機や危機後にある約40か国のUNDP国事務所へ、被害を受け、失われたLivelihoods の迅速な立て直し、国内避難民(IDPs)や帰還難民、元兵士のコミュニティ統合を通して早期復興を支援するための技術支援をしています。具体的には、インフラの修復や建設や瓦礫撤去をコミュニティ住民参加のもと実施する短期的な緊急雇用創出、ビジネススキルトレーニング、機材や助成金供与による中小企業の立ち上げやマイクロファイナンスや市場へのアクセス強化、また雇用政策へのリンクなど、短期的なものから中長期に渡る支援まで多岐に及びます*。その際、紹介されるLivelihoodsが防災や紛争予防の視点を持ったものであること、自然災害や紛争の被害を大きく受けやすい青少年、貧困層や女性など社会的に弱い立場にある人たちを支援の中心に据えることを大切にしています。たとえば、緊急雇用で再建する土手は今後の洪水に備えたものにし、中小企業の育成ではリサイクルや植林などの「緑の仕事」と呼ばれる分野を推進します。また、水などの自然資源における紛争を防止し、逆に民族間や国内避難民(IDPs)とホストコミュニティなどの社会統合を促進するようにデザインにします。

チームの中ではケニア、ウガンダ、ジンバブエ、モザンビーク、ヨルダン、パキスタン、太平洋諸島など、約10か国の担当国への技術支援のほか、国事務所へのガイダンスの作成や政策の実施サポート、パートナーシップの模索・強化などを行っています。たとえば昨年はヨルダン国事務所でシリア危機対応のサポートを行いました。現在シリア難民は250万人以上と言われ、ヨルダン、レバノン、トルコ、イラクなどの周辺国への負担も長期化しています。ヨルダンにいるシリア難民は57万人に達し、その7割がキャンプ外のホストコミュニティに暮らしているため、学校、水、ごみ処理などの基本サービスが逼迫し、同時に雇用マーケットでの苛烈な競争が生じています。結果、シリア難民とヨルダンコミュニティの間の緊張が高まっていることも危惧されています。

UNDPはホストコミュニティ支援の重要性に早くから着目し、日本政府からの400万米ドル(約3億6500万円)の支援を受けてホストコミュニティ、特に貧困層、女性および青少年への雇用創出および基本サービスを強化させるためのガバナンスへの支援を2013年より開始しました。ホストコミュニティ支援の重要性が国連だけでなくヨルダン政府やドナーからも認識されるようになると同時に調整の仕組みが必要となったことから、ホストコミュニティ・サポートプラットフォームと呼ばれる調整の仕組みの構築およびUNDPの新しいホストコミュニティプログラム立案のサポートを2か月間の出張を通して行いました。シリア危機の長期化が予想されることから、ホストコミュニティへのLivelihoodsおよびヨルダン政府への支援はヨルダンの安定にとってもますます重要になってくると思われます。

「文字を覚えて本当に夕焼けが美しいと思いました」。これは日本の識字学級で文字を覚え、70歳で初めて手紙を出した日本人女性の言葉ですが、私はこれが人間にとってのLivelihoodsを表しているように思います。文字が個と世界とのつながりを強める自己表現方法でありまたLivelihoodsの一部であるように、特に紛争や自然災害後においてはLivelihoods全体も個やコミュニティ、社会の可能性を引き出し、つながりを深めエンパワーメントする自己表現であり、その多角的なアプローチで復興に携われることにやりがいを感じています。

*UNDPは、「紛争後のLivelihoods、収入創出および統合のための国連政策」(2009年)のLivelihoodsの安定(トラックA)、中長期の地元経済の復興(トラックB)、長期の雇用創出と包括的な成長(トラックC)に合わせた3つのトラックによるアプローチを採用しています。詳しくはこちら(英語)から。

-------------
馬目美奈子
UNDP本部・危機予防復興局 生計手段・復興アナリスト(Livelihoods and Recovery Analyst)

NGO勤務およびUNDPネパール事務所平和構築オフィサー、UNICEF東ティモール緊急時の教育オフィサーを経て現職。教育学学士、教育学修士および戦後復興学修士。


UNDP Around the world

You are at UNDP Tokyo 代表事務所
Go to UNDPグローバル