よくあるご質問:多次元貧困指数(MPI)とは


・多次元貧困指数(MPI)とはなにか?

多次元貧困指数(MPI)とは、社会で最も恵まれない人々がさまざまな種類の貧困に苦しめられている実態を浮き彫りにするために導入された、新しい指標である。MPIは、人が同時にいくつの種類の貧困に直面しているかを明らかにすることにより、多次元貧困の発生率とその強度の両方を映し出す。貧困状態で生きている人々の実態の全体像を描き出すために活用することができ、国家間や地域間、国内の民族間、都市・農村間、さらには、そのほかの主要な世帯やコミュニティの分類カテゴリー間の比較もおこなうことができる。MPIは、最近の理論とデータの進歩を土台に、この種のグローバルな指標としてはじめて考案されたものであり、所得をもっぱらの基準とする貧困の指標を補完する貴重な指標と言える。2011年版人間開発報告書では、世界の109か国、人口にして55億人(世界の総人口の79%に相当)を対象に、MPIの値を推計した。それによると、2000~2010年に多次元貧困状態にあったのは対象国全体で約16億人(対象国の総人口のおよそ3分の1)である。

・具体的には、MPIはなにを数値化する指標なのか?
2011年版人間開発報告書でも述べているように、MPIは、保健、教育、所得という人間開発指数(HDI)の3つの要素に関して、世帯レベルで複数の形態の貧困がどの程度重なり合っているかを表す指標であり、多次元貧困状態にある人の割合、および多次元貧困状態にある世帯が直面している貧困の深刻さを映し出すものである。詳細は、Alkire and Santos 2010を参照。

・なぜ、以前の人間開発報告書で採用されていた人間貧困指数(HPI)より、MPIのほうが優れているのか?
MPIは、1997年以降発表されていた人間貧困指数(HPI)に代わって採用された指標である。HPIは、それぞれの国の平均値によって、保健、教育、所得の3側面における総体的な貧困状態を描き出す指標で、導入された当時は画期的なものだった。しかし、特定の個人、世帯、その他の集団の多次元的な貧困状態を把握することができないという欠点があった。この問題を克服するために、MPIにおいては、多次元貧困状態にある人の割合(発生率)および、その人たちが直面している貧困形態の平均数(強度)をとらえるものとした。また、MPIにおいては、多次元貧困を構成する貧困形態の内訳も把握することができるので、地域や民族などによって多次元貧困の構成要素がどのように異なるかを知ることができる。その意味において、政策を立案するうえで有用性が高い。

・ある世帯が「多次元」貧困状態にあると認定されるのは、どのような条件を満たす場合なのか?
1つの種類の貧困形態に直面しているだけでは、「多次元貧困」状態にあるとは言えない。同時に複数の指標で貧困に該当する世帯が「多次元貧困」状態にあると認定される。具体的には、すべての構成指標の貧困度の加重平均が33.3%を上回る場合に、その世帯とその世帯の構成員すべてが「多次元貧困」状態にあると位置づけられる。

・なぜ、構成指標に所得面の指標が含まれていないのか?

所得の要素を含めることができなかったのは、データの制約が原因である。所得に関するデータは複数の調査結果から入手せざるをえないが、そのような調査のなかには、保健と栄養に関する情報を含んでいないものが少なくない。その結果、ほとんどの国において、ある人が保健と教育の側面と所得の側面で同時に貧困状態にあるかどうかを判断することが不可能なので、所得の要素を除外せざるをえなかった。

・なぜ、エンパワーメントの要素が含まれていないのか?

エンパワーメントの要素を含めることができなかったのは、データの制約が原因である。人口保健調査(DHS)は、すべての国について女性のエンパワーメントの状況を調べているわけではなく、そのほかの調査もその種のデータは集めていない。また、男性のエンパワーメント、および政治的自由に関するデータも欠けている。

・MPIの算出に当たっては、どのようなデータを用いているのか?

MPIは、ほとんどの途上国の国家間比較が可能な3つの主要な公開データベースに依拠している。人口保健調査(DHS)、複数指標クラスター調査(MICS)、世界保健調査(WHS)である。それぞれの国に関して、どのデータベースを用いたかは、以下の一覧表を参照。

・2011年版のMPIの推計値が109か国についてしか算出できなかったのは、どうしてなのか?
109か国以外の国々のMPI値を推計できなかったのは、データの制約が原因である。109か国以外の途上国に関しては、MPIを構成する各指標について国際比較可能なデータを入手することができなかった。

・MPIの算出に用いるデータの基準年が国によってまちまちなのは、どうしてなのか? 異なる年のデータに基づいて国家間の比較をおこなうのは、フェアでないのではないか?
MPIは、2000年以降の入手可能な最新のデータに基づいている。しかし、調査の実施年はまちまちで、最近のデータがない国もある。109か国のうちで、82か国のデータは2005年以降のもの、21か国のデータは2003年もしくは2004年のもの、6か国のデータは2000~2002年のものである。データの基準年が一様でないため、その時差の間に状況が改善したり悪化したりする余地があることを考えると、単純な国家間比較には限界がある。

・MPIに基づく貧困者の対総人口比と、1日当たりの所得が1.25ドル未満の所得貧困の基準による貧困者の対総人口比の間に大きなずれがある国が多いのは、なぜか?

MPIは、所得を基準とする貧困指標を補完する目的で考案されたもので、さまざまな形態の貧困を直接数値化する指標である。MPIに基づく多次元貧困と1日当たり1.25ドルを基準とする所得貧困の間には、概して明確な関連性が見て取れるものの、両者の間にずれがある国も多い。その原因はさらなる検討課題であるが、可能性としては、国による公共サービスの違い、所得を良好な栄養状態などの成果に転換する能力の違いなどを挙げることができる。

・一部の国で、MPIの値が国の貧困指標の値より高いのは、なぜか?
1日当たり1.25ドルを基準とする所得貧困の指標と同様、MPIは国家間比較を前提とする貧困指標である。そのような性格上、多くの国で入手可能なデータしか用いていない。それに対して、国の貧困指標はたいてい金銭指標であり、MPIとは映し出すものが違う。MPIと国の貧困指標の間にずれがあるからといって、このいずれかが間違っているということにはならない。両者が把握しようとしている貧困の概念が異なるだけのことである。また、国の貧困指標が1日当たり1.25ドルのグローバルな指標より的確にその国の状況を描き出すことを目的としており、1日当たり1.25ドルの指標と異なる有益な情報をもたらすのと同じように、MPIを補完するために、その国の状況に合わせた独自の多次元貧困の指標を考案したいと考える国もあるかもしれない。

・ミレニアム開発目標(MDGs)などの国際的な取組みでは、1日当たり1.25ドル未満の所得貧困の基準が広く用いられている。MPIは、それにとって代わることを意図したものなのか?
そうではない。MPIは、1日当たり1.25ドルの所得貧困の指標をはじめとする金銭的な貧困指標を補完することを目的としている。これらの指標との関係、政策上の意味合い、方法論の改善点は、今後の研究課題である。

・MPIは、政策に対してどのような意味をもつのか?
MPIの方法論は、貧困層がどのような貧困の形態に直面しているのかを浮き彫りにし、さまざまな貧困形態の間の関連性を明らかにするうえで有益である。これらの点について理解が深まれば、政策担当者は効率的に資源を活用し、政策を設計することが可能になる。どの地域や集団が重度の貧困に直面しているかがMPIを通じて把握できれば、その効用はとりわけ大きい。2011年版人間開発報告書で取り上げたメキシコの貧困削減プログラムは、政府がMPIの方法論を有効に活用した一例である。

・MPIは「深刻(acute)」な貧困を把握するための指標だとされている。これは「極度(extreme)」の貧困とは別の概念なのか?
MPIは、人々が同時に複数の形態の深刻な貧困に直面している状況に光を当てるための指標であり、途上国の国家間比較が可能なように設計されているという性格上、開発レベルが低い国の状況ほど的確に描き出すことができる。本報告書でMPIの把握対象に関して「深刻(acute)」な貧困という表現を用いたのは、1日当たり所得1.25ドル未満の状態を表現するために世界銀行が使用している「極度(extreme)」の貧困という用語との混同を避けるためである。

・MPIの値とあわせて発表されているさまざまな値は、どのように解釈すべきなのか?
MPIは、いくつかの貧困関連の指標によって構成されている。その個々の指標に着目して、国家間や地域間、国内の民族間、都市・農村間、さらには、そのほかの主要な世帯やコミュニティの分類カテゴリー間の比較もおこなうことができる。MPIは貧困の実態を映し出す高解像度レンズであると、「オックスフォード人間開発・貧困イニシアティブ(OPHI)」が呼ぶ理由はこの点にある。MPIは、どのような形態の貧困が最も多いかを割り出すための分析ツールとして用いることができるのである。MPIを構成する指標は、以下のとおりである。

貧困率:MPIの基準(諸指数の加重平均が33.3%以上)によって貧困とみなされる人が人口全体に占める割合。

貧困の平均強度:人々が同時に直面している貧困形態の数の平均値。

MPI値:MPI値は、複数の貧困形態に関する情報を1つの数値に集約した値である。具体的には、貧困率と貧困の平均強度を掛け合わせることによって算出する。

・MPIとミレニアム開発目標(MDGs)の関係は、どうなっているのか?

国際比較可能なデータが入手可能な範囲で、MPIの指標はMDGsの指標に準拠している。MPIの10種の指標は、MDGsの指標と同一、もしくはそれに対応している。栄養(MDG1)、子どもの死(MDG4)、水道(MDG7)、衛生設備(MDG7)、料理用燃料(MDG7)という具合である。一般には、個々の貧困形態の状況がばらばらに示されるケースが多いが、MPIは構成要素ごとに分解することができるので、世帯やコミュニティでさまざまな形態の貧困がどのように重なり合っているかを浮き彫りにすることが可能となる。この点で、どこに課題が存在し、どの点を是正する必要があるのかを政策立案者が把握するうえで有用である。

・MPIには、主としてどのような限界があるのか?
MPIには、主としてデータの制約により、いくつかの欠点がある。第1に、MPIを構成する指標には、アウトプット(就学年数など)とインプット(料理用燃料など)の両方が含まれており、さらには、ストックのデータ(子どもの死亡率。このデータでは、最近死亡した場合も、昔に死亡した場合も区別されない)も1つ含まれている。これは、すべての側面に関して同じタイプのデータを入手できないことが原因である。第2に、保健面のデータが比較的手薄で、一部の集団の貧困状態、とりわけ栄養面に関するデータが十分でない。もっとも、入手できるデータによって描き出されるパターンには信憑性があり、違和感をいだかせるようなものではない。第3に、一部のケースでは、データの欠落に対処するうえで慎重な判断が求められる。とはいえ、MPIにおける多次元貧困の判定は、その世帯が生活水準に関する指標の6つ以上で貧困状態にあるか、あるいは、生活水準の指標の3つ以上に加えて、保健もしくは教育の指標の1つ以上で貧困状態にあることを基準としている。このような基準を採用しているので、MPIの値は些細な不正確さの影響を受けにくい。第4に、世帯内に深刻な不平等が存在しているとしても、それはMPIの値に反映されない。第5に、MPIは貧困者の数だけでなく、貧困の強度も把握する指標ではあるが、貧困層内の格差は描き出すことができない。ただし、指標を国内の集団ごとに分解して検討すれば、集団間の格差は見て取ることができる。第6に、MPIの推計値は公開データに基づくものであり、データの期間に2000~2010年の範囲でばらつきがあるので、国家間の単純な比較には限界がある。

・MPIのアプローチは、国レベルでどのような有用性があるのか?

それぞれの国において意味のある指数や加重方法を用いれば、MPIのアプローチは、各国が独自の貧困指標をつくり出す手段として利用することができる。MPIは、各国政府がその国の複数の指数とデータを反映させた貧困指標を考案するうえでの道標となりうる。たとえばメキシコは2009年、世界ではじめて、世帯レベルの複数の貧困を描き出す多次元貧困の指標を採用した。

・MPIの構成指標は、国レベルでも用いることができるのか?
それは可能である。グローバルなMPIの推計値は、国際比較を可能なものにするという目的に適した指数や加重方法を用いなければならないという点において、制約を受けている。それと異なり、国レベルではその国特有のデータや指数を採用することを妨げる理由がないので、むしろ、その国の貧困の状況をいっそう詳細に描き出すことができる。

・MPIは、国レベルの貧困削減戦略でも活用することができるのか?

活用可能である。MPIの方法論は、その国の文化、経済、気候、その他の要因を反映した国単位の多次元貧困指標を考案するために修正して用いることが可能であり、実際、適宜必要な修正を加えるべきである。MPIは、あくまでも国家間の比較をおこなうための分析ツールとして開発されたものだからである。

・MPIは、時間の経過にともなう状況の変化にどう対処しているのか?
本報告書では、適切なデータが入手できたいくつかの国について、MPI値の時系列変化を推計し、トレンドの分析をおこなっている。詳しくは、Alkire and Santos 2010参照

・MPIは、突発的な重大事態の影響にどう対処しているのか?

突発的な重大事態の影響を把握することは、いかなる貧困指標においても難しい。グローバルな指数を算出するために用いられる標準的な調査データは、頻繁には収集されていないので、入手可能なデータによって変化を把握することには限界がある。その事態の影響により、たとえば子どもたちが小学校に通わなくなったり、子どもたちの栄養状態が悪化したりするという結果が生じてはじめて、突発的な重大事態の影響がMPI値に反映されるのである。国レベルや、国内の地域レベルでもっと頻繁にデータが入手できるようになれば、経済的な突発的事態やその他の突発的事態の影響をもっと把握しやすくなるだろう。

・MPIは、グローバルな人間開発報告書で今後も恒久的に掲載され続けるのか?
MPIは、2010年版の人間開発報告書で、不平等調整済み人間開発指数(IHDI)およびジェンダー不平等指数(GII)とともに試験的に導入された指標である。今後は、寄せられる意見、さらにはデータの入手可能性を考慮して、改定・改善を加えていくことになる。また、人間開発報告書では毎年、データが入手可能な限り、推計値を更新していく予定である。

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