パンデミックが変容のきっかけに

2020年5月21日

UNDPは、DFIDとバングラデシュ政府の支援で、都市部に住む低所得50,000世帯に対し150万ドルの緊急支援を実施。SDGsの目標3そして目標10に貢献する新型コロナウイルス予防対策に関する情報提供および衛生キットの配布を行います。UNDP総裁アヒム・シュタイナーは「パンデミックへの対処や復興策を模索する中、SDGsは世界的な復興におけるDNAに組み込まれなければならない。なぜなら、SDGsは公平で持続的な未来を構築する青写真だからだ。」と述べています。Photo: UNDP Bangladesh/Fahad Kaizer

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、世界中に混乱と惨害を招くと共に、グローバル社会の密な繋がりと経済・社会・環境の相互依存性を浮き彫りにしました。経済は一気に減速、日常生活も中断され、企業は休止状態に陥り多くの人が失業し、そして10万人以上の命が失われています(4月17日時点)。この状況で最も被害を受けると予測されるのは、やはり恵まれない境遇にある人々です。この世界的危機は、貧しい人々や疎外されたコミュニティがいかに脆弱な立場にあり、また地球の現エコシステムの虚弱性を明らかにした一連の出来事にすぎません。

このような状況を背景に、株式市場は何兆ドルもの価値を失い、これまでにない暴落を経験しています。既存のシステムのままでは、これから多くの困難に直面することは明らかです。世界各国の国内総生産(GDP)に直結する今般の世界資本市場の変動は、金融業界のパフォーマンスが経済・社会・環境へいかに密接に影響するかを示します。

はっきりわかったことは、私たちが歩んできた道はサステナブルではなかったということです。このパンデミックは私たちの脆弱性を露呈しました。いかに、全ての富が相互に関わっているかを思い出させてくれました。私たちは今、より良く、より強い、そしてもっと持続可能で強靭かつ包括的な未来を創り出すための機会を与えられています。

世界各国がこの危機の終息と回復を望む今、私たちが目指すべきニューノーマル(新常態)とはどういうものでしょうか?そしてこのニューノーマルにおいての、資本の役割や目的は何でしょうか?

パンデミックはリスクを高めるが、変容への許可をもたらす

10年前、国連は持続可能な開発目標(SDGs)を制定し、全ての人にとってより良い世界を構築する17の目標と169のターゲットを設定しました。しかしパンデミック以前から、SDGs達成への進捗具合は足踏みしています。そしてパンデミックが起きた今、私たちは分岐路に立たされています。この先、SDGsから更に遠ざかるような道を歩むわけにはいきません。より良い未来を実現する新しい道を築かなければならないのです。そして、パンデミックによりそれが困難であると考えるのではなく、逆に従来の手法に立ち向かう機会を与えられたと捉えるべきなのです。

国連開発計画(UNDP)は、民間資金をSDGsに導き、有意義で測定可能なものにするSDGインパクトを立ち上げました。 投資家や企業が利用できる測定値パラメーターやSDGsへの取り組みの管理や開示を透明かつ一貫して行える共通枠組みが必要と考え開発したものです。通常、投資家は自分の関わる事業や投資がSDGsや経済・社会・環境へどうインパクトを与えるかを考えるより、環境・社会・ガバナンスといった要因が財務評価にどう影響するかに重点をおきます。そのため、本来は軌道修正などの意思決定に使われるべきSDGsが、既存の活動報告を行う単なるレポーティングツールとして使われることが見受けられます。

そこでUNDPは、企業や投資家がSDGsに対応する投資や意思決定を適正におこなうためのツールとして、SDGs債(パブリックコンサルテーション受付中)やPEファンドおよび事業を含む様々な資産クラスに対応した基準を開発しています。これらの基準は、一貫性、透明性、効率性の促進を目的としたオープンソースの公共財で、実務家、アナリスト、保証機関などが使用できる競争力のある中立なプラットフォームとなります。私たちは、パンデミックからの脱却後、リソースが枯渇した状態で回復期を迎えることになります。この基準は、可能な限り効率的に回復を展開するために必要なツールとなるでしょう。

意思からインパクトへの転換

SDGsへの関心が高まる一方で、ビジネスリーダーたちは投資の意思決定を支える情報やツールが揃っていないと声を揃えます。今回、新しくSDGs債に対する基準を開発したことで、発行体や投資家は自信を持って自分の活動や資金の方向性を示すことが可能となります。この基準は、例えば国内のSDGs優先目標(発行体向け)と事業に関連するSDGsの紐付けなど、ユーザーをSDGsへと導くものです。6つの基準から構成されており、一貫した活用を促すために、各基準に実践の指標、指標に関する証拠、そしてガイダンスノートと参考情報が提供されています。これにより、ユーザーはコンプライアンスの確認と進捗状況の報告が可能となります。

また、この基準は内部でのインパクト測定や管理業務(インパクト管理システムの構築含む)のマッピングにも利用できます。更にそれが、内部報告や意思決定、そして複数の条件が課せられる外部報告への対応にも役立ちます。より効率的でシステマティックな非財務情報の管理が可能となるのです。この実用的なガイドラインにより、インパクト管理ツールにおいて生じがちな、実践と報告と評価の間のギャップを埋めることができます。意思決定がどう下されたか、誰の意見が反映され、何を優先的に実施し伝達すべきかを明確にし、そして何よりも共通言語が樹立されます。

大規模な金融市場開発には、前提条件として標準の確立、透明性、そしての保証性の向上が必要です。この基準が開発されたことにより、より厳密かつ透明性の高い枠組みでSDGsへの取り組みを評価することが可能となります。SDGsに繋がる投資を実現したいという意思を、実際の成功例に変えていくことを可能にするのです。

リソースをSDGsの流れに

UNDPは、その糾合力を生かしSDGsのまとめ役を担っています。現在、インパクト投資の報告改善に関するグローバル・イニシアティブは複数存在します。UNDPは、その異なるイニシアティブ同士を繋げる立ち位置にあります。共通する明確な枠組みがあれば、より大きなリソース動員と真の前進を実現できると考えています。また、パンデミックから回復するにあたり、ステークホルダー資本主義モデルがより重要になってくるでしょう。地域のニーズを汲み取り、それに対応する企業や投資家が最も成功を収めると言われています。

「パンデミックへの対処や復興策を模索する中、SDGsは世界的な回復におけるDNAに組み込まれなければいけません。なぜなら、SDGsは公平で持続的な未来を構築する青写真だからです」とアヒム・シュタイナーUNDP総裁は新型コロナウイルスの時代だからこそSDGsがより重要である理由を公言しています。

SDGsへの影響力を最大化したい発行体にとって、このSDGs債権向け保証基準は、設計、実行、測定などを行う際のガイドラインとなる、いわば青写真のための青写真です。先行き不透明な時代において自信をもって行動するためのツールとなり、最終的にはより強靭な世界を築き、今後起こり得る自然災害や人為災害の頻度や影響度を軽減することに繋がるでしょう。