ヘレン・クラークUNDP総裁による関西学院大学での講演 「持続可能な開発目標2030の実施に向けた課題と好機」

2016/12/15

関西学院大学で講義をするヘレン・クラーク総裁 Photo:Kwansei Gakuin University School of Policy Studies

神戸
2016年12月15日


【2016年12月15日、兵庫県神戸市】
このたびは関西学院大学での講演会にご招待いただき、誠にありがとうございます。貴学の理念である「奉仕のための練達」は、私たちの時代に最もふさわしい言葉です。世界は多くの課題に直面しており、これを克服するためには、ここ関西学院で教育を受けた専門性、倫理性、そしてグローバル精神に富む卒業生の皆さんが、その能力とコミットメントをもって、解決策の発見と実施に取り組むことが必要です。

国連加盟国が昨年、野心的なアジェンダ「持続可能な開発目標(SDGs)」に合意したことは、よいニュースです。その実施は、持続可能な開発に対する障壁を乗り越えることへとつながることでしょう。国連開発計画(UNDP)には、こうしたアジェンダと極めて関連性の強い任務が与えられています。日本をはじめとする各国からの寛大な支援は、UNDPが開発途上国によるアジェンダ実施を支えるうえで、大いに役立っています。

では、この大きなアジェンダとは何でしょうか。

2015年9月、世界のリーダーたちは「持続可能な開発のための2030アジェンダ」とその17の「持続可能な開発目標(SDGs)」に合意しました。その目的は、あらゆる形態の貧困を根絶し、より平和で包摂的、かつ持続可能な世界を創ることにあります。よって、SDGsは必然的に、大きく大胆な目標となっています。

2015年3月には、ここ日本で開催された第3回国連防災世界会議で「仙台防災枠組2015-2030」が採択されました。この枠組みは、2005年に神戸で合意された「兵庫行動枠組(HFA)」を引き継ぐものです。関西学院大学の教員、職員、そして学生の皆さんは、その10年前の1995年に発生した阪神・淡路大震災の悲劇を目の当たりにされたはずです。新たな枠組みは、災害から人命を守り、被害を最小限に抑えることを狙いとしつつ、リスクに配慮した開発を推進するものとなっています。

その後、2015年7月には、エチオピアで開催された第3回開発資金国際会議で「アディスアベバ行動目標」が採択されました。この目標では、開発金融に対する現実的なアプローチが定められていますが、これを達成するためには、官民、国内・国際、環境・開発を問わず、あらゆる可能な資金源の活用が必要となります。例えば、気候変動のための資金は、開発途上国にとってますます重要な資金源となっています。

また、昨年12月の国連気候変動枠組条約(UNFCCC)第21回締約国会議(COP21)では、画期的な気候変動に関する「パリ協定」が採択されました。パリ協定は、気候変動へのグローバルな取り組みにおける重要な転機となりました。その署名と発効までに1年もかからなかったという事実は、私たちがまさに目の当たりにしているとおり、気候変動対策に向けて、前例を見ないほどのグローバルな勢いがついたことを証明しています。

今年も新たな動きが見られました。

5月、イスタンブールで開かれた世界人道サミットでは、危機や災害に晒され、避難を余儀なくされている数千万に対する支援をいかに改善すべきかに関する合意が生まれました。難民、国内避難民または庇護申請者として避難を強いられた人々は6500万人を超え、世界人口のほぼ113人に1人の割合に達したと見られています。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、この規模の避難民発生は前例がないとしています。

10月、エクアドルのキトで開催された第3回国連人間居住会議(ハビタット3)では、包摂的で安全、かつ強靭な都市を築くための「ニュー・アーバン・アジェンダ」が採択されました。現在、世界人口の半分以上(54%)が都市で暮らしていますが、これは1960年時点の34%を大きく上回っています。2050年までに、都市人口はさらに25億人増えるものと見られていますが、その増加の大部分はアジアとアフリカに集中することになります。都市のガバナンスは、これまでにも増して重要になるでしょう。

こうした新たなアジェンダはいずれも、私たちが開発の考え方とやり方を大きく変えることを求めています。

第1に、大きな野心の高まりが見られます。例えば2030アジェンダは、貧困と飢餓を根絶し、エイズ、結核、およびマラリアを撲滅するなど、「ゼロ目標の達成」を掲げています。

南アジアやサハラ以南アフリカを中心に、7億5000万人以上が依然として、1日1ドル90セント未満という極度の貧困の中で暮らしています。この貧困に終止符を打つためには、根強く残る不平等や差別に取り組まねばなりません。そのためには、女性や若者、障害者、先住民、あらゆる種類の少数者など、全ての人を包摂する成長が必要となります。

第2に、新たなアジェンダでは、ショックに対する強靭性の強化が中心的要素となっています。こうしたショックには、経済的なもの、社会的なもの、健康に関するもの、災害によるもの、紛争に関するものが含まれます。私たちが軽減のための措置を講じなければ、こうしたショックはいずれも、人々を再び貧困へと陥れるおそれがあります。私たちがショックの発生リスクを抑えるために、行動を起こせるケースも多くあります。

近年の気象関連災害の規模は、気候変動が激化する中で予期できる将来の姿を映し出しています。地球の平均気温の上昇を産業革命以前との比較で摂氏2度未満、理想的には摂氏1.5度未満に抑えるという、パリ協定の野心的目標を達成できたとしても、今後数十年間にわたって、気象条件の悪化が見込まれます。私たちは各国、特に最も貧しく脆弱な国々が、この見通しに適応できるよう、あらゆる手を尽くして支援しなければなりません。

第3に、グローバル開発アジェンダは初めて、持続可能な開発の達成には、平和で包摂的な社会、全ての人にとっての正義、そしてあらゆるレベルでの実効的で説明責任を有する包摂的な制度が必要であることを明言しています。事実、2030アジェンダには「平和なくして持続可能な開発はなく、持続可能な開発なくして平和はない」という文言があります。

脆弱な環境に暮らす14億の人々にとって、SDGsの達成は特に困難ですが、このような人々の数は、2030年までに19億人に増えると予測されています。

アフガニスタン、シリア、ソマリアなどで続く紛争は、人間開発を何年も逆戻りさせました。これら紛争はまた、不正取引や組織的犯罪の温床にもなっています。こうした状況の下では、急進化と暴力的過激主義も広がります。

暴力と脆弱性については、単なる対症療法ではなく、その根本的な原因に取り組むことが重要です。先月、私が訪問したエルサルバドルは、武力を用いた暴力の惨劇に直面しています。国内各地で、犯罪組織が人々にみじめで危険な生活を強いているからです。隣国のホンジュラスと同様、大規模な貧困が続いていることも重大問題です。その解決を図るためには、若者のために機会を作り出し、コミュニティ・リーダーを支援し、国家のサービスをコミュニティに届け、腐敗に対処し、効果的な取り締まりを行うことがいずれも必要です。直ちに全部の問題を解決することはできませんが、決意を持って取り組めば、これらを長期的に克服することは可能です。

第4に、新たなグローバル・アジェンダすべての目標を達成するためには、開発資金をかつてない規模で動員することが必要です。すべての資金源を活用する必要があります。再びアディスアベバ行動目標の言葉を借りれば、官民、国内・国際および開発・環境金融がいずれも必要となるのです。

では、2030アジェンダをはじめとする重要なアジェンダを達成するためには、他に何が必要なのでしょうか。

1.  各国の強力なリーダーシップが必要ですが、これは発揮されつつあります。全世界の政府が、2030アジェンダを国内の計画と政策の中心要素として取り込むことを優先課題としているからです。SDGsの実施に向けた最も心強い取り組みの中には、多くの課題を抱える国が手がけたものもあります。例えばソマリアは、34年ぶりに国家開発計画を策定中ですが、この計画はSDGsに沿ったものとなる予定です。

2. 誰も置き去りにしないという約束を果たさなければなりません。

特に下記のニーズに配慮しながら、所得の不平等や、法律と社会規範における差別に取り組まなければなりません。

女性:全世界で、女性は男性よりも、失業したり、無償労働に従事したりすることが多くなっています。女性の失業率が男性の2倍を超える地域もあります。UNDPの推計によると、サハラ以南アフリカでは、労働市場のジェンダー格差により、2010年から2014年にかけ、地域全体で950億ドルもの損失が出ています。女性と女児への投資は、正しい選択であるだけでなく、賢い選択でもあるのです。

-   若者:世界は現在、史上最多の若年人口を抱えています。現時点の総人口の3人に1人は30歳未満です。若者の約90%は、アジアとアフリカを始めとする開発途上国に暮らしています。開発途上国は、巨大な人口の配当を手にすることができますが、そのためには、若者の潜在能力に投資し、機会を創造しなければなりません。

-   都市住民:世界で最も貧しく、社会から隔絶された人々の多くは、都市に暮らしています。全世界の都市人口は、2014年の39億人(全体の54%)から、2050年までに63億人(66%)へと増えることが予測されています。同じ期間内に、アフリカでは都市人口が人口の過半数を超えることになります。この動向は、機会と課題の両方を提起します。急速な都市化をどのように管理するかによって、全ての人のための包摂的で持続可能な開発の成否に大きな影響が出ることでしょう。

-  難民、国内避難民および移民:現在、避難を強いられている人々の数は、第2次世界大戦以来、最も多くなっています。その中には紛争を逃れ、避難所や医療、保護、生計手段を必要としている人々が多くいます。避難民の子どもを教育する必要もあります。

-  いくつかの地域では、機会の欠如も人々の大規模な移動の原因となっています。そこには間違いなく、プッシュ要因とプル要因が存在しています。先進経済国の労働市場のセクターの中には、移民労働に対する依存度の高いものが多くあるからです。計画的な秩序ある移住は、労働市場のギャップを埋め、送金を生み出すことにより、流出国と流入国の両方に利益をもたらします。

-  高齢者:今世紀中ごろまでに、60歳を超える高齢者人口は、15歳未満の子ども人口を上回るものと見られています。多くの開発途上国では、高齢者が最貧層に含まれています。こうした高齢者は、大きなリスクと不安に晒されかねず、しかも、その権利を保護するためのメカニズムもない恐れもあります。高齢化が急速に進む社会では、十分な社会的保護の導入を優先課題とせねばなりません。

3. 気候変動に対処することも大切です。

パリ協定をしっかりと履行すれば、経済と社会に変革が訪れます。気候変動に対処することで、私たちは雇用を創出し、公衆衛生を改善し、技術革新を推進し、死活的に重要な生態系を守り、地球上の貴重な水資源を保全するなど、多くの副次的利益を得ることもできます。そのためには、何年もの懸命な取り組みと、多額の投資が必要となるでしょう。つまり、できるだけ早く、素早い行動を起こしたほうがよいのです。

4.  特に部門や縦割りにとらわれない包括的なアプローチという点で、ミレニアム開発目標(MDGs)の実施で得た教訓を全て行動に移す必要があります。

いま世界が抱える課題は、個別に縦割りで取り組めるものではありません。私たちには「政府一体」、そして「社会一体」のアプローチが必要です。妊産婦の死亡率など、健康上の危機として浮かび上がる課題でも、その根本的原因は早婚や女児の中途退学、保健医療施設までの交通手段の欠如や、ケアの費用を負担する資力がないことに求められる可能性もあります。幅広い政策立案者やステークホルダーのグループが力を合わせて解決策を見つけ、実施に移さなければなりません。

5. SDGsを軸に、幅広く連合することが必要です。

SDGsを達成するためには、国内の資源の動員と大規模な民間投資が必要となります。従来型の開発援助は、これを促進できますが、この分野で日本はリーダー的存在です。

例えば、日本は1993年以来、一連のアフリカ開発会議(TICAD)を通じ、アフリカの開発に本腰を入れています。今年8月、ナイロビで開催された第6回アフリカ開発会議TICAD VI)には、政府や企業、国際機関、市民社会から6000人以上が参加しました。
日本企業は、政府の呼びかけに応じ、大挙してナイロビを訪れました。これには重要な意味があります。アフリカは、その経済の多様化と変革を推進するため、インフラ整備や生産部門への大規模な投資を求めているからです。

6. 新たな資金源を活用することを考えなくてはいけません。
開発金融環境は活発で、急速な進化を遂げており、官民を問わず、多くの新たな資金提供者が生まれています。譲歩した融資や無償資金協力を通じた南南協力の重要性が増していますが、貿易と投資は、これを補完する役割を果たしています。

グリーンボンド(資本市場から温 暖化対策や環境プロジェクトの 資金を調達するために発行される債券)やブルーボンド、移民による資金供与スキーム、開発志向のベンチャーキャピタルなど、新たな金融手段を模索、活用する開発途上国も多くあります。

政府開発援助(ODA)をはじめとする従来型の開発金融は引き続き、特に最も貧しく脆弱な国々にとって欠かせない存在ですが、ODAは今後、はるかに多額の資金を活用する能力と潜在的可能性をともに高めるための触媒として用いなければなりません。具体的な例を見ましょう。

·  「国境なき税務調査官」に関する経済協力開発機構(OECD)とUNDPの協力は、開発途上国が税務監査能力を構築し、その国内歳入を増やすための支援をしています。
·  UNDPの生物多様性資金イニシアティブは、各国が生物多様性を保全するための資金需要や資金ギャップの所在、このギャップを埋める方法を把握するための支援を行っています。

7. 開発効果に焦点を絞る必要があります。

開発資金の額が重要なのは明らかですが、これを効果的に活用することも必要です。

2週間ほど前、ナイロビで「効果的な開発協力に関するグローバル・パートナーシップ第2回ハイレベル会合」が開かれました。UNDPとOECDは、このイニシアティブの事務局を務めています。2016年の進捗状況報告書を見ると、開発パートナーシップの包摂性が高まっていることが分かります。透明性も向上し、中でもUNDPをはじめとする国連システムの機関はトップレベルの透明性を誇っています。

しかし、さらに取り組みが必要な分野もあります。

· 2国間援助のうち、ひも付きでない案件の割合は微減にとどまっています。
· 開発途上国のシステム強化の進捗は不均衡な状態です。
· 開発途上国の公的な財務管理・調達制度の利用は広がっていません。
· 開発途上国は依然として、支援の予測ができないことによる問題を抱えています。
· 開発協力の流れに関する情報は不十分です。

新たなグローバル・アジェンダの達成に向け、UNDPはどのような役割を担うのでしょうか。

日本をはじめとするドナーの寛大な支援により、UNDPは170を超える国と地域で活動を展開しています。活動の内容は、貧困の根絶から不平等の緩和、民主的ガバナンスの支援、環境の持続可能性改善、災害リスクの削減、ジェンダーの平等と女性のエンパワーメントの優先、健康の社会的決定要素への取り組み、さらには危機に瀕したコミュニティでの緊急開発イニシアティブの支援に至るまで、2030アジェンダに忠実に沿うものとなっています。

UNDPは他の国連機関と連携しつつ、各国がその国内計画、政策および予算の中心的要素としてSDGsを取り入れ、資金確保に向けた選択肢を明らかにするための支援をしています。各国からは、データの収集・分析能力を構築し、社会全体でSDGsに対する認識を高めるための支援の要請もあります。

UNDPは、各国がその国内的目標と新たなグローバル・アジェンダを達成できるよう、可能な限り最善の支援の提供を目指しています。私たちはこの重要な活動を進めるうえで、日本の継続的な支援を頼りにしています。

結論

私たちの世界が抱える課題には、根深い貧困と不平等、長引く紛争と強制的避難、経済的・政治的不安、社会経済と人口構成のシフトに緊急に適応する必要性、そして、気候変動によるものをはじめとする自然災害の頻発と深刻化が含まれています。

こうした課題を克服するためには、より公正、平和かつ持続可能な世界の構築に向けた大胆なアプローチが必要です。昨年から今年にかけ、幅広いグローバルな合意が成立したおかげで、包摂的で持続可能な開発の実現に向けたロードマップは整備されました。もうひとつの道のりは、私たちが知る現状よりも多くの混乱や不安を抱える世界へと続くものですが、これを避けることは可能です。2030アジェンダやパリ協定のほか、全ての人々にとって世界をより良い場所にするために締結された、あらゆる重要な世界的合意の実施に対する支持を取り付けねばならない理由も、まさにここにあるのです。

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