UNDP邦人職員リレー・エッセイ「開発現場から」第44回 モルディブ国連常駐調整官兼国連開発計画(UNDP)常駐代表 野田章子さん

 「小学生の頃は、男の子たちと木に登って先生に叱られていた」と語る筆者(左から三番目)

2018年3月8日

女性の社会進出、「価値観」の変革が不可欠

モルディブ共和国の国連代表に就任し、3年半が経過した。モルディブと日本は同じ島国とはいえ、文化も宗教もかなり異なるが、女性の社会進出の遅れという共通点がある。2014年のモルディブの国勢調査によると、女性は中等教育で男性より良い成績を修めているにも関わらず、有償労働をする生産年齢の女性は半数以下だ。国会や地方議会での女性議員の割合は7%にも届かない。地方コミュニティ、若手活動家等との会議でも男性が大半を占め、特に若い女性の参加機会は非常に限られている。国民の100%がイスラム教徒の同国において、女性の社会進出やエンパワーメントを促進しようとすると決まって障壁となるのが「(女性はこうあるべきという)伝統的な価値観」だ。

この問題は決して他人ごとではない。私自身「伝統的な価値観」に苦しんだ1人だ。学童期のわずかな期間だが、私は通信簿の「態度」覧にCをつけられた。先生や級友に意見をはっきり言い、男児に混ざって木登りを楽しむような私に対し、担任教員は「女の子らしさがない」と評価を下した。大学院卒業後、入社した大手企業で上司の開口一番は「結婚しても仕事を続けるつもりですか」だった。男性社員が同じ質問を受けることはなかった 。男女雇用機会均等法公布から既に10年を迎えていたが、女性が毎朝、男性にお茶を入れる慣習も残っていた。私もその役目を担い、半年後、勇気を振り絞ってこの習慣を止めるように提案をしたところ、表面上は特に反論する人はおらず、終止符を打つことができた。

社会人2年目で、夢だった国連の仕事への切符をつかんだ。開発途上国での勤務に不安はあったが、日本にいるよりも、多くの女性職員が活躍する国連の方が自分の能力を活かせるはずだと信じ、内戦直後のタジキスタンに赴任した。それから20年、世界各地を転々とし、苦労が無かった訳ではないが、女性が活躍できる環境は非常に有り難い。国連は国籍、価値観、ライフスタイルも多様で、それを尊重する文化がある。男性と同じように働くのではなく、女性という自分を受け入れ、女性ならではの持ち味を生かして働き、チームを引っ張るリーダーシップのあり方も学んだ。

世界的に見ても、人類の半数を占める女性たちが潜在的才能を開花する機会を与えられれば、大きなプラス作用がある。国際労働機関(ILO)によると、男女の雇用格差を減少させることによって、新たに1.6兆円を全世界で生み出すことができる。

今でも時々、小学生の頃の担任教員や、社会人1年目で出会った上司を思い出し、今の私を彼らはどう思うのだろうかと考えることがある。あの頃はどうしてこのような扱いを受けるのだろうと不遇を嘆き 、女性への一定の役割や期待に見合うように生きる選択を迫る社会を窮屈に感じていた。男女雇用機会均等法のような法律が整備された環境の中でも、固定観念や伝統的な規範が変わらない限り、真の意味での女性の自立、活躍には中々つながらない。

インド洋を超えても女性の前に立ちはばかる壁を打ち破る難しさを目のあたりにする毎日だが、現在、地元政府や地域コミュニティと協力しながら、女性が持つ権利の教育、女性リーダーやロールモデルの育成、女性達のプラットフォーム形成などに取り組む。地元の中学を訪ねた際には、女子生徒達が将来について、大臣、政治家、ホテルのマネージャーといった各々の夢を語る姿を見ると心強くなる。日本の少女たちもモルディブの少女に負けないくらい、大きな夢を描いているのだろうか。少女達が大志を抱ける、そんな世界、社会文化的価値をつくっていくのが今を生きる私達の大切な役目だ。

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野田章子(のだ・しょうこ)

モルディブ国連常駐調整官兼国連開発計画(UNDP)常駐代表。UNDPモンゴル事務所常駐副代表、同ネパール事務所長等を経て2014年より現職。

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