UNDP邦人職員リレーエッセイ「開発現場から」第29回 UNDPイラク事務所 横井水穂さん

 クルド特別自治区エルビル県、ガワグロスク難民キャンプにて。シリア難民の子どもたちと横井さん。


2014年12月24日


「国連開発計画(UNDP)のここでの役割は何か」イラク・クルド特別自治区の州都・エルビルのきらびやかなショッピング・モールに足を踏み入れた時、ある種の戸惑いを感じました。深夜まで開いている何でも揃うスーパーマーケットや、おしゃれなカフェ。たくさんの高層ビルの建築が進行中で開発援助など要らないような発展振り。たった1軒ですが、夜景が素敵な日本料理レストランもあります。2013年5月にアフリカ南部の小国・マラウイから赴任してきた私は、軽いカルチャーショックを覚えました。

ただ、イラクやクルド地区の状況を知るにつれ、表面的な華やかさとは裏腹に、イラクが抱えている複雑な問題が浮かび上がってきました。女性はコミュニティの外にある学校にはなかなか行けないので、女性の非識字率が高いこと。地域によっては下水施設が皆無であること。オイルダラーで潤っているかと思いきや金融システムがとても脆弱なこと。クルド地区以外では、爆弾テロなども頻発し、治安の確保も積年の課題です。その上、イラク連邦政府とクルド自治区政府の微妙な政治関係は政策のあらゆる側面に影響しています。

赴任から3か月が経って、エルビルでの勤務も慣れてきた2013年8月、シリアからの難民が大勢イラクのクルド地区に流入しました。開発支援に重点をおいてきた各国連機関も人道・緊急支援にモードを切り替え、難民支援に従事しました。イラクに流入したシリア難民のほとんどがクルド人で、受け入れ側であるイラクのクルド政府、地元コミュニティからの難民支援はかなり手厚いものがあります。今でもシリア難民の60%近くが、難民キャンプではなく、地元コミュニティで生活をしています。クルド自治区に住む住民の多くが、サダム政権下、かつて自分たちも難民となって国外に逃げ、保護された経験があり、その時の恩返しをという気持ちもあるようです。

シリア難民の流入が止まり、人道支援から開発支援に重点を移行しようとしていた矢先、2014年6月にISIS(イスラム国)がイラク第2の都市であるモスルを攻撃し、50万人の国内避難民(IDPs)が一挙に発生しました。クルド地区内での治安は保たれていましたが、街中でも大勢の国内避難民を見かけるなど、一時は騒然とした雰囲気に包まれました。

UNDPは日本政府から2014年3月に200万ドルの支援を受け、中・長期的な視野にたった難民支援を展開しています。クルド特別自治区では、住民登録が認可されればシリア難民でも正規の職に就けるため、就活セミナーなどを含む職業訓練や地元の中小企業支援を通じた雇用促進などを目指しています。また、今年6月以降、増え続けている国内避難民の状況も考慮し、地元住民、シリア難民、国内避難民との対話の促進なども行っています。その他にも、国内避難民への緊急支援として、雇用創出プロジェクトやインフラ整備なども実施しています。

UNDPでは、「Resilience」を緊急・危機対応(Crisis-response) の重要な側面と位置づけ、今年7月に発表された人間開発報告書2014のテーマとしても取り上げました。シリア問題やイスラム国の武力支配が長引き、難民や国内避難民の帰還の先行きが見えない中、難民・避難民支援はもとより、地元住民や社会の脆弱性の削減と強靱性の構築が求められています。人道支援機関ではないUNDPが出来ることは何なのか。まだまだ模索は続いています。

そして、気がつけばUNDPに15年近く勤務している今「自分が出来ることは何なのか。」と考えることが多くなりました。3年前、大病をし、海外勤務が多い開発援助の仕事が続けられないかもしれないという状況になりましたが、幸い、職場の理解、サポートもあり、無事復帰できました。その時、改めて自分は開発の仕事が好きなんだなということを実感しました。UNDPでの仕事の醍醐味は、山あり、谷あり、笑いあり、涙あり(?)の仕事のなかで、いつも何か学べることがあることです。日々の仕事を通じて、自分も少しでも成長できればと思っています。

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横井水穂(よこい・みずほ)
明治大学政経学部政治学科卒業。アメリカ ミシガン州立大学 公共政策学修士号およびコロンビア大学にて国際関係学修士号を修得。

1998年、JPOとしてUNDPガーナ事務所にて赴任(ガバナンス担当)したのち、UNDP東京事務所、UNDPアフガニスタン事務所、UNDPマラウイ事務所にて勤務。2013年よりUNDPイラク・エルビル事務所(クルド特別区)にてProgramme Specialist として紛争・危機対応 を担当。

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