備えあれば憂いなし: 津波防災と啓発

岡井朝子:国連開発計画(UNDP)総裁補 兼 危機局長

2019年11月5日

学生がインドネシアのバリ島で津波避難訓練に参加する様子― 写真提供:UNDP アジア太平洋局

2019年11月5日
これまで発生頻度がそうは多くないと思われていた津波が、この10年というもの、サモアからチリ、アイスランドからニュージーランドなどで、毎年のように発生しています。

津波は通常、予測不可能な大地震によって引き起こされます。津波警報発生後、対応する時間は非常に限られていますが、警報がしっかりと届き人々が対処法を知っていれば、多くの命が救われるのです。

国連開発計画(UNDP)はアジア太平洋地域にある災害リスクの高い国々の児童生徒を対象に、津波啓発活動を行っています。11月5日、世界津波の日を記念し、本プロジェクトを支援して下さっている日本政府に感謝の意を表します。

日本では、すべての児童生徒が津波とは何なのか、津波発生時にはどのような行動をとるべきなのかを知っています。 現在、本プロジェクトでは、日本の優れた防災教育と経験を活かし、アジア太平洋地域の児童生徒が学び、備えを強化する取り組みを行っています。

日本とのパートナーシップは2020年半ばまでの約3年間計画です。津波リスクが高い23ヵ国で、それぞれ少なくとも10から12校が避難準備計画を更新し、実際に避難訓練を行い、計画をテストする予定です。

これまでに、19ヵ国で約250校、10万人以上の児童生徒と教師が避難訓練に参加し、様々なノウハウを得ました。学校を主体として、避難準備計画の更新や、委員会の設置、避難経路の選定などが行われ(場合によっては新たな避難経路が建設され)、安全避難区域の指定も行われました。

学校の防災体制を強化する目的から始まった本プロジェクトですが、実際には期待以上の成果を挙げることができました。4つの国の例をあげながらその内容を紹介します。

世界で最も津波が発生しやすい国の1つであるインドネシアでは、都市化が進む地域の中心地であるバリ島の学校で本プロジェクト初の避難訓練が行われました。

最新のリスク評価において、津波が発生した際は学校の敷地が浸水することが想定されたため、生徒は出来るだけ高い場所へ避難するよう勧告を受けました。この場合、6階建てのホテル屋上が避難場所となりました。

この避難訓練により、安全な避難場所確保の必要性が明確となったため、地元8つのホテルが近隣校の児童生徒や住民に避難場所を提供するという協定を地元自治体と結びました。

インドネシア・バリで行われた避難訓練の様子

太平洋からはソロモン諸島の例を紹介します。ソロモン諸島ギゾの地形はバリとは大きく異なっており、片方には海、もう片方には急峻な丘があります。2007年に島を襲った津波は、52人の子どもと大人の命を奪いました。

本プロジェクトで実施された避難訓練により「備え』不足が浮き彫りとなった結果、児童生徒が安全に高い場所へ避難できるよう、新たに避難ルートが建設されました。現在、国家災害管理局は災害リスクの高い他の島での避難訓練実施に向け取り組んでいます。

モルディブも非常に固有の事情を抱えています。2004年に起きた津波は、悲惨にもほぼ全ての環礁を襲いました。他の国とは異なり、波はありませんでしたが、低地の島々が沈んでいくかのようでした。

あまりにも壊滅的な出来事であったため、生存者のほとんどは2004年に起きた津波のことを思い出したがりませんし、若者の多くは津波の知識がほとんどか、あるいは全くありません。最も安全な避難方法は、ボートでの移動か、高い場所への移動です。この場合でも、2階建てより高い建物はほとんどありません。通常、ひとつの島には学校が1校しかないため、本プロジェクトの津波避難は、コミュニティ全体の啓発につながりました。

フィリピンでは、台風と高潮により、警報もほとんどない状況で津波のような高波が発生します。地震訓練はすでに定期的に実施されているため、本プロジェクトでは地震と津波訓練を組み合わせるよう政府に働きかけています。

政府機関や地元の連携機関の協力を得て、災害リスクの高い州で行われた大規模な津波訓練には、6万人以上の児童生徒及び教師が参加しました。

本プロジェクトに対しては、対象児童生徒、教師、コミュニティから高い評価が得られ、そういった声や経験をもとに、UNDPは地域ガイドを作成しました。学校が各自で「備え」強化のための取り組みを行うことで、その活動が更に災害リスクの高い学校へ波及していくことを目指しています。

毎年、学校には新入生が入学します。学校の防災体制の強化が、災害などの困難に打ち克つ力のある若い世代の育成につながります。