新型コロナウイルスから誰も避けられないのと同じように、社会保障施策を誰もが享受できるように作ることが求められています。社会保障施策を通じて、無駄のない包括的な社会的セーフティネットと、非常に効果的な財政刺激という二つの目的を果たすことも可能です。Photo: UNDP India

 

1. 将来の開発課題において最も大きな変化をもたらすと考えられる点は何でしょうか。また、その理由をお聞かせください。

新型コロナウイルスは、保健制度、社会保障政策、および公共サービスのすべてにおいて不平等と脆弱性を、あからさまにさらけ出しました。そして、いかに世界が非包括的で持続不可能な成長を遂げてきたかを私たちに厳しく問いかけました。

2019年のグローバル「多次元貧困指数(MPI)」レポートでは、インドの顕著な開発の進展が示されています。1990年以降、出生時の平均余命は11.6年増加し、平均就学年数は3.5年の伸びが見られます。また、 2006年から2016年の10年間に2億7100万人が貧困から抜け出しました。

新型コロナウイルスによって、インドが大変な努力をして得られたこれらの重要な開発の進展が後退する可能性があります。今日、都市封鎖やその他の規制により経済活動がほぼ停滞しています。特に、労働人口の80%以上を占めるインフォーマルセクターで働いている4億5,000万人は職を失うなど、生活をしていく上での危機に直面しています。これらのインフォーマルセクターで働く労働者の窮状を目にすると、国の経済成長の過程で彼らのような労働力をしっかりと制度に組み入れていかずに置き去りにしていた現状が明らかに分かります。都市封鎖、また停滞するとみられる経済状況の中で、彼らのような労働者とその家族の多くが貧困に陥る可能性は非常に高く、心が痛みます。

統計上では貧困削減に成功したように見えますが、長年の経済成長は格差の削減には至っていません。富の85%は人口の10%が所有していると推定されています。反対に持てる者と持たざる者の間の格差は、新型コロナウイルスを目前にしてさらに広がっていると思われます。

医療へのアクセスは、新型コロナウイルス以前も不十分でした。都市人口の18%のみが健康保険に加入していると推定され、その割合は農村部ではさらに14%にまで低下します[1]。インドの総人口13億人全員が平等に保健・医療施設の利用をできるわけではなく、さらに新型コロナウイルスに必要な高度な治療は言うまでもありません。医療制度でカバーされない自費での治療は、貧困層はもちろん中産階級にとってさえ大きな負担となります。

これまで多面的な不平等へと繋がっていた開発の軌道。今こそ、このような側面を変える、そして変えなければならない局面に対しています。 「保健格差」を是正するための保健セクターの改革とともに、全てのインフォーマルセクターの労働者およびその他の脆弱なグループに対して社会保護措置を講じることが必要です。そのような措置は、パンデミックによって引き起こされた経済危機への取り組みとして導入される政策の中でも、最も重要な開発政策となるでしょう。

2. インド(そしておそらく世界)はどのようにしてその野心的な結果を達成できるでしょうか

政策立案者と経済界が、この危機を、インドがより包括的な経済と社会を導入するためのターニングポイントにできるよう力を合わせることが望まれます。 5月中旬、インド政府は約2,650億米ドルに相当する景気刺激策を発表しました。この景気刺激策によって、最も重要な問題の一つである、完全失業中または現時点で失業中の4億5000万人のインフォーマルセクター労働者を保護する必要があります。すでに推定で3億2千万人の受益者がいるインドで進行中の最大の社会保護プログラムであるプラダンマントリガリブカリヤンヨハナ(PMGKY)での経験を活かし、より効率的な社会保障施策を練らなければいけません。インドでは10人中8人の労働者がインフォーマルセクターで働いていることを考えると、各労働者が正式な労働者が享受しているのと同様の保護メカニズムに登録されていることが不可欠です。

民間部門もインフォーマルセクター労働者の利益と権利を保護するために適切な措置を講じることが望まれます。経済成長の過程で、インフォーマルセクター労働者は大切な資産です。出稼ぎ労働者が戻ってこない限り商業活動を再開できないという懸念が既に聞かれます。出稼ぎ労働者には、危機に備えて彼らの社会保障がより拡充されるように改訂されたガイドラインの新設をもとに、出稼ぎ労働者が元の職場に戻れる選択肢を与える必要があります。

ユニバーサルベーシックインカム(最低所得保障)制度は、パンデミックの影響下で政府の社会保護システムをさらに強化することができると考えられます。最低所得保障制度によって複数の社会保障制度を管理する費用を削減し、定められた受益者をより正確にカバーすることができます。また、生産性の向上、消費と需要の増加、健康の改善、貧困の緩和、犯罪と暴力の削減、教育や生活の質を改善することができます。この保障政策の資金は、より公正な課税、脱税の防止、および全セクターへの政府支出の優先順位見直しによって調達されるべきです。

景気刺激策は、環境に十分配慮した経済移行を通じて新しい仕事とビジネスを生み出す必要があります。言い換えれば、CO2排出の抜本的削減を行い、グリーン経済に移行することが急務です。公的資金は、将来への投資や、環境と気候変動を支援する持続可能なセクターやプロジェクトへの投資に使用する必要があります。これは、持続可能な成長目標を達成するのに役立つだけでなく、インドが取り組んでいる大気や水質汚染の危機を解決するのに大いに役立ちます。国連開発計画(UNDP)と国連機関およびパートナーは、このような取り組みを政府に提案し支援したいと考えています。

3. 各国がそれを実現するのを支援するために、具体的にはUNDPとして何ができるでしょうか。

UNDPは当初から、インド政府、州政府、市民社会、コミュニティ、その他の国連機関と緊密に連携して、パンデミックによって影響を受けた人々を支援してきました。緊急支援としてまず、最前線で我々の生活や健康の基盤を支えている医療従事者と最も脆弱なコミュニティに焦点を当てます。

具体的には、UNDPとパートナーで、マスク、手袋、手指消毒剤、石鹸を含む安全キットを1万8,000人以上の貧困層のごみ収集分別者に提供し、都市封鎖中に約10万の食品パッケージと50万キロの穀物を配布しました。またUNDPは、最前線の医療従事者を新たな感染から保護するために、医療施設での医療廃棄物の安全な廃棄をリアルタイムで監視する簡素なスマートフォンアプリの開発を支援しています。

パンデミックの拡大に伴い、支援の焦点をコミュニティネットワークを動員することに移し、インフォーマルセクターの労働者や最も脆弱な労働者に手を差し伸べ、彼らがさまざまな社会保障制度にアクセスできるように尽力しています。また、コミュニティ関連組織と協力して、最も影響を受けている人々が、家族経営の農業、商店、その他の小規模ビジネスといった新しい仕事を始めたり、生計を立てる機会を得たりできるよう手助けしています。目標は、125万人に支援を届けることです。

UNDPインドのチームの強みは、新型コロナウイルス対策にデジタルソリューションを使えることです。 2万8,000を超える医療施設で、個人用保護具(PPE)のサプライチェーンを追跡するために、既存の電子ワクチン情報ネットワーク(eVIN)にアドオン機能を設計しました。[2]また、ウッタルプラデーシュ州政府が、州外から戻ってきた出稼ぎ労働者の教育レベルやスキルといった情報を、政府当局が収集できる新しいアプリの導入も支援しました。アプリによって情報が照合できると、新たな労働力の情報に基づいて経済回復計画を立てるのに役立つと考えられます。

また、SDG インパクト・イニシアチブを含むさまざまな政策ネットワークを活用して、ビジネスリーダーが開発プロセスを再考し、テクノロジー開発とビジネスプロセスの間のギャップを埋めるよう、各パートナーと連携しています。UNDPは更に、政府および民間部門と協力して、公開データおよび非公開データに容易にアクセス、使用できるようにし、コロナウイルス後の復興計画を立てるのに役立てます。

4. 上記に関連して、どのような教訓や経験を共有したいですか?

自宅で仕事をしていると、澄み切った空気を感じ、大気汚染レベルが劇的に下がっていることに気づきます。また、科学者達がガンジス川の水がハリドワールやバラナシのような上流の地域で飲用可能であると主張していることを知りました。野生動物は車のいない道路で、自由に歩いています。新型コロナウイルスによる都市封鎖によって、自然は人間の攻撃から一時的な休息を得ているように見受けます。私たちは生産行動や消費行動をより環境と気候変動に対して優しいものにする必要があることを、ひしひしと感じる毎日です。

さらに重要なのは、経済成長最優先の影で、次の食事がいつできるかも分からない多くの人々を取り残したことです。彼らは一生懸命働いて工場を動かし続け、ビジネスが利益を享受できるようにし、経済成長を進めてきた人々です。しかしながら、彼ら自身は経済成長の真の恩恵を受けていないのです。

新型コロナウイルスを誰も避けられないのと同じように、社会保障施策も、誰もが享受できるようにすることが求められます。社会保障スキームは、無駄のない包括的な社会的セーフティネットと、非常に効果的な財政刺激という二つの目的を果たすことができます。ポストコロナの時代は、社会が一つとなって現在と未来を再考し、格差と不平等をなくし、より包括的な社会を作り出す時代になることを望みます。 新型コロナウイルスは、私たちが結束して持続可能な開発目標を達成する為にさらなる努力をする必要性を問いただしています。「誰一人取り残さない」世界の実現も目指し、私たち各々の責任を果たしていきましょう。


[2] UNDPはインドで 、ワクチン情報ネットワーク「eVIN」の設計と展開を支援しています 。eVIN は 、全てのワクチン供給を記録し 、その保管・配給状況を追跡するシステムです。これまでに37,000人を超える政府職員が新システムの使い方に関する研修を受け、ワクチンの「在庫切れ」もすでに10%から1%未満に低下しました 。https://www.in.undp.org/content/india/en/home/projects/gavi1.html

野田章子(のだ・しょうこ)
国連開発計画(UNDP)インド事務所常駐代表。UNDPモンゴル事務所常駐副代表、同ネパール事務所長、モルディブ国連常駐調整官兼UNDP常駐代表等を経て2019年より現職。

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