逆境を機会に。ビジネスで広がる将来への夢 (ウガンダ・南スーダン難民居住区)

「支援のおかげで学校への道路をつくり、新たなビジネスもできるようになりました」と話す南スーダン難民のプリさん

「私は2017年からここウガンダの難民居住区に住んでいますが、生活は未だとても厳しい状況です。特に最近まで、居住区から地域の学校や病院などに直結する道がなく、子どもたちは通学すら難しかったのです。」こう語るのは、南スーダン・ウド(Wudu)出身の四児の母、プリ・ボジョさん。「でも、支援を受けて、この難民居住区から地域の中心部に直結する道をつくることができ、子どもたちが学校に通いやすくなりました。」

プリさんは2017年にシーツと服だけを持って南スーダンから避難してきました。政情悪化に伴い、特に2016年から2018年の間、多くの南スーダン人が隣国のウガンダに避難しましたが、その多くは未だウガンダ国内の難民居住区で生活しています。ウガンダが受け入れている難民の数は120万人以上(2019年2月UNHCR調べ)にのぼりますが、そのうち80万人以上が南スーダンからの難民です。プリさんのようにモヨ県のパロリニャ難民居住区で暮らす難民は、およそ12万人もいます。

ウガンダは難民の権利に関する法整備が最も進んでいる国の一つですが、ホスト・コミュニティと呼ばれる難民受け入れ地域では、多くの難民の流入で地域社会の負担が増し、衝突することもあります。難民とホスト・コミュニティ両方への支援が求められています。

国連開発計画(UNDP)は2018年4月から北西部の三県にて、日本政府の資金拠出を得て、難民と難民受け入れ地域の住民に対し、長期的な生計向上・地方行政の能力強化支援事業を他機関と連携して実施してきました。支援対象者が自分たちの生活にとって最も必要であると判断したものを提供するこうした支援は、主体的な行動を促進するものです。

この事業では一時的な雇用機会の提供も行っています。難民と受け入れ地域住民両方の代表者、地元行政などの関係者などが議論を重ね、道路整備、トイレの建設、市場の創出、植林など最も必要な公共事業を決定。30日間の工事に参加した人には労働の対価として現金が支払われます。この支援事業に参加した1,250人の参加者のうち60%は女性で、中には紛争で夫を亡くした寡婦や、ジェンダーに起因する暴力の被害者も含まれます。

そのうち希望者は貯蓄貸付組合を形成し、報酬の一部を貯金。ビジネス研修やビジネスモデル形成支援を受けながら個人またはグループでの小規模起業をします。今回の事業では1,250人中、1,066人が小規模起業を始めています。こうした持続可能な生計支援は、難民や国内避難民の支援としてUNDPが独自に発展させた3x6アプローチにもとづき実施されています。

「私一人で4人の子どもと難民居住区に来た時、何もなく、すべて自分でやらなければならず大変でした。プロジェクトの対象者に選ばれたのは幸いでした。様々な研修やワークショップがあり、例えば、女性のリーダーシップのスキルをどのように高めるかについて仲間と議論しました。最初、グループのメンバーはお互いのことを全然知りませんでしたが、このプロジェクトを通して、皆が団結しました。」プリさんはこう続けます。「道路建設の工事に参加した報酬として受け取った賃金の一部を組合で貯蓄していますが、組合の貯蓄状況は良好です。この貯蓄を利用し、組合で豆とキャッサバの製粉機を購入しました。食料加工関係のビジネスをするつもりです。」

Cash for workでの経験や効果について語るインべピ難民居住区の南スーダン難民

パロリニャ難民居住区のCash for Work参加者、日本大使館、UNDPのモニタリングチーム(集合写真)

今回、私は日本大使館と共に難民居住区とホストコミュニティ地域の支援現場を視察し、貯金を活用し個人で起業した参加者や、既存の小規模ビジネスを拡大させた参加者が既に多くいること、そして日本の支援が多くの南スーダン難民やウガンダのホストコミュニティから感謝されていることを感じました。また、形成した組合の貯蓄を活用し、グループでボートを購入、漁業ビジネスを展開する計画や、古着販売・仕立てビジネスを立ち上げる計画などが進んでおり、難民や地元住民自身による持続可能な生計向上活動が活発化していました。

「ビジネスを立ちあげ、さらに広げる機会をつくってくださったUNDP、NGOの皆さんや日本の皆さんには、とても感謝しています。おかげさまで、生活も楽になりますし、将来への展望が持てます。」と語る参加者たちの明るい表情から、逆境を機会に変える力強さが伝わってきました。


吉本珠実(よしもと・たまみ)
UNDPウガンダ事務所/UNVコミュニケーション・スペシャリスト

2010年在タジキスタン日本国大使館にて草の根・人間の安全保障無償資金協力事業を担当した後、在南アフリカ大使館及び在チェコ大使館の専門調査員などを経て、現在UNDPウガンダ事務所にてUNVコミュニケーション・スペシャリストとして難民とホスト・コミュニティ支援事業に従事している。英国イースト・アングリア大学にて国際開発学科修了(修士)。