アラブ人間開発報告書2016日本発表会 「アラブの春から6年ー変わりゆく若者とアラブの今」開催報告

2017/06/29

UNDP Tokyo/ Eriha Tomita

国連開発計画(UNDP)と上智大学は6月29日(木)に、上智大学にて「アラブ人間開発報告書2016日本発表会~ アラブの春から6年-変わりゆく若者とアラブの今~」を開催しました。フォーラムには、学生、報道関係者、各国の大使館職員、政府機関、シンクタンク、企業、NGOなどをはじめ、100名以上が参加しました。

本報告書は、アラブ地域の若者の声を基に作成されており、なぜアラブ地域における開発が期待されたように進まなかったのか、若者のエンパワーメントの重要性に焦点を当てて紐解いています。

フォーラムでは、近藤哲生UNDP駐日代表と 植木安弘上智大学国際協力人材育成センター所長の開会挨拶、上村司外務省中東アフリカ局長の来賓挨拶、ムラッド・ワフバUNDPアラブ局長の基調講演に続き、出川展恒NHK解説委員のファシリテーションによるパネルディスカッションが行われました。各分野で活躍する専門家が各々の立場からアラブ地域の課題について議論したあと、学生とパネルの活発な質疑応答が行われました。また、基調講演の前には、暴力的過激主義をテーマに啓蒙活動の一環としてUNDPとスーダン政府が日本の支援を得て制作した映画「Iman」の予告編が上映されました。

 

【来賓挨拶】

上村司外務省中東アフリカ局長は、自身の経験と照らし合わせた上で、日本の近代化は、社会の少数派にも目を向けインクルーシブな発展を遂げてきた結果であり、中東・北アフリカ地域が危機に直面している今、中東・北アフリカ地域の若者にはそうした歴史を一つのテンプレートとして学んでほしい、と述べました。単に能力開発だけでなく、バックボーンとなる背景や歴史にも目を向ける重要性を強調しました。

 

【基調講演】

ムラッド・ワフバUNDPアラブ局長は、アラブ地域の課題を、以下のように指摘しました。

・第1に、本報告書は、若者を対象とした調査に基づいて作成されており、「若者に関するものではなく、若者によるもの」である。彼らは、「幸せな生活・人生とは」、「私たちは次に何をすべきか」「宗教の役割とは」など、皆さんも考えるような問題に直面している。

・第2に、本報告書は、なぜアラブ地域での開発が期待されたように進まなかったのかに焦点を当てている。その原因として、持続的開発を進めるための制度、政策、戦略や投資の不足や、女性、特に若い女性の経済的・政治的な役割の不足があげられる。

・第3に、とりわけ多様な文化、歴史の背景を持つ国々が共存するのがアラブ地域の特徴なので、意思決定の選択肢を考えるには、地域全体の大きな方向性の分析と同時に、より細分化された洞察が必要となる。

・第4に、紛争下においても若者がエンパワーされることにより成長や安定、希望が生まれ、彼らこそが最も有効な平和構築者となりえる。。

最後に、「国際協力には、一貫性があり包括的なアプローチが求められる。アラブ地域でのSDGsの推進には、日本の貴重な知見や経験に基づく貢献が、ますます求められている。」と、日本とのUNDPの戦略的なパートナーシップの重要性を強調しました。

 

【パネルディスカッション】

●NHK解説委員 出川展恒氏

いわゆる「アラブの春」の後、アラブ諸国に民主主義が定着しなかった背景には、教育など、民主化を進める条件が整っていなかったことがある。形だけ選挙を行っても民主的な政治は実現しない。政治の混乱が拡がり、内戦に発展し、政府の統治が及ばない「権力の空白地帯」が生まれ、そこにIS(イスラム国)などの過激派組織が拠点を築き、支配地域を拡大していった。社会の現状に不満を募らせる若者たちが過激派組織に取り込まれないようにするには、まず、雇用の機会を与えることが不可欠である。日本は、アラブ諸国に雇用を創出する投資や職業訓練、教育などの支援を行っていくことが期待されている。

●JICA中東・欧州部部長 小川重徳氏

本報告書は、人口の中で大きな比率を占め、発展へのポテンシャルでもあり不安定化の要因ともなりうる若者に焦点を当ており、極めて重要な視点を提供している。JICAでは、「アラブの春」とその後の社会的混乱の背景にある社会・経済的な要因を分析・研究し、アラブ地域における今後の支援の方向性を検討するために、、2012年から2015年にアメリカのブルッキングス研究所との共同研究を実施した。、その結果、これまで疎外されていた若者、女性、小規模農家等を含むあらゆる人々に恩恵をもたらすインクルーシブな成長の通した社会・経済問題の解決が必要でとともに、具体的な取り組みとして以下の重要性を提示した。①ガバナンスの改善。②中小企業、起業振興のためのビジネス環境整備と若年層のための雇用創出。③地域間格差解消のための農村開発。④教育の質の向上。これらの重要課題は、アラブ人間開発報告書2016で提示している様々な課題と方向性が一致しており、今後もJICAは、UNDPを始めとする国際機関と協力しながらアラブ地域の中長期的案安定に向けた支援を進めていきたい。

●住友商事株式会社 自動車流通事業第二部長 三宅隆介氏

イラクにおいてUNDPとトヨタイラクがパートナーシップを組んで実施する職業訓練プログラムを紹介。商業活動を持続的に続けていくためには、地域社会の応援や共感が必要不可欠であり、トヨタイラクが本業を通して地域に貢献できる方法として、国内避難民の若者(女性を含む)を対象とした職業訓練・就労支援プログラムを実施している。

※プログラムの紹介動画はこちらです:

●JETRO・アジア経済研究所 佐藤寛氏

本報告書はアラブの現状が明確に記載されていることに加え、国連の出版物の中でも特に志が高くemotionalなトピックにも触れている。 そして、報告書の「紛争下で宗教団体が運営する保護やサービスのネットワークに強く依存する人が増えている」という点について、宗教勢力が拡大している理由は、宗教の対立ではなく、生活を守るためにそれらのネットワークに頼らざるを得ない状況があるためであり、先進国や国際機関はその点を認識する必要がある。本報告書へのコメントとして以下の3点をあげる。①大きい公共セクター自体に問題があるのではなく、それを悪用して腐敗がおきることが問題、②雇用の創出を考える際は、アラブ地域に域外から流入してくる出稼ぎ労働者の若者をどうアラブ地域に統合していくか、という視点が必要、③国家がきちんと機能していない状況で若者や子どもに教育・医療を届ける方法を国際機関は検討する必要がある。

 

●上智大学総合グローバル学部教授 私市正年氏

2011年のアラブの政変がなぜ起きたのか、背景を考える必要がある。若者たちによって提唱されたスローガン「人間の尊厳」「自由」「公平さ」「デモクラシー」などは、それまでのアラブ地域、特にイスラム諸国では考えられない概念であり、アラブ人間開発報告書2016でも強く主張されている「普遍性」と通じる動きがアラブの国々でもあったということを記憶に留めておく必要がある。その上で、チュニジアの政治変革を進めている団体がノーベル平和賞を受賞したことは重要であり、インターネットにより広く客観的に国内外を見ることができるようになった若者が政治の中心となって変革を進めていくことに可能性が見いだせる。

 

●難民を助ける会理事長・立教大学教授 長有紀枝氏

紛争後の復興や開発を考える際に、健常者の若者だけでなく、障害を負った若者の視点を取り入れていく必要がある。難民を助ける会がシリア北部で、2016年中に何らかの外傷を負ったシリア人約2000名を対象に行った調査では、約2/3が30歳未満で、7割以上が負傷後に日常生活動作において何らかの介助を必要としていた。負傷以前に就労をしていた者の8割が現在は働いていない、と回答した。アラブ人間開発報告書でも若者に焦点を当てた支援の必要性が強調されているが、紛争で今後若者の負傷者が増える中、障害が残る若者を含めた包摂的な支援が必要である。日本に居ながら現地でインタビューをしたかのようなデータを得ることができる本報告書の統計データを、ぜひ学生にも活用してほしい。

 

パネルディスカッションでは、「若者の雇用の創出のために日本にできること」などが議論され、

参加した大学生を中心に多くの質問が寄せられ、ワフバUNDPアラブ局長とも有意義な議論がもたれました。

 

2002年に初めてアラブ人間開発報告書が発刊されて以来、6つの報告書が出版されました。これまでのフルの報告書と、2016年報告書の執筆にあたって利用されたデータを、無料で閲覧・ダウンロードできるアプリがこのたび作成された。このアプリは、App Storeから“UNDP AHDR” を検索して利用が可能。

 

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