多様で平等な社会を目指す~ユース連携担当者の原点~

若者によるソーシャルイノベーションと起業を支援するプログラム、「Youth Co:Lab(ユース・コーラボ)」を担当しているユース連携コンサルタントの大阿久裕子に、活動内容やこれまでのキャリア、国際協力を志す人へのメッセ―ジなどを聞きました。

2019年12月9日

 

国連デー記念レセプションにてモルディブ事務所の同僚たちと

 

国連開発計画(UNDP)とシティ・ファウンデーションが、SDGs(持続可能な開発目標)達成のためアジア太平洋地域25の国と地域で行ってきた、若者によるソーシャルイノベーションと起業を支援するプログラム、「Youth Co:Lab(ユース・コーラボ)」。2019年、この活動を日本でも立ち上げました。

担当しているユース連携コンサルタントの大阿久裕子に、活動内容やこれまでのキャリア、国際協力を志す人へのメッセ―ジなどを聞きました。

 

エクアドル留学中、授業の一環で訪れたガラパゴス諸島でクラスメートと

 

 
学生時代とこれまでのキャリアについて教えてください 
 

栃木県小山市出身で、小学校まで栃木で過ごしていました。中学一年生の時に父の仕事の都合でアメリカのウィスコンシン州に引っ越しました。ウィスコンシン州の中学校に通うことになりましたが、全校で英語が話せないのは自分一人だけという環境だったということもありいじめられ、楽しい中学校時代とは言えませんでした。高校に進学する頃には日本に帰りたいと思っていたのですが、父からの助言もあり、シカゴ近郊の寮制の高校に進学することで環境を変えました。その高校には様々な国籍の学生がいたため、田舎だった中学時代とは違って楽しく過ごすことができました。私が仕事の軸だと考えている「格差に対する問題意識」も高校時代に生まれたものです。高校三年生の時、日本食レストランのアルバイトをしていました。アメリカのレストランはチップがもらえるので一晩で一万円程度稼ぐことができて、高校生だった私にとっては非常に割の良いアルバイトでした。しかし裏方のキッチンなどの仕事をしていたのは不法移民のメキシコ人が多く、彼らと仲良くなって話を聞くと、自分がもらっていた給料の半分ももらえていなかったのです。同じ場所で働いているのになんで違いがあるのだろうと疑問に感じたのと同時に、国際関係やラテンアメリカに関心を持つようになりました。

大学では国際関係学を専攻し、かねてよりラテンアメリカに関心を持っていたので大学四年生の時にエクアドルへ一年間留学しました。これが私にとって初めての途上国経験となりました。

エクアドル留学時代、裕福なエクアドル人の家庭で半年ほどホームステイをしていたのですが、その家族が雇っていた女性の家事使用人はインディヘナ(先住民族:スペイン語で土着の人の意)のバックグラウンドでした。生まれた環境によって、教育や就業など人生が左右されてしまう世界を見て、改めて、そのような機会の不平等を解消するような仕事がしたいと具体的に考えるようになりました。また、インディヘナの低所得者向けデイケアサービスボランティアもしていました。週1-2回の訪問にも関わらず非常に感謝された経験から、職務経験や専門性がなくても何かしら社会にインパクトを与えられるのはないかと思うようになりました。今振り返ると、これらの経験がその後のNGOから始まる国際協力キャリアの始まりであったように考えられます。私の場合、インパクトがある出来事が一つ起きて国際協力のキャリアを志すようになったわけではなく、幼少期から様々なことが積み重なった結果だったのです。

大学卒業後は国際交流NGO「ピースボート」にて通訳ボランティアとして3カ月半働いた後に職員として採用され、約5年間勤めました。

 

NGO・ピースボートで寄港したエジプトにて

 

NGOで働く中で、国際協力業界のなかでもよりダイナミックな仕事をしてみたいと考えるようになり、修士号取得のために大学院に進学し、公共政策学を専攻しました。大学院卒業後は東京の国連大学でジュニアフェローとして働いた後、国連ボランティア(UNV)及びジュニア・プロフェッショナル・オフィサー(JPO)派遣制度(国連機関への就職を志望する若手に対し、各加盟国政府が一定期間経費を負担し、各機関に職員として派遣する制度)を活用してUNDPで働くこととなりました。国連ボランティアとして赴任したUNDPスーダン事務所ではいくつかの平和構築のプロジェクトに関わっていました。たとえば、ブリティッシュカウンシルと合同で実施した平和構築や社会開発に関するプロジェクトアイディアコンテストなどです。

その後、JPOとして赴任したUNDPモルディブ事務所では国連7機関合同の環境プロジェクトのコーディネーション等を行いました。


 

UNDPスーダン事務所で携わった若者を対象とした平和構築プロジェクト

 

多様性のある環境で過ごしたことで、ご自身にどのような影響がありましたか。

様々な生き方の人と出会う環境に身を置くことで、例えば「世間からこう思われなければいけない」「良い子でいないといけない」、そういった世間体や社会規範をだんだんと気にしなくなりました。特に様々な人種がいた寮制の高校やアルバイト先の日本食レストラン、エクアドル留学時代、色々なバックグランドの人と一緒に働いたNGOの経験が徐々に自分を変えてきたと強く感じます。世間体や社会規範を気にせず自身のやりたいことを追求するためには、必ずしも幼少期から海外に行くなどといった特別な経験が必要だとは思っていません。当たり前ですけど、日本国内にも色々な人がいます。普段手に取らない種類の本を読むことやイベントに行って人に会うことで、様々な「生き方」に積極的に触れて、「こういう生き方もあるのか」と知っていくことが大事だと考えています。

現在、UNDP駐日事務所にて携わっているプロジェクトについて教えてください。

現在は「Youth Co:Lab」という若手社会起業家の育成や社会イノベーションを支援するプロジェクトに携わっています。具体的には、社会起業家によるビジネスアイディアのピッチコンテストや、社会・環境課題解決に向けて取り組む起業家をどのように生み育てていくか対話するシンポジウムを企画しました (詳細はこちら)。このプロジェクトを通じて若者のイノベーションを促進することで、副次的に新たな雇用を創出することも期待されています。

UNDPのような公的な国際機関が社会起業を支援する意義について教えてください。

従来、UNDPは主に政府や公的機関などとパートナーシップを結び、政府が中心となって社会課題を解決するというアプローチをとってきました。しかし、テクノロジーの発展もあり社会は加速度的に変化しています。SDGsを達成するためには従来型のアプローチに加えて、重要なアクターである若者と民間部門とも積極的に連携をしていく必要があると考えられます。一方的に課題に対する解決策を与えるのではなく、自分たちで課題を解決する手法をつくる機会を提供することで、民間からの自発的な底上げにつながると信じています。加えて、今回初の日本開催となりますが、環境問題や高齢化社会に起因する問題など、様々な国で起きている社会課題に取り組むビジネスアイディアも寄せられています。そのため日本の知見や手法は日本国内のみならず、本プログラムが展開されているアジア太平洋の25の国と地域に広げていける可能性があるのです。また、当然その逆も言えるのではないでしょうか。例えば、過去のYouth Co:Labで受賞した、Blue Heartsというモルディブのオンラインの心理ケアプラットフォームのアイディアは日本に転用できるのではと思っています(詳細はこちら)。モルディブではうつ病などが社会問題としてあるのですが、狭い島コミュニティですので、人目を気にしてなかなか病院にかかることができないことや、病院に行っても個人情報が外部に伝わることがあるなどの課題がありました。この企業を知った時、日本でも年々うつ病患者は増加しているので、病院に通いづらい地方都市や離島に導入できるアイディアなのかなと感じました。 このように本プログラムが、アジア太平洋全域の社会課題解決のための相互学び合いプラットフォームになっていくことを願っています。

 

2019年11月22日に行われたYouth Co:Labソーシャル・イノベーション・チャレンジにて

 

日本初開催のピッチコンテストでは多くの事業アイディアが寄せられたとのことですが、最終選考に残った9組で共通して良かった点は何でしょうか。

問題意識やアイディアが生まれたきっかけは個々の経験や大切にしていることに基づいたものなのでそれぞれ異なっていたのですが、9組の予選通過者は共通して問題意識が非常に強く、独創的でした。また、問題解決のために自分自身で仲間や必要なリソースを発掘する力も備わっていました。最優秀賞を受賞した「世界に広げたいコーヒーかすの二次利用方法」は、元々バリスタとして働いていた青木望さんが大量に出るコーヒーかすを燃料などに二次利用できないかと考えて生まれたアイディアです。世界中で毎日22億杯以上飲まれているコーヒーですので、多くの人の関心を集めるのではないかと期待しています。青木さんを含む受賞者4組は、これから各国で行われたピッチコンテストの受賞者らが参加するアクセラレータープログラムに参加します。うち2組は日本代表として4月にマレーシアで行われるアジア太平洋サミットへ参加することになりますが、そこでどのようなシナジーが生まれるのかとても楽しみにしています。

社会革新を起こすために若者には何が必要だと思いますか。

Youth Co:Labでは持続可能な開発目標(SDGs)達成につながるビジネスアイディアに焦点を当てていますが、社会革新や社会課題解決のためには必ずしも起業をする必要はないと私は考えています。

先日、ある大学でデザインシンキングのワークショップを開催しました。学生をいくつかのグループに分け、SDGsのうち、「4.質の高い教育をみんなに」「8.働きがいも経済成長も」・「13.気候変動に具体的な対策を」の三つのゴールで自分が課題だと考えていることをあげてもらいました。とあるグループは「気候変動」が課題だと思うと発表しましたが、具体的には何か?なぜそう思うのか?などと、質問を重ねていくうちに、ざっくりとした「気候変動」に対する課題意識が「大学の授業では紙を使いすぎているので環境に悪い」という身近で具体的なものになっていきました。社会課題は概してとても大きいもののように見え、「大きい問題だから自分一人では何もできない」と考えがちです。しかしながら大きな社会課題も、自分の身近なレベルまで細かく分解して落とし込んでいくことで、課題解決の道がだんだん見えてくるのだと思います。どのような社会課題でも、このように自分事だと捉えて、自分ができる一歩を踏み出すことが重要だと思っています。

しかし、若者が社会課題を自分事として捉えるためには個人の心がけのみならず、教育などの周辺環境の整備も重要な要素だと考えています。Youth Co:Labの一環で行ったシンポジウム「日本ダイアローグ」では、産官学界、ベンチャーキャピタル、社会起業家支援組織や現役起業家の方をお迎えし、それぞれが若者による社会イノベーションや起業を促進するために担う役割や仕組みづくりについて具体的な議論を行うことができました。

 

 

 

2019年11月26日に行われたYouth Co:Lab日本ダイアローグにて

 


国際協力業界で働くうえで大切にしていることは何ですか。

自分の長所の一つでもあるのですが、相手の視点に立って考え、行動することです。国際機関でもチームで仕事を進めることが多いため、組織内外で信頼関係を構築することが大事になります。そのうえでプロジェクトの成果が出るように、一生懸命取り組みます。また、長く続けることができた原動力は好奇心を持ち続けることだと思います。

今後大阿久さん個人が目指す姿や取り組みたいことを教えてください。

スーダンやモルディブの現場での職務、そして現在の東京でのユース連携コンサルタントを経て、取り組みたいことも大きく変わってきました。今後は民間企業などと連携しながら、受益者がオーナーシップを持てるような仕組みづくりに携わっていければ、と考えています。

最後に、国際機関を目指す方々にメッセージをお願いします。

UNDPなどの国際機関はあくまで一つの「場」です。国際機関というフィールドを活用して、「こういったことがしたい」「この課題に向き合いたい」などといった課題意識を持ちながら目指してほしいです。キャリアの積み方に正解はありません。様々な場所での経験や人との交流を経て、自分自身がどのような観点で何に対して課題意識を持つのか見極めてほしいです。そして百聞は一見に如かずという有名なことわざがあるように、考えるだけではなくとりあえずやってみようという心構えも大切にしてほしいと思います。

 

聞き手の鄭綺UNDP駐日代表事務所インターン(左)と大阿久裕子UNDPユース連携コンサルタント(右)