COVID-19:全ての人が安全でなければ、誰もが安全ではない

2020年12月11日

COVID-19 (新型コロナウイルス感染症)ワクチンと治療薬の準備、配布、公平なアクセスへの大規模な投資が行われない場合、非常に多くの人々にとって、ワクチン、治療薬は手が届かないままになります。特に新型コロナウイルスパンデミックの打撃への対処に既に苦闘しているコミュニティにおいては、その影響は顕著となります。Photo: UNDP Bangladesh/Fahad Kaizer

著者:武見敬三、アヒム・シュタイナー

今からほぼ1年前、新型コロナウイルス感染症の最初の症例が報告されました。それ以来、新型コロナウイルスはコミュニティ、システム、経済を破壊してきました。世界の多く、特に脆弱な人々にとってこの12か月は、不安と困難に満ちていました。今世紀最悪のパンデミックを終わらせるという共通の目標に駆り立てられ、効果的な新型コロナウイルス感染症に対するワクチンと治療法を開発するために、科学者たちの間では前例のない協力が行われました。

しかし、イノベーションを効果的に活用するためには、安全で効果的なワクチンを世界中の何十億もの人々に届けるために必要なシステム強化に対する相応の投資と迅速な行動が必要です。 新型コロナウイルス感染症のワクチンと治療薬の準備、配布、公平なアクセスへの大規模な投資がなければ、非常に多くの人々にとって、ワクチン、治療薬は手が届かないままになります。特に新型コロナウイルスパンデミックの打撃への対処に既に苦闘しているコミュニティにおいては、その影響は顕著となります。

既に、新型コロナウイルス感染症への効果的な対応に必要なリーダーシップの、有望な事例が見られます。

COVAXファシリティ(有効な新型コロナウイルス感染症ワクチン候補への公平なアクセスのための、180か国による国際的協力体制)とACTアクセラレーター(Access to COVID-19 Tools Accelerator、新型コロナウイルス感染症の診断、治療、ワクチンの開発、生産、そして公平なアクセスを加速化させるための協働の仕組)は、協調的でグローバルな対応を構築するための連携の必要性が広く認められていることを示しています。 一方、日本をはじめとした一部の国では、脆弱で十分なサービスを受けられない人々のニーズを優先し、すべての人に無料の新型コロナ感染症ワクチンを提供するために必要なシステムの準備に向け、既に重要な措置を講じています。 しかし、新型コロナウイルスによる医療制度へのさらなる負担に苦しむ多くの低中所得国には、このような対応を行うキャパシティがありません。

この課題を解決するには、同調した国際的取組が必要です。

先日、国連事務総長は、世界的なパンデミックを終わらせるには、医療制度への持続的な投資とユニバーサル・ヘルス・カバレッジへの新たなコミットメントが必要であると指摘し、医療技術を必要とする全てのの人が利用可能で手頃な価格であることを保証するよう各国に求めています。

私たちは、脆弱な医療制度が、パンデミック対応への妨げとなる様子を見てきました。

コンゴ民主共和国での2018年のエボラ出血熱の発生は、継続する紛争、ワクチン忌避、また整備不足の医療制度が原因で、他の公衆衛生対策と共に複数のワクチンが配備されたとしても、終息させるのは困難でした。 私たちは、2019年に最初のCOVID-19の症例が報告される数ヶ月前に、ヘルスケアへの公正なアクセスを確保することは「死に至る感染症の感染爆発を事前に防止する」本当のチャンスを世界に与えるだろうと、ジャパンタイムズの論説で述べました。

新型コロナウイルスの継続的な蔓延と、脆弱な医療制度の露呈は、世界に何が必要かを明確に示しています。 しかし、ワクチンや治療薬を必要としているコミュニティに確実に届け、それらのコミュニティが受け取る準備ができていることを確認するための時間は、まだ残されています。

ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの歴史を持ち、医療制度の革新に重点を置いてきた日本のような国々は、世界的に公平なワクチン配分の体制を実現するために必要な連携への道程を示しています。 日本政府は、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジに不可欠な、2つの相互補完的イニシアチブにおいて、国連開発計画(UNDP)と協働しています。1つは満たされない医療ニーズに関する研究開発推進、もう一つは医薬品、診断薬、ワクチンへのアクセスと提供の促進です。

グローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund)は、顧みられない熱帯病、結核、マラリア対策のための医療技術の研究開発を推進するために活動する官民パートナーシップです。 新規医療技術のアクセスと提供に関するパートナーシップ(Access and Delivery Partnership, ADP)は、国連開発計画(UNDP)、世界保健機関(WHO)、熱帯病医学特別研究訓練プログラム(TDR)、および国際NGOのPATHが連携し、低中所得国における保健システム強化により、必要とする人々に医療技術を届けるための、GHITの活動を増強する活動を行っています。

GHITとADPの連携と活動は、研究開発と保健システムの両方に投資することが、医療ケアへの公平なアクセスをより迅速に推進し、新型コロナウイルスのパンデミックを終息させ、将来の医療危機に備えることができることを示しています。 日本をはじめとした高所得国は、GHIT、ADP、COVAXなどの革新的な連携を強化するために力を合わせ、全ての国がこのパンデミックから以前よりも安全かつ強力に復興できるようにする必要があります。

パンデミックを終わらせるには、人間と経済の両方における取組が不可欠です。最近の研究では、COVID-19ワクチンが世界的に平等に分配されない場合、世界経済に最大1.2兆ドルの損失をもたらす可能性があると予測されています。 人々の健康と経済は、このパンデミックを終わらせるために必要なツールに全ての人がアクセスできるようになるまで安全ではありません。そのため、各国が力を結集して「ワクチンナショナリズム」の衝動を回避する必要があります。

新型コロナウイルスの感染拡大を抑えるには、新しい技術の進歩が不可欠ですが、それらは特効薬ではありません。新しいイノベーションと、それらを公平に提供するための強力な保健システムの両方に、コミュニティが適時にアクセスできない場合、全世界の人々の健康、開発、人間の安全保障は大きなリスクにさらされます。ユニバーサル・ヘルス・カバレッジは不平等を是正するために重要です。保健システム強化のために投資し、国内の取組とグローバルな協力を通じてユニバーサル・ヘルス・カバレッジの達成への取組を加速することで、全ての人々がパンデミックを生き延びることを助け、富める者と貧しい者のギャップを埋め、医療技術をより円滑かつ公平に分配することを可能にします。

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この論説は武見敬三参議院議員/WHOのユニバーサル・ヘルス・カバレッジ親善大使、アヒム・シュタイナーUNDP総裁の共著により出版されました。

本記事はJapan Timesで掲載されたものです。