Artwork: Adam Shaheer

 

昨年4月にモルディブに着任した時には、世界がこのような状況になるとは全く想像もできませんでした。数年後に今を振り返ったとき、2020年はとてつもない困難の年として思い出されるでしょう。

「後悔先に立たず (hindsight is 20/20)」ということわざがあります。「こうすればよかった、ああすればよかった」という議論は勿論あるでしょう。しかし、そんな時間は毛頭なく、明日まで行動を待つことはできません。新型コロナウイルス(COVID-19)がもたらした危機は、より持続可能で皆が参加できる社会にするために様々な社会のしくみを見直す、またとない機会でもあります。もしこの機会を有効に使うことができれば、このことわざにあるように、未来の世の中はもっと良くなるでしょう。しかし、それはもちろん容易なことではありません。

新型コロナウイルス感染症の拡大は、医療危機の域を超えてもはや、一部の国や社会経済的弱者にとって大きな社会・経済的打撃を与える人道的危機となっています。モルディブをはじめとする小島嶼国に10年以上住み開発の仕事に従事した経験から、私は今回新型コロナウィルスがもたらした危機は、小島嶼国ゆえの既存の脆弱性に大きく関係していると考えています。観光業への経済的依存度の高さ、燃料の輸入依存度の高さ、そしてサンゴの白化や水不足などを含む気候変動のリスクなど、以前より多くの問題を抱えていたこれらの国々にとって、新型コロナウイルスはさらなる危険をもたらします。私にはこの危険が非常に切迫したものに感じられます。

 

ビリンギリ島への現地視察の様子。地球環境ファシリティ(GEF)資金支援によりパートナーのNGOであるSave the Beach Maldivesと共にサンゴ礁の保全活動を実施しています。

 

国連開発計画(UNDP)が最近発表した「パンデミックへの脆弱性に関する人間開発ダッシュボード」によると、モルディブは世界で最も経済的に打撃を受けた国の一つです。これは、運輸、通信、小売などの観光・観光関連部門がGDPの70%以上を占めていることに起因します。

医療面での危機はいずれ終息を迎えるでしょう。でも、モルディブのような小さな島国の観光業は、気候変動によって、外国人観光客を惹きつける生態系が破壊されるなど、脅威にさらされ続けるでしょう。

私たちは暮らし方を変えていかなければなりません。でなければ、新型コロナウイルスによって、モルディブをはじめとする島嶼国が受けている経済的なダメージが、気候変動や環境悪化によって永久に繰り返されるかもしれません。気温上昇によるサンゴ礁の消滅、海岸の浸食、海面上昇は、地球温暖化の原因となる温室効果ガス(GHG)の排出量を減らすことでしか止めることはできません。

そのためには、現在の化石燃料への依存を再生可能エネルギーに置き換える必要があります。例えば、ソーラーパネルを増やせば、太陽の熱を活用してエネルギー需要を満たすことができます。モルディブ政府は、(リゾート以外の)住民島で昼間の電力の70%を再生可能エネルギーで賄うという目標を掲げています。この目標を早急に達成することが重要です。

モルディブの温室効果ガス排出量の95%以上は、発電や輸送などのエネルギー部門によるものです。そのうちの40%はリゾート地からの排出ですが、同時にそのほぼ同量が住民コミュニティ全体の活動からの排出です。政府は、現在の発電方法と国内での消費パターンが続けば、2030年には2011年と比較してCO2排出量が2倍以上になってしまうと試算しています。

私たち一人一人がエネルギーの使い方や消費パターンを見直さなければなりません。屋上に太陽光パネルを設置、エアコンの使用を控え、ペットボトルの代わりにろ過された水を使い、自家用車よりも公共交通機関を利用する、バイクよりも自転車を利用するなど、環境保全に役立つ方法は数多くあります。

新型コロナウイルスパンデミックが政府予算を食い尽くしていく中で、発電のための財政的負担はさらに痛ましく明らかになってきています。モルディブは現在、GDPの7%を石油の輸入に費やしており、そのほとんどが発電のために使われています。そのため、再生可能エネルギーへの転換がこれまで以上に急務と言えるでしょう。

さらに、新型コロナウイルスは、水の重要性も浮き立たせました。飲み水だけでなく、手洗いなどの基本的な衛生習慣のためにも、きれいな水を利用できることはすべての人が持つ人権です。緑の気候基金(Green Climate Fund)の資金援助でUNDPと政府が行った最近の調査では、海面上昇による塩水化等により、地下水の安定と安全性が大幅に低下していることが明らかになりました。

海水淡水化やペットボトルの水への依存を減らすためには、雨水活用や地下水の保護などの伝統的な慣行を通じた水資源管理の改善が重要です。また、食料輸入に依存しているモルディブを考えると、食糧安全保障を向上させるためには、途切れない水の供給が不可欠です。このような財政上の重荷は、リゾートの閉鎖に伴う歳入の減少によって浮き彫りになりました。

現地での食料生産を増やせば、この負担は軽減できるでしょう。多くの人たちがリゾート地での仕事を失い、また物価の高い首都マーレに住むことが難しくなっています。このような非常事態でこそ、地方自治体が重要な役割を果たします。農業や漁業、食品加工事業などを通じて、経済や食の安全保障に貢献できる機会を増やすことで島へ帰島がしやすくなるでしょう。このような試みは、国内経済を活性化させ、雇用を創出し、より強靭で、持続可能で、包摂的な経済の構築につながります。

このような地域開発を進めることにより、モルディブが世界の他の国々の模範となり、持続可能な開発目標(SDGs)を確実に達成することを願って止みません。新型コロナウイルスの時代をただ生きただけでなく、世界を持続可能で公平な開発の道へと導いた世代として、次世代にバトンを渡しましょう。


筆者:
藤井明子(ふじい・あきこ)| UNDPモルディブ事務所常駐代表
大阪外国語大学、京都大学大学院、英国サッセックス大学大学院卒業、NGO勤務を経て、UNDPパキスタン事務所にて勤務開始。UNDP東京事務所(現・駐日代表事務所)、スーダン事務所、ジャマイカ事務所、フィジー・マルチカントリー事務所(現・パシフィック事務所)、ベトナム事務所を経て現職。

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