第5回NY発 UNDPの援助最前線レポート: ネパールにおける震災後の復興計画づくり-教育編-

2015/06/10

ネパール中部開発区域ダディン郡で倒壊した校舎(写真前方)。日本政府の支援よる鉄骨フレームと煉瓦を合わせて建設された校舎は壊れず(写真後方)。Photo:Yasumasa Nagaoka /JICA Education Advisor to the Ministry of Education in Nepal

国連開発計画(UNDP)ニューヨーク本部対外関係・アドボカシー局ジャパンユニットの二瓶直樹です。ネパール大地震の復興計画づくりのために、5月21日から約1か月の予定で同国に滞在しています。5月31日を境目にカトマンズ市内の様子が少し変わりました。街中で制服を着た児童・生徒の姿を頻繁に目にするようになり、また市内の交通量が増えて渋滞に出くわすことも多くなってきました。ネパール大震災が4月25日に発生して以降、37日間閉鎖されていた学校の多くが5月31日に再開されたのです。

現地メディア報道によると、ネパール大地震では、最も影響を受けた14郡(ネパール全土は75郡)にて、教員45人と児童・生徒・学生の478人が亡くなりました(本地震の死者総数は約8700人)。幸いにも地震が起きたのは土曜日午後で、ちょうど学校はお休みでした。もし、これが平日で授業が行われている最中であったならば、倒壊した校舎や教室の中にいた教員、児童・生徒ともに、もっと大きな被害が出ていたことが予想されます。

ネパールの学校教育制度は5―3―2―2の12年制で、小学校、前期中等、後期中等、高校の4段階のシステムにより構成されています。小学校の前に就学前教育(幼児教育)が1年あり、高校の後に、3-4年の大学(学部)または、職業訓練校(半年から3年)があります。12年の学校教育のためのネパールの学校数は公立が約3万4000校、私立約8500校です。児童・生徒数は約750万人です。

ネパール教育省によると、全土の公立8242校で被害があり、約2万5000教室が全壊、約2万2000教室が半壊・あるいは一部損壊とされています。現地関係者によると、教育セクター全体における被害総額は約300万ドル(300億円)と推定されているそうです。校舎被害には、トイレ、水道施設、学校の塀・校壁などが含まれ、これらの施設も大きな影響を受けました。地震後、政府による校舎の点検が行われ、使用可能な学校の校舎には、大きな緑色のステッカーが、倒壊等の恐れのある使用不可能な校舎には赤色のステッカーが貼られて市民から一目で分るようになっています。

学校は再開しましたが、特に地方・農村部では校舎の倒壊が激しいため、テントや木造の比較的単純な構造で作られた臨時教室で授業をする、通常の時間割を変更しての短縮授業、スポーツ文化などを中心としたカリキュラムに変更するなどの対応がなされています。それでも、学校に子どもたちが戻ることは復興への第一歩です。教育インフラの回復とともに、徐々に学校での活動が従来通りになり、子どもたちが元気で通える状況に戻ることを祈るばかりです。

教育セクターの話になりましたが、これはまさに、ネパール到着直後に執筆しました「第3回NY発 UNDPの援助最前線レポート: ネパールにおける震災後の復興計画づくり」 でご紹介した「災害後復興ニーズ評価調査(Post Disaster Needs Assessment: PDNA)」とも関係します。ネパールのPDNAでは全部で23のセクターが設定され、それぞれのセクター毎にグループが形成されました。教育セクターは国連児童基金(UNICEF)とアジア開発銀行(ADB)がリードし、長年ネパールでの教育支援を行ってきた国際協力機構(JICA)も主要メンバーとして積極的に参加しています。

災害後復興ニーズ評価調査(PDNA)は震災後の教育セクターの全体的な状況把握を行い、復興のためにどのような施策や費用が必要かを分析します。学校・校舎の被害状況の情報把握を進めると共に、今回の震災経験を踏まえて、教育セクターにおける政策がどのようにあるべきかが関係者で検討されています。短期的な対応としては、被災直後の状況でも利用可能な仮教室の設置、破損した校舎修復などが実施されています。中長期的な復興には、将来の地震に備えて耐震構造で、万が一の際には避難所としても利用できる校舎建設、男女別で衛生的なトイレ設置、地すべりや洪水などの自然災害リスクに対応できる場所への学校移設などが考えられます。また、将来の災害への備えとして、学校を中心とした地域コミュニティにおける防災教育が重要課題となっています。

JICAから技術協力専門家として2012年11月からネパール教育省に派遣されている同省アドバイザー・長岡康雅さんは「大地震前まで教育セクターでの連携は現地の援助関係者が中心でしたが、災害後復興ニーズ評価調査(PDNA)で複数機関が共同作業することで、その連携は一層強化されました」と指摘されます。長岡さんは、震災後、過去に日本からの支援を受けて建設された多くの学校を視察しています。その大半は、中に鉄骨フレームを入れた強固な構造だったため、震源地に近い校舎でも比較的軽度の損壊で済んだところもあります。多くの学校が被害を受けているようです。長岡さんは「短期的には、教育機会が少しでも滞らないように、校舎の修繕や少しでも頑丈な仮設教室の設置が当面の目標です。中長期的には、将来の災害に備えて耐震構造のある学校モデルを決め、その基準を満たす建設を着実に進めることが重要です」と話します。

私は災害後復興ニーズ評価調査(PDNA)の防災セクターにUNDP職員として参加しておりますが、現場でのニーズ調査では防災の視点から、学校や病院など公共インフラの整備も分析対象にしています。今回多くの学校や病院が地震被害にあったことを受け、災害対策として、一定の耐震化構造を要した公共インフラを構築することが提言される見込みです。そのためには、ネパールに存在する建築基準法の見直し、自治体による建築基準法の法令順守のため取り組み強化や建築技術者の育成等の取り組みも不可欠となります。

頑丈で耐震構造のある建物は、通常の建造物よりも費用がかかります。校舎の新設には当然費用だけでなく、時間も1校当たり2~3年要します。迅速に学校インフラ再建の取り組みを始めることは重要ではありながらも、どのような耐震構造のモデルにするかをしっかりと考えた上で、ネパールは学校づくりをはじめる必要があります。復興ニーズ調査の結果を踏まえて、ネパール政府は、国際社会とともに、実施をどのように進めていくかを慎重に検討する段階にあります。

PDNAによる報告書では、各セクター毎に損害・損失額が算出され、それを踏まえてビルド・バック・ベター(より良い復興)の観点から復興に必要な予算を算出します。今回ネパール政府はPDNAで提案された復興のための予算ならびに、復興計画(具体的な政策や行動)を軸に、自国がどのように復興活動を進めるかを決定します。また、最終的な復興計画をもとに、国際社会からの支援を要請して、様々な国、国際機関と連携して具体的な活動を進めていくことになります。

私自身、今回のネパール滞在を通じて、実際の被害後の状況や開発途上国における災害後対応の課題等、PDNAに関与することで多くの学びがありました。特に、今回のPDNAは、多くの開発援助機関から各分野の専門家が世界中から集まりましたので、国際社会による強い連携が実現されたことが非常に大きいと感じております。ネパール政府が策定する復興計画に基づいて、いよいよ実施段階へと移ります。日本を始めとする支援国と国際機関が連携して、復興支援が強い“絆”のもと実施されることが期待されます。


二瓶直樹

UNDP対外関係・アドボカシー局ジャパンユニット・JICA/日本連携アドバイザー
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2003年、国際協力機構(JICA)入構。以降、政府開発援助(ODA)業務に従事。2009-2012年、中央アジアのウズベキスタンにて、市場経済移行期の社会・経済開発を目的とした民間セクター及び法整備支援、運輸・電力インフラ支援に従事。2012年8月よりUNDPニューヨーク本部にて勤務。早稲田大学社会科学研究科修士卒。

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