HIV/エイズと共に生きる人々の生活改善―太平洋地域

J* がHIVの感染を知ったのは、妊婦健診で診療所を訪れたときのことでした。Jはフィージーの村に帰り、自分の母親にそのことを話しました。するとHIV/エイズを恥とみなす母親は娘を拒絶し、Jはやがてそれまで暮らしていたコミュニティからも、自分の家からも出ていかなければなりませんでした。遠く離れたいとこの家に身を寄せたものの、恥ずかしさと絶望に打ちひしがれて、周囲の人の目に怯えるようになり、医療従事者を寄せつけなくなりました。

太平洋諸島諸国ではHIV/エイズはそれほど広がりを見せていませんが、恥ととらえる気持ちと差別によって、効果的な対応が阻害されています。そのために、HIVと共に生きる人たちが人権侵害を受けるリスクが高まっています。太平洋諸島諸国には、いまだにHIV/エイズに関連した数多くの刑罰を科す法律があり、それが社会的不名誉の観念を強固なものにし、HIV/エイズ医療サービスの利用を妨げる要因となっています。

こうした問題に対応するために、国連開発計画(UNDP)はオーストラリアとニュージーランドをはじめとする国際的ドナーと、地域機関、政府、市民社会と協力して、太平洋諸島諸国でHIVと共に生きる人たちにとって、より安全で保護された環境をつくり、彼らがHIV/エイズの優れた医療を受けられるよう取り組みます。プログラムはまず法的調査を実施し、太平洋諸島諸国15か国の法律がHIV感染者にどのような影響を与えているかを入念に調べました。また、これらの国で人権に基づいた法改革を推進する方策や、地域で優れた取り組みを促していく方法も模索しました。調査結果を踏まえて、このイニシアティブでは各国の保健衛生大臣および法務長官と協力して、宗教指導者と活動家に接触し、売春婦、男性同性愛者やトランスジェンダーの人々、身体障害者やHIV感染者など社会的に疎外され周辺に追いやられたコミュニティに手を差し伸べはじめました。

結果、フィージーは2009年に刑法から差別的な「ソドミー法」を削除し、同年、人権に準拠したHIV/エイズ法制定のためUNDPに支援を要請しました。そして2011年、フィージー政府はこうした基準に合致した法律を施行しました。ところが最終段階で、人権の原則に反する二つの条文が追加されました。一つは「故意による」HIV感染を刑法上の罪とするもので、これによりフィージーへの入国、滞在、居住を希望する人々に対するHIV/エイズ関連の制約を残すものとなりました。2011年7月にさらに啓発活動をしたことで、2011年8月には法が修正されてこれらの条項は削除されました。

太平洋諸島諸国はここ数年の間に、政府、市民社会、HIV感染者ネットワークを交えた建設的な取り組みをし、HIV/エイズに効果的に対応するための人権の大切さを認識しつつあります。UNDPは現在、クック諸島、キリバス、ソロモン諸島、ツバル、バヌアツでHIV法改正の取り組みを支援しています。

Jは少し前に生まれ故郷の村に戻り、コミュニティに受け入れられました。

「私が自信と力をもう一度取り戻すには時間がかかりました。実際には、ほかの人たちが怖がっていたのと同じくらい、私も怖かったのです」と、Jは最近のインタビューで語っています。彼女はHIV感染者ネットワークに加わり、治療を受け、HIV/エイズの援護者になりました。

「私は彼らのもとに戻らなければならないと感じました。それは抑止できない思いで、私たちは力を合わせることで、より強くなっています」

*個人情報保護のため実名を記載せず、Jとさせていただいています。

出典:UNDP年次報告書2011/2012

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