UNDP邦人職員リレーエッセイ「開発現場から」第33回 UNDP東ティモール事務所 石田裕一さん

 警察広報部に子ども向け交通安全の映像製作トレーニングを行う筆者(写真左から2番目)

2015年10月23日
初めて受けたTOEICの結果は260点。大学2年生の秋でした。

「I want」と「please」くらいしか知らなかった英語力から、僕の国連職員への道は始まりました。大学2年生から世界43か国を放浪し、出会った子どもたちが僕を変えてくれました。旅先でビールを片手に飲んでいる中、夜な夜な街灯の下で子どもたちが勉強している姿を目にし、日本という恵まれた環境で育ったのにもかかわらず、勉強というものを一切してこなかった自分に反省しました。その時から、劣悪な環境で暮らしている子どものための仕事がしたいと強く感じました。

僕は今、国連開発計画(UNDP)東ティモール事務所の民主的ガバナンス部の東ティモール国家警察能力向上プロジェクトでプログラムアナリストとして働いています。21世紀最初の独立国として、2002年に独立した同国では、ガバナンス・行政が特に大切だと言われています。各省庁や機関の行政運営能力がつけば、スムーズに開発を進めることができます。保健、教育、インフラ整備などすべては強いガバナンスの構築から始まります。また、紛争後の平和構築の過程を経て開発に移行するなかで、国内の治安維持は極めて重要です。紛争後の国家で、その大きな役割を担うのが警察です。

2006年の動乱後、2011年に治安維持の権限が「国連警察(United Nations Police: UNPOL)」から東ティモール国家警察に委譲されました。UNDPは2011年から2012年までUNPOLと協働で国家警察支援事業を行い、2013年より2015年末まで日本政府の支援も受けて、行政・管理能力に焦点を当てた「東ティモール国家警察能力向上事業」を行っています。本事業ではIT、人事、調達、広報、戦略計画、車両整備に関する支援をしています。例えば、人事分野で、公平な評価制度を作ったり、警察官に身分証を発行したり、IT分野ではウイルス対策、それから電子メールの使い方などを教えています。

私の肩書き「プログラムアナリスト」は、簡単にいうと何でも屋です。物資調達、採用、モニタリング評価、広報、そして警察官へ写真撮影や映像制作の技術指導もしています。今回は映像を使った業務に絞ってお話しします。私自身、映像系の学歴や職歴がある訳ではないのですが、もともと写真が好きで独学で学生時代から撮影を続けてきました。それが、開発業務でも大きく貢献できることがわかり、今は写真、映像を日々の仕事に組み込んでいます。

映像って、親切だと思うのです。100ページにもわたる英文の事業内容書を読んでもよく分からないことが、映像なら強い印象とともに3分間くらいで頭にスッと入ります。僕は英語のネイティブ・スピーカーでもないですし、いわゆる「英語ができない日本人」でした。英語で山積みにされた資料を3分読むだけでも眠気が襲ってきていました。そのときに「きっとカウンターパートもドナーの方も書類を読むのは苦痛だろう」と感じ、「映像でうまく伝えられる」「映像でしか伝えることができない」と感じるものがあると、映像制作に着手しました。例えば、UNDPの支援で能力強化した警察・広報で働く民間スタッフの「気持ち」や、警察内の自動車整備場で安全に対する意識の変化の「空気感」。文字では表現できず、数字で置き換えることのできない大切な要素を、掴みとって伝えていければ、と思っています。既存の事業評価の枠組では、1人のスタッフが成長したことが「1」という味気ない数字になってしまいますが、その数字の中には、その人の葛藤だったり、喜ぶ瞬間だったり、いくつもの美しいストーリーが詰まっています。そういったものは映像が伝えることができる大きなものだと信じています。

また、本人たちが「小さなこと」と思っている成功や意識変化を、「それはとても素晴らしい成果ですよ」と映像で伝えることによって、彼らの自信や誇りのスイッチを押してあげることができます。「ガバナンスを強化」するといっても、1人の意識変化や成長がない限り組織は強化されていきません。プロジェクトで政策や大きな組織変革に働きかけると同時に、映像を通じて、1人の小さな変化も大切に汲み取っていきたいと思っています。

僕は小さい頃から国連を目指していたとは言い難く、英語がまったくできなかった自分が国連機関で働くなんて想像すらできませんでした。大学生のときに世界を旅する楽しさを知り、世界は「ようこそ」と言いながら僕に新たなドアを開けてくれました。好奇心、探究心、創造性。これさえあればどこにだって行けるような気がしました。可能性は本当に無限に広がっていると思うので、とにかくそれを広げていく機会があればとことん試してきました。

大学を卒業してアフリカのガーナでバスケットボール隊員として参加した青年海外協力隊で身に付けたいくつものこと。例えば、何でも食べる〝技術〟、拙い現地語でもジョークを言える〝愛嬌〟、下手でも踊り続ける〝度胸〟、そういうものが国連職員として働く中でとても活きています。各国の事務所で働く場合、周囲のほとんどは現地のスタッフです。そうなると、現地のスタッフやカウンターパートと良好な関係が築けるかが極めて大切になります。いくら知識や経験を持っていたとしても、「あなたが嫌い」ということを言われ、全く仕事ができなくなる人もいます。泥まみれの、草の根の協力隊経験は、今でも僕の宝ものです。

協力隊を終えて、従業員10人という小規模の外資系石油関連専門商社で3年間働き、組織の中での仕事の仕方を一通り学び、ロータリー財団から奨学金を得て英国へ修士号を取得しに行きました。多様性の中で学ぶことで、国際機関で働きたいという思いが強くなり、国連ボランティア(UNV)へ応募しました。

2013年からUNVとしてUNDP東ティモール事務所で2年間働き、現職の警察事業に従事しながら、「平和構築」「気候変動」「ソーシャルビジネス(社会事業)」プロジェクトにも映像を通じて携わりました。そして、空席公募を通じて、今年5月に正規職員として採用されました。

まず片足を入れてなんでもやってみる。ということは大切で、UNVとして国連で働いた経験は、片足のつま先分しか開いていなかったドアを、大きく開き、国連職員となるきっかけになりました。与えられた仕事に満足するのではなく、自分しかできないことは何か、どうすれば期待以上の仕事ができるか、ということを常に意識してきました。

「答えのない問いについて考える」。UNVの任期が満了し、現職のポストを取るまで参加した外務省主催の6週間の平和構築事業で、国連の第一線で活躍してきた講師陣から、現場での交渉、葛藤、苦渋の決断などを聴きました。講師の方々が当時体験した事例を元に、研修生がそれぞれ各国連機関の代表の役割を与えられ、ロールプレイを行ったりするのが他の研修では味わえないユニークな点だと思います。研修を通じて、それぞれの機関が最善を尽くしながらもうまく事が進まないことが多く、正解のない問いに対して、諦めずに最善の策を考え続けることの重要性を学びました。

今自分が働きたいと思う場所で、自分が好きなことを仕事にできているのは、支えてくれるたくさんの人がいるからです。また、夢半ば開発の道を断念した友人たちの思いも背負ってここまで走ってきているので、この先も限られた自分の資源を最大限に使って完全燃焼できればと思います。

東ティモールが発展し、開発が進んで行くのにはまだまだ時間がかかりますが、この国には美しさが溢れています。生命力の強い南国特有の木々、絵葉書より綺麗な青いグラデーションの海、子どもの無邪気さ、人々明るさや笑顔の中に。その美しさを見ていると、常夏の照りつける太陽のようにキラキラとした、この国の将来への希望を感じます。

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石田裕一
UNDP東ティモール事務所 民主的ガバナンス部署 東ティモール国家警察能力向上事業 プログラムアナリスト

国士舘大学体育学部卒業。英国・イーストアングリア大学で教育開発学修士号取得。青年海外協力隊でガーナへ派遣される。外資系石油関連専門商社勤務を得て、国連ボランティアでUNDP東ティモール事務所へ。現職に至る。

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