UNDP邦人職員リレーエッセイ「開発現場から」第32回 UNDPフィジー事務所 藤井明子さん

 日本政府拠出のフィジーのコミュニティー支援プロジェクトの村を視察する藤井副代表(右)

2015年8月21日

太平洋諸国と日本:

フィジーからバヌアツに向かう飛行機の中でこのエッセイを執筆しています。今年3月にサイクロン「パム」が同国に甚大な被害をもたらしました。それ以降、多くの時間をバヌアツの復興に充てていますが、太平洋諸国の自然災害はバヌアツに限ったことではありません。2013年にはマーシャル諸島北部地域における干ばつ、2014年にはトンガ王国のサイクロン「イアン」による被害など様々な自然災害に見舞われています。太平洋諸国では、自然災害の課題を同様に抱える日本の災害対策・支援に大きな期待が寄せています。

今年5月には福島県で第7回目の太平洋・島サミットが行われたのは日本の皆さんの記憶に新しいと思います。太平洋諸国と日本の繋がりは歴史的にも、分野的にも深く、広いものがあります。私は2012年に国連開発計画(UNDP)フィジー、マルチカントリー事務所に常駐副代表として着任しました。太平洋の島々を訪れるたびに太平洋諸国の人々と文化に強い親しみを感じることがよくあります。戦前、日本の委任統治領となったマーシャル諸島ではいろいろな生活の場面で、〝アミモノ(編み物)〟等の日本語に出くわします。他の太平洋諸国でも戦前から日本人移民、漁業関係者と交流が続いています。今後はそういった歴史的な繋がりにとどまらず、観光やビジネスを通した民間の繋がりが将来一層深まることがとても大切だと期待しています。サミットを通した外交上の関係向上が多岐に渡る日本と太平洋諸国の繋がりの強化に貢献することは、間違いありません。

太平洋諸国の多様性と共通点 
私はUNDPフィジー、マルチカントリー事務所が管轄する10か国のうち、9か国(パラオ、ミクロネシア連邦、マーシャル諸島、ナウル、ツバル、キリバス、バヌアツ、トンガ、フィジー)の常駐副代表を担っています。1つの事務所から複数の国を担当することは、至難の連続です。単純に各国に充てられる時間、資金、人材が少なくなることだけでなく、各国に異なる視点と戦略を持たなくてはならないことは、大きな課題です。 一言に太平洋諸国と言っても、それら1つひとつの国は実に多様です。民族では、ざっくり分けてもミクロネシア、ポリネシア、メラネシア系があり、さらに深く見れば1つの国の中でもバヌアツなど100以上の地方言語、独自の文化様式 があります。ナウルやツバルなど人口が1万人程度の極小国もあれば、フィジーのように88万人を超える国もあります。イギリスやフランスの統治を経験した国もあれば、トンガのように統治を経験せず王国が続いている国もあります。当然それらの国々が抱える開発課題はそのような文化的、歴史的、自然地理的な背景により様々に異なり、従って私たちの開発支援が効果的であるためには、地域の共通性と国々の特性を生かしたアプローチを取らなければなりません。

そんな中で有効なアプローチとして実践しているのが、共通点に着目した地域プロジェクトと、多様性を考慮した国別プロジェクトを効果的に組み合わせるという方法です。例えば太平洋諸国に共通の課題である気候変動や水問題について、地域プロジェクトの中で一同にトレーニングや知識・情報共有をすることは、有効です。一方、それらの共有された知識の効果的且つ効率的な実用のためには、国別プロジェクトが適切と言えます。なぜなら、能力、知識、情報の運用は良いガバナンスが存在することが前提で、ガバナンスを改善するにはそれぞれの国家レベルの多様な文化、システム、能力等に応じた個別の対応が必要だからです。

太平洋諸国における近代化と開発
太平洋諸国でUNDP職員として開発に携わる者として日々苦闘することが、近代化と持続可能な人間開発の調和です。UNDPが推進するのは人間開発であって、近代化そのものではありません。しかし、近代化の波は黙っていても押し寄せてきて、いわゆる近代的な基本的インフラや近代技術の発展は人間開発に多大に貢献します。ところが、それに付随する多くのマイナス要因は、太平洋諸国に大きな不安をもたらしています。先に述べた気候変動は、世界的な近代化のしわ寄せが太平洋諸国に集まっている顕著な例です。また、都市化に伴う若者の都市への流出、犯罪の増加、自然破壊、伝統的な歌やダンス、コミュニティの喪失など伝統的価値観と生き方の変化に、多くの人々が戸惑いを感じています。私も、毎日見る美しい島の夕日と散歩道のココナッツの木が無味乾燥なコンクリートの風景に変わるのかと思うと悲しくなります。簡単な解決法はありません。2000年から15年間の開発目標「ミレニアム開発目標(MDGs)」の後継となる「持続可能な開発目標(SDGs)」が今年9月の国連総会サミットで採択されようとしています。フィジーは今年、首相がグリーン・グロース(持続可能な成長)政策を発表しました。太平洋諸国にとって、今ほど開発の持続可能性が重要である時はありません。

美しい文化と自然が人間開発と共存できるよう、再生可能エネルギーの積極的な活用や若者に焦点を当てたオーガニック農業の促進など、国にあった具体的な支援を続けていきたいと思います。

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藤井明子(ふじい・あきこ)
UNDPフィジー、マルチカントリー事務所副代表

大阪外国語大学、京都大学大学院、英国サッセックス大学大学院卒業、NGO勤務を経て、UNDPパキスタン事務所にて勤務開始。UNDP東京事務所(現・駐日代表事務所)、スーダン事務所、ジャマイカ事務所を経て現職。

 

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