東ティモールにおける司法支援事業~第1回 DV・ジェンダーに起因する暴力の現状とUNDPの支援

2016/10/25

Photo:Yuichi Ishida/UNDP East Timor


1 はじめに

国連開発計画(UNDP)は、2003年から、東ティモールにおける司法支援事業(Justice System Programme: JSP)を開始しました。日本政府が2014年以降、約170万ドルを拠出している司法支援事業は、司法制度の整備や人材育成を中心に扱ってきたフェーズ1~3を終えて2016年4月からフェーズ4に入り、司法の「供給」の支援から司法の「需要」の向上の支援へとその焦点が移っています。本日から全3回で、このようなUNDPの司法支援事業の特徴的な点を紹介していきます。第1回は司法支援事業が扱う課題のうち、特に重要な家庭内暴力(Domestic Violence: DV)やジェンダーに起因する暴力(Gender-Based Violence: GBV)の現状を中心に紹介していきます。

2 DV・GBVの現状や原因
(1) 現状

東ティモールでは、2002年の独立以前から現在に至るまでDVやジェンダーに起因する暴力が問題となっています。DVやジェンダーに起因する暴力には、身体的暴力のみならず、精神的暴力や性的暴力も含まれます。これらの暴力は、被害者自身の人権侵害等の深刻な悪影響をもたらすことに加え、それを見る子ども等の第三者にも悪影響を及ぼします。東ティモール財務省の2009年~2010年の調査に基づく統計によれば、東ティモール女性の38%が15歳以降に何らかの形で暴力を受けた経験をもち、更に、結婚経験のある女性のうち44%以上が夫や元夫による家庭内暴力を経験しているとされています。また、 2015年に1426人の女性をランダムに抽出して行われたThe Asia Foundationの調査によれば、結婚経験のある15歳から49歳の女性のうち59%が、パートナーから身体的・性的暴力を受けたと回答しています。

(2) 原因 

東ティモールでDV・ジェンダーに起因する暴力が生じる原因は様々ですが、主に以下の原因が複合的に結びついて生じていると分析されています。第1に、東ティモールでは、男性による女性に対する暴力は、家庭において期待された役割を果たさない女性に対するしつけであり、生活の一部であるかのように捉えられていることです。上述の2009~2010年の調査でも、86%の女性が、家庭内での役割を果たさないことによる暴力は仕方のないものであると回答しており、このような意識は男性のみならず女性にも強く根付いてしまっています。第2に、女性の男性に対する経済面における依存意識が影響している可能性があるとも分析する研究者もいます。すなわち、教育レベルが低く収入向上手段をもたない女性は生活費の工面について男性に強く従属しており、男性の下から離れた後の生活に不安があるため、悪環境であっても離れることに心理的な抵抗があったという分析です。もっともこの点については、近時の研究において、離婚後に逆に経済的状況が上向く女性も多いという調査結果も出されており、更なる議論が必要とされます。第3に、家庭内暴力の問題はプライベートな問題であり外で話すことはタブーであるとされてきた文化が指摘されます。つまり、家族の名誉や評判のために、家庭内の暴力の問題は家庭内に秘めておくべきとされる文化が存在するため、DVが明るみにならず、外部からの救済が得られないため、被害者はDVから逃れることが難しくなっているのです。

(3) DV・ジェンダーに起因する暴力に対する救済の現状

東ティモール財務省の2009年~2010年の調査によれば、暴力を受けた女性のうち、警察官や公的機関に助けを求めるのはわずか5%程度にとどまり、大半は家庭や地域内での助けを求めるにすぎません。

家庭内・地域内の非公式な手続による解決には、後述のような様々な問題が存在するにも関わらず、多くの人々はこれらによる解決が望ましいと考えているという調査結果が存在します。また、The Asia Foundationの2013年の調査によれば、50%の女性及び31%の男性が裁判所の存在を聞いたことがなく、50~60%の国民が検察官や弁護士の存在を聞いたことがないと回答しており、インフォーマルな手続による解決以外の選択肢を持たない人も多いのではないかと推察されます。

3 DV・ジェンダーに起因する暴力に関する司法制度等
(1) 慣習による非公式な解決

DV・ジェンダーに起因する暴力の事件は、村落の長老等の地域の権力者等によって慣習法を用いて解決される場合がほとんどです。慣習法による解決は、国民に広く浸透し、アクセスが容易であるというメリットはあるものの、多くのデメリットが存在します。具体的には、加害男性からの損害賠償金は被害女性の家族に支払われるため、被害女性に対する救済になっていないこと、紛争解決への被害女性自身の関わりが薄いこと、執行力の不存在、紛争解決の基準となる慣習によると女性が責められる傾向が強く、慣習自体が不合理であることが多いこと等が挙げられます。

(2) 司法制度による公式な解決

東ティモールでは、独立以来の重要な課題であるDV・ジェンダーに起因する暴力に対応するために、家庭内暴力対策法の制定や家庭内暴力・性的暴行の非親告罪化等の様々な法的枠組みを整備してきました。しかし、国民の公的司法制度の利用は進まず、また、DV・ジェンダーに起因する暴力案件への裁判所の判決には統一性がなく、判決内容も女性の民事的救済の観点が欠けたものが多いという課題があります。

4 おわりに

UNDPは、ジェンダーに起因する暴力を受けた女性がより公式な法的扶助を求めるようにし、かつ、GBV自体を減少させるために、公的機関及び民間機関と一体となって対策を進めています。法律家の育成や移動裁判所(Mobile Courts)は既に大きな成果が出ており、無料の法律扶助サービスの構築についても今後の大きな成果が期待されています。第2回は、第1回で紹介した問題を解決するためにUNDPが行っている司法支援のうち、新事業である司法アクセス・クリニック(Access to Justice Clinics:AJCs)について紹介する予定です。

まとめ:UNDP駐日代表事務所広報ユニット研修生 第69期司法修習生 水谷翔

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