コラム:新型コロナウイルスによるロックダウン– 男女の社会的役割を再考する機会に

藤井明子 UNDPモルディブ事務所常駐代表

2020年4月27日

新型ウイルスの大流行による外出自粛を機に、男女の不平等な社会的役割分担をやめ、家庭生活のすべての経験を共有することによって家族の絆を育む時です。Photo: UNICEF/ Pirozzi 

年間170万人もの観光客が訪れ、観光業が国の基幹産業となっているモルディブでは、新型コロナウイルスの拡大を受けて、観光ビザの発行を停止。世界で最も人口密度の高い首都のひとつと言われる首都のマーレでは、許可証なしでの外出を禁止する法令等、厳しいロックダウン(都市封鎖)が行われ、狭い居住空間で、共働きをする夫婦、子供達、時には数世帯が共に生活をしています。モルディブで国連開発計画(UNDP)常駐代表を務める藤井明子が、これを機に男女の社会的役割分担の見直しを呼びかけます。


私が子供の頃、お正月は一年で最も楽しみにしていた時です。日本では家族や街中が元日を迎える数週間も前から準備を始めたものです。おせちの材料の買い出しや大掃除、新しい年を迎えるための服の新調などです。そして元日当日のロックダウン。当時はお店やあらゆる商業活動、そして役所も三が日は閉まっていたように記憶しています。地元に初詣に行く以外は、皆親戚で家に集まり、おせちを食べたり、ゲームをしたり、テレビを見て過ごしました。お正月の特別な風習やしきたりも好きでしたが、私は何よりも家族と家で過ごすということ自体が大好きでした。以前住んでいたパキスタン、スーダンに続き、今モルディブで経験するラマダンとイードの休日には、いつも幼い頃のお正月の記憶を思い出します。

ところが大人になるにつれて、家の女性たちがこういったお祝い事を必ずしも楽しんでいたわけではないということが分かりました。むしろ、伝統的に女性に負担のかかる料理や後片付け、冬休みで家にいる子供の世話、訪問客のもてなしなど、普段にも増して降りかかる家事を疎ましく思っていた女性も多いでしょう。また祝祭日以外の時でも、夫が仕事から戻ると首尾良く食事を出したり、毎晩適温のお風呂を用意したり、女性たちはいつも夫の期待に応えようとしました。一日のうちにこういったことを全て女性はしなければならなかったのです。

多くの女性にとって有給の仕事についているということは、二つの仕事を持っているということを意味します。有給の仕事をしていても家事の負担は変わらないからです。Photo: Mohamed Nahee / UNDP Maldives

新型コロナウイルスの大流行により政府や学校、その他の施設が閉鎖されて以来、私たちは家の中で家族と何日も何週間も一緒に過ごしてきました。中には数世帯が一つ屋根の下で同居しているという家庭も多いでしょう。SNS上の音楽や芸術活動の投稿には人々の想像力や創造性が光っています。と同時にこれらの素晴らしい投稿には人々の不安や希望、反省も垣間見ることができます。だからこそ今、家族や社会における男女の役割を省みるまたとない機会でもあると私は思います。

世界の他の多くの地域と同様に、モルディブの女性は男性の2倍の時間を家事や育児・介護など無給の仕事に費やしています。女性は1日平均6時間を家事に費やしているのに対し、男性はたった3時間しか費やしていません[i]。モルディブでは、女性の平均教育水準は男性と同等かそれ以上ですが、有給雇用のある女性の平均所得は男性の平均所得より20%低くなっています。また、有給の仕事についている女性の数は男性の約半分にすぎません。さらに、多くの女性にとって有給の仕事についているということは、二つの仕事を持っているということを意味します。仕事をしていても家事の負担は変わらないからです。そして然るべき子育て支援制度がない状況で子供を持つ女性にとって、仕事と家事を両立するという挑戦を続けることはしばしば困難になり、職を持つという夢を諦めなければならないこともよくあります。世界中で多くの人が共有する経験でしょう。

国連開発計画(UNDP)は国際女性デーに先駆け、2020年3月に「2020人間開発の展望:社会規範への挑戦」を発行しました[ii]。この報告書によると、男女の約90%が家庭的役割以外の仕事を持つ女性に対して偏見を抱いており、男女平等を達成する上で女性が直面する目に見えない数々の障壁が分析により明らかになりました。世界中の男女の約半数は、男性の方がより良い政治指導者となると感じ、40%以上が男性の方がより良い経営者になり、更には仕事が不足している時には男性の方が仕事を得る権利があると感じています。そしてなんと、約30%の人々が夫は妻を殴っても良いと考えているのです!

「夜間外出禁止令で家にいる間、多くの夫婦はお互いに家事をして助け合い、子供たちの世話を分担しているでしょう。」Photo: Ashwa Faheem/ UNDP Maldives

世界中で、非常事態対策としての自宅待機措置が長引くと、家庭内暴力が増加するという報告をよく耳にします。これは所得喪失に対する不安や非常事態が引き起こす心理的影響によるものかもしれません。したがって今回の新型コロナウイルス危機によって家庭内暴力が増加する可能性があるかもしれません。しかし一方で、現在の家庭内の役割分担を前向きに再考する良い機会ともなりうるのです。夜間外出禁止令で家にいる間、多くの夫婦がお互いに家事をして助け合い、子供たちの世話を分担しているでしょう。おそらく、分け合えば家事の負担が半分になり、親としての喜びが二倍になるということに気づかされたのではないでしょうか。それだけでなく、妻と夫、兄弟姉妹、その他の人間関係における絆が深まり強くなったと気づく人も多いでしょう。この外出自粛の時間を有効に使って、ジェンダーによる不平等な役割分担をやめ、家庭生活のすべての経験を共有することによって家族の絆を育む時です。

政府レベルでも、新型コロナウイルス危機からの社会経済的復興措置を策定する際には、ジェンダーによる格差の是正への対策を組み込む良い機会です。将来、家庭内で家事の分担がより平等になれば、女性が社会経済活動に貢献し、社会全体に貢献する機会が開かれます。そしてこれまで以上に女性は政治の場に立ち、このような危機から復興するために男女両方にとって最善の政策とは何かを、彼女たちの視点から提言すべき時なのです。


筆者:
藤井明子(ふじい・あきこ)| UNDPモルディブ事務所常駐代表
大阪外国語大学、京都大学大学院、英国サッセックス大学大学院卒業、NGO勤務を経て、UNDPパキスタン事務所にて勤務開始。UNDP東京事務所(現・駐日代表事務所)、スーダン事務所、ジャマイカ事務所、フィジー・マルチカントリー事務所(現・パシフィック事務所)、ベトナム事務所を経て現職。