ヨルダン:みんながつながり合う社会の実現へ。過激主義からこの国の平和を守る。

2020年2月17日

 

「ハート・オブ・アンマン」プロジェクト説明会での参加者によるグループワークの様子

 

中東の王国、ヨルダン。そう聞いてみなさんは何を想像しますか。中東と聞くと、灼熱の太陽と広大な砂漠をイメージしたり、頭に布をかぶってラクダに乗っている人々を連想したりするかもしれません。中には、ニュースや新聞を日頃から目にしていて、最近の周辺国の動向や中東全体の情勢から、治安が悪く危険な場所だとぼんやりと思っている方も多いのではないでしょうか。いずれにせよ、地理的にも離れていることから、みなさんにとってはあまり馴染み深い国ではないのかもしれません。

しかしながら、ここヨルダンでは、日本はとても人気のある国です。特に首都アンマンでは、たくさんの若者がワンピースや名探偵コナン、ドラえもんなどの日本のアニメ・マンガを子供のころからよく見ていて、その人気は目を見張るものがあります。また、日本食や日本の科学技術なども多くの人に知られていることから、日本という国や日本文化への関心は非常に高いと言えます。

そんな親日の国ヨルダンは、実は中東の中でも比較的安全で過ごしやすく、見どころ満載の観光スポットとしての一面もあります。体が水面に浮く死海や、映画「インディジョーンズ」の舞台にもなったペトラ遺跡なども、ヨルダンの有名な観光地です。最近では、「実写版アラジン」のロケ地として、砂漠の地ワディラムが使われて大きな話題を呼びました。

しかし、その一方で、ヨルダン国内には非常に厳しい現実があります。人口のおよそ10%にも及ぶ約65万人のシリア難民が今なおヨルダン各地に住んでおり、国内の経済状況も悪化の一途をたどる中、2019年の第3・第4四半期には失業率が19%を上回りました。特に、若者と女性の失業が深刻な問題となっています。

そうした長引く国内の経済不振と不安定な周辺国の情勢の余波から、過激な思想や暴力的な主義主張が国内に広まることが強く懸念されています。政治不信や社会不安が人々の不満をあおり、過激思想に染まっていく温床となっていると考えられているのです。こうした現状を受け、国連開発計画(UNDP)は日本政府の協力を得て、政策レベルと地域社会レベル両方からのアプローチによる暴力的過激主義の防止(Prevention of Violent Extremism, 略称 PVE)や社会の安定性向上を目指す支援事業をヨルダン政府とともに行っています。

2019年3月よりUNDPが実施する本事業(事業名:人道・開発・平和アプローチを通じたヨルダンにおける暴力過激化防止及び生計手段の強化)では、1)政府機関や地域コミュニティ団体の暴力的過激主義に対する能力開発と連携強化、2)都市部における雇用や生活向上促進を通じた、過激思想に対する社会経済的強靭化の推進、の二点を大きな柱としています。

 

首都アンマン

 

1.  政府機関やコミュニティ団体のPVEにおける能力開発と連携強化

これまでのヨルダンにおけるPVE関連事業の問題点として、各政府機関や市民団体、国際機関などすべての関係機関が共有する、全体の取り決めや戦略に欠けていることが挙げられていました。そこでUNDPは、ヨルダン政府のPVE担当部署であり首相府の下にあるPVEユニットと協力し、PVEに関する国家戦略(National Action Plan, 略称 NAP)の作成を支援しました。2018年8月に政府がNAPを承認した後も、UNDPは引き続き同戦略の改正をサポートし、2019年10月には最新版のNAPが、UNDPヨルダン事務所代表サラ・オリヴェラの立ち合いのもと、PVEユニットから柳秀直・在ヨルダン大使に提出されました。2019年版のNAPは今後2021年までの活動計画を含んでいるため、PVEユニットは、他の関連団体や国際機関にも順次、最終決定されたNAPを提出する予定です。

また、国内におけるPVE活動の現状をより多くの人に知ってもらうため、UNDPはオンラインネットワークを立ち上げ、参加者がPVE関連の文献を読んで関連情報を共有したり、PVEや平和構築分野について議論したりすることのできる自由で安全なプラットフォームを提供しています。2019年の10月には、地域コミュニティ団体や国際機関の関係者を招待して同ネットワークの説明と参加登録を呼びかけるワークショップも開催しました。こうしたPVEネットワークの拡大を通して、関係省庁や国際機関のみならず、ヨルダン各地の様々な住民組織といった、草の根レベルのPVE組織やそれに従事する人々との協力関係を深め、UNDPは今後も多角的なPVE事業をヨルダンで展開していきます。

 

PVEユニットでの柳大使へのNAP提出

 

 

2019年10月に行われたPVEに関するワークショップ

 

2.    都市部における過激思想に対する社会経済的レジリエンス強化

生活に困っている人々に対して、働く機会や収入源を提供して暮らしぶりを支えるということは、PVEや社会的結びつきの強化につながる大事な取り組みの1つです。2019年6月より、UNDPは社会経済的な自立と生活水準の向上、ヨルダンの首都であるアンマンにおけるコミュニティ開発への参入促進を目的としたプロジェクト「ハート・オブ・アンマン」を始めました。このプロジェクトの狙いは、アンマン中心部に住むヨルダン人・シリア難民に対して、彼らの属するコミュニティのニーズに沿った活動への参加を支援したり、実際に必要とされているビジネスのスタートアップへの能力強化・向上をサポートしたりすることで、アンマン中心部で暮らす多種多様な人々がうまく溶け込み、支えあって生きていけるような環境をつくることです。

2019年12月には、実際に、800組もの応募者の中から選ばれた55のスタートアップ事業の代表者が、UNDPや政府関係者、コミュニティの代表者らを前に、自分たちのビジネスについてプレゼンテーションを行いました。これらの事業は、そのビジネスがコミュニティ内のどのような課題に取り組むのか、どういった解決策を講じるのか、それに対する社会的な影響はあるのか等、様々な観点から精査され、最終的には、そのうちの30の事業に今後数か月間のさらなるサポートとスタートアップの専門家による経営メンターサービスが与えられることが決まっています。UNDPは、経営状況の確認や専門家からの指導を定期的に行うことで、これらの新規事業が持続可能でより収益性の高いものとなるようサポートを続け、アンマン市内の地域経済の発展に貢献していきます。

 

スタートアップ事業の代表者によるプレゼンテーションの様子

 

以上のように、UNDPは、日本政府の協力のもと、より安定的で自立した国内社会を実現させるべく、政府や地域コミュニティの過激思想に対するレジリエンス強化を図り、幅広く多角的なPVE事業をヨルダンで実施しています。


高濱 凌 | UNDPヨルダン事務所/ UNV平和構築担当官(国連ユースボランティア )

工藤香奈 | UNDPヨルダン事務所プログラム専門官(現在、国連ハビタットに人間居住専門官として出向中)