UNDP邦人職員リレーエッセイ「開発現場から」第35回 UNDPコンゴ民主共和国事務所 槌谷恒孝さん

 2016年1月、9件のインフラ工事合同起工式で地元政府関係者と共に礎石を置く筆者(中央)

2016年2月26日

コンゴ民主共和国(旧ザイール)の首都キンサシャから北に約900㌔。南ウバンキ州にあるドンゴという川と森に囲まれた、水道も電気も通っていない人口約5000人の小さな町で2015 年8月から、国連開発計画(UNDP)のプロジェクトコーディネーターとして、そして町でたった一人の外国人として働いています。

コンゴ民主共和国はアフリカ中部に位置し、日本の6倍近い面積を持つ、アフリカでも2番目に大きな国です。森林面積世界第2位のコンゴ盆地、流域面積と流量がアマゾン川に次いで世界2位のコンゴ川、そして金、銅、ダイヤモンド、レアメタルといった豊富な鉱物資源など、天然資源に恵まれた国です。ところが鉱物資源の産出が紛争を生み、1996年以降の内戦では第二次世界大戦後最多とも言われる600万人以上が死亡しています。

この国の鉱物資源はルワンダやウガンダ等と接する東部地方に集中しており、武装勢力との内戦が続いているのもこの東部です。しかし、こういった鉱物資源とは別に、土地問題を発端とする民族間の紛争も随所で起こっています。南ウバンギ州でも2009年に地域住民同士での紛争が起き、国境を越えて約13万人が難民となりました。その後、2010年から国連難民高等弁務官(UNHCR)がこの地域で帰還支援を行い、一応は住民が故郷に戻ることが出来ました。しかし、地理的に孤立しているため政府の十分な介入もままならず、ドナーの支援も東部に集中しているため資金不足で、紛争の再発や貧困の悪化が危惧されています。女性、特に未成年女性への性暴力も顕著です。

UNDPは日本政府から支援を受け、2015年5月から当面1年間の計画で、この地域の支援に乗り出しています。日本政府は2009年の紛争発生後、UNHCRを通じた支援も積極的に行っており、この地域へ継続して支援している唯一のドナーです。そのため現地でも日の丸が描かれた建物を複数見ることができ、住民からも日本人は好意的に受け入れられています。

私が統括するプロジェクトでは、UNHCRの支援を引き継ぎ、人道支援から開発支援への移行を目指した包括的な活動を行っています。主な目標としては、1)元難民の人たちが帰還後継続的な収入を得る 2)法の支配の確立により、土地問題や性暴力といった紛争、犯罪が減り安定した社会となる 3)役所等の地元政府が住民登録、土地問題調停、弱者保護等のために機能する、の3点です。

住民の継続的な所得向上には、UNDPが開発した「3x6アプローチ」という手法が採られています。この手法では、紛争後に住民自身による地元の道路整備工事に対してUNDPが出資をし、給料を支払うことで一時的な雇用・収入を確保します。同時に参加住民には給料の半分を貯金してもらいます。工事終了後、希望者にはその貯金を用いてグループで出資してマイクロビジネスをはじめてもらい、そこにまたUNDPが資本金の出資、技術的支援をします。更にビジネスが軌道に乗り出したところでビジネス拡大のための支援を行います。この3つのステージを6つのステップに分けて進めることから「3x6アプローチ」と名づけられました。このアプローチのメリットは、住民自身が我が町のインフラ整備をすることにより主体性を育てます。紛争当事者が一緒に働いている間に平和構築や紛争解決、性暴力防止に関するセミナーを受け、関連知識やネットワークを持つことができる点です。更には貯金を使ってグループで起業することで、所得向上の成功率を高めています。

この他に、紛争解決のための調停組織となる「平和と開発のための委員会」を各村に設置し、この委員会が村や民族間の紛争が大きくなる前に防ぐことができるよう組織強化を行っています。

また、法の支配とは、法律の下、警察、裁判所、刑務所がきちんと機能し皆が法律を守る世界を目指すものですが、人口約40万人で長野県と同程度の面積を持つ地域に警察官は約140人しかおらず、装備も少なく、ほとんどの警察官が基礎研修すら受けていません。同地域全体をカバーする簡易裁判所には裁判官も1人しかおらず、マンゴーの木の下で裁判をしています。刑務所はベルギー植民地時代に建てられたものがほぼ廃墟となり、一部屋だけ留置所として使われています。そのためプロジェクトでは警察署、裁判所を建設し、刑務所は改築して100人は収容できるようにします。人々が安心して暮らせるよう、警察官、裁判所書記官、刑務所職員の研修をし、犯罪者が法律に基づいて逮捕され、公正に裁かれ、更正することを目指します。更に、森の中の村に住んでいる人が多いため、弁護士による無料出張法律相談所も各地に設置し、普段司法へのアクセスが全く無い人たちへの相談を受け付けます。

いわゆる町役場の設備も整え、出生届やさまざまな登録業務を可能にし、職員の研修も行うなど政府の能力強化も行っています。

このように、紛争後の脆弱なコミュニティの強靭性強化には様々な面からの支援が必要であり、この一つひとつの活動が一つのプロジェクトになるくらい多岐に渡る項目をカバーするプロジェクトです。

アフリカで働いてもうすぐ10年になりますが、今までのどの任地よりもハードな環境です。水は水源からポリタンクで運んでもらって水浴びをしています。電気は発電機を利用しており、ガソリン代節約と発電機を休ませるため、夜中は停めます。主だった野菜は玉ねぎとプチトマトとネギ、ニンニク程度しかありません。現地の人はヤムイモとその葉が主食です。一番近い都市に買い物に行くには片道8時間かかります。舗装はもちろんなく、雨季は車が泥にはまって更に時間がかかります。

また、ずっと人道支援のみに頼ってきたコミュニティの自立と持続可能な発展を目指すための非常に重要な役割を担い、試行錯誤の毎日でもあります。しかし、UNHCRとUNDPとの協力関係の下、長期化している紛争地域に対するコミュニティ支援や、人道支援から開発支援への移行期間のモデルケースともなり得るような案件でもあるため、やりがいがあります。

今年は、日本政府が主催し、UNDP等が共催する第6回アフリカ開発会議(TICAD VI)が初めてアフリカの地で開催される年です。私は前回のTICAD Vの時は国連世界食糧計画(WFP)日本事務所のコンサルタントとして会場の横浜で、日本政府の紛争後の復興や紛争予防への取り組みの決意を耳にしました。今こうして一人の日本人としてアフリカの復興や、紛争予防に微力ながら貢献できることは嬉しく思います。アフリカで働く、まだ多くはない日本人の仲間とともに、今年のTICADに向けて少しでも明るい材料を提供できればと思いながら、日々仕事をしています。

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槌谷恒孝(つちやつねたか)
UNDPコンゴ民主共和国事務所、開発計画・包括的成長促進・天然資源管理ユニット「南ウバンギ州紛争地コミュニティの安定化・再統合のための緊急対応プロジェクト」コーディネーター

南山大学文学部卒業、名古屋大学大学院、英国マンチェスター大学にて国際開発学修士号取得。青年海外協力隊(ブルキナファソ)を経て、商社勤務にてアルジェリア駐在。その後JICAアフリカ部特別嘱託、コンゴ民主共和国事務所企画調査員、WFP東京事務所コンサルタント、UNDPコンゴ民主共和国警察改革プロジェクトマネージャーを経て現職。

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