2021年の世界環境デーに地元の若者たちとゴミ拾いをした際の様子 Photo credits: Arslan Kannazarov/ UNDP Uzbekistan

 

カラカルパクスタンという名を耳にしたことがありますか?カラカルパクスタンは中央アジアの一国であるウズベキスタンの中にある共和国で、世界地図や地図帳ではなかなか目にしない名前です。「カラカルパクスタン」には「黒い帽子の地」という意味があり、その名の通り先住民の人々は特徴的な黒い帽子を被って生活していました。私は2020年9月から、国連開発計画(UNDP)ウズベキスタン事務所・収入向上チームに所属し、アラル海というカラカルパクスタン内に位置する湖周辺に暮らす人々に対し、ビジネスのデジタル化を通して収入の向上および安定を図っています。

 

 

カラカルパクスタンはウズベキスタン西部に位置し、国土は166,600km2でウズベキスタンのおよそ3分の1の面積を占めますが、人口は1,889,800人でウズベキスタン全体のわずか2.17%にすぎません。カラカルパクスタンでは農耕地およそ2,640km2(2020年)を利用してトマトやキュウリ、ナス、リンゴ、メロン、桃など様々な野菜や果物を栽培しています。私は日頃、カラカルパクスタンの首都ヌクスの青空市場で買い物をしますが、市場にはいつも色とりどりの旬の野菜や果物が並んでおり、新鮮な匂いに包まれ、心もおなかも満たされています。

ところが、豊かな文化を誇る一方、深刻な環境問題にも悩まされています。土地の大部分が砂漠地帯となっており、夏場には気温が45度に達し、冬は-20度を記録します。この9か月で、私は人生における最高気温と最低気温をカラカルパクスタンで経験することとなりました。さらにウズベキスタンは世界で2か国しかない二重内陸国の1つです(もう一つはリヒテンシュタイン公国)。二重内陸国とは内陸国のうち、国境を接するすべての国が内陸国であり、海に出るために最低2回国境を通過しなければならない国のことを指します。そのため、ウズベキスタンの特異な地形は水を確保するのに最も困難な地域のひとつと言えます。水といえば、アラル海がカザフスタンとの国境に位置していますが、かつて世界で4番目の大きさを誇ったこの湖も気候変動や不適切な灌漑(かんがい)管理によって水が干上がり、以前の10%程のサイズにまで縮小してしまいました。アラル海における水資源はアムダリア川とシルダリア川という2つの河川ですが、綿花栽培のために設けられた灌漑システムが大量の水を無駄にしてしまい、その結果、町の至る所で、水がもう長らく流れていない状態が続いています。ここでは雨が降ることも珍しく、前回雨が降った際は嬉しくなって家を飛び出し、近所の人と恵みの雨を祝いました。

 

Muynakの「船の墓場」 Photo credits: Hiroshi Kaneko/ UNDP Uzbekistan

 

水不足は地域住民の食生活そして健康に甚大な被害を及ぼしています。カラカルパクスタンの貧困率は2004年に44.7%を記録しました。その後、改善が見られましたが、それでも2020年時点で、国民の14.6%が貧困の中で生活をしています。この地域における栄養失調や貧困は、カラカルパクスタンの高い疾患率にも影響を及ぼしています。さらに、影響は健康だけでなく経済にも及びます。水不足が原因で職を失った漁師や農家が、カザフスタンやロシアなどの近隣諸国に出稼ぎに行くケースが多発しており、残された家族は出稼ぎ労働者からの送金に頼り、経済的に不安定な生活を送っています。あるヌクスに住む青年は「家族のことが好きだからこそ、家を離れて出稼ぎに行く」と悲痛の思いを語っていました。彼だけでなく多くの働き盛りの男性は、より良い仕事を見つけるために地元を離れ、家族に仕送りをし、遠くから金銭的な支援することも少なくありません。

国連ボランティアとして私はUNDPと国連人口基金(UNFPA)の共同プログラム「アラル海地域における環境破壊による健康、環境および経済不安に対する地域社会の復元力構築」に従事しています。本プログラムは日本政府支援のもと実施されており、ヘルスケアサービスの質の向上、支援対象地域における収入向上が図られています。アラル海地域で発生する環境問題は、きれいな飲み水の確保や砂漠化による食糧危機および栄養失調、水や土壌の質の低下に伴う農業および漁業の衰退とそれに伴う雇用の喪失といった様々な問題を引き起こしています。このような環境に適応しつつ、さらに状況を改善するためには包括的な取り組みが必要です。

 

友人の農場でコットンを採集している様子 Photo credits: Arslan Kannazarov/ UNDP Uzbekistan

 

アラル海地域における課題の一つは、デジタルツールに関する情報およびスキルが欠如していることです。私はこのプロジェクトを通して、地元企業家に対してEコマースやFinTech、SNSのビジネス活用を推進し、収入向上を図っています。新しいものを導入する際、メリットよりもリスクを理由に躊躇する人もいますが、一方でデジタルツールに興味を示し、ビジネスを効率的にするため、積極的に挑戦しようとする人々も目にしてきました。ワークショップのある参加者は、「ワークショップを通して、デジタルプラットフォームが自分の夢を実現する場であることがわかった。また、異なる人々、特に日本の文化や伝統を知ったことで、自分の視野を広げることができた」と語ってくれました。テクノロジーの発展は、医療、経済、教育などの分野において、現地の人々の生活の質を向上させてきました。しかし、ウズベキスタン人の間で情報格差があるのも事実です。若者や都市部の人は新しいアプリやソフトウェアへの関心度が高いですが、高齢者や地方の人はデジタルツールに馴染みがなく、知識やアクセスも限定的になる傾向にあります。誰もがデジタル化に取り残されることなく、最も支援を必要としている人々に手を差し伸べていかなければなりません。

 

Bozatauで開催したデジタル化に関するワークショップの参加者 Photo credits: Hiroshi/ UNDP Uzbekistan

 

私は、カラカルパクスタンでの活動を通して、現地の人々に変化をもたらすアプローチを学びました。最も苦労したのは保守的な考えを持つ人への対応でした。デジタルツールのもつメリットやデメリットを伝えるよりも、そのツールを使ってどのようにビジネスを展開するのか、という現地の成功事例の方が行動変化をもたらすのに効果的であることがわかりました。そのため、現地でデジタルツールを積極的に導入している女性起業家のケースおよび体験談を用いて、参加者に成功への秘訣などを紹介しました。現地の女性起業家は新しいものへの抵抗が比較的少なく、積極的に新しいツールを試していました。そのような前向きな姿を見て、カラカルパクスタンにも新しい風が吹き込んでいるのを実感しました。

現地の同僚や友人が想うように、私もこの地を第二の故郷のように想っています。この地はサーマーン朝やモンゴル帝国、ティムール帝国などの様々な時代を経て、豊かな文化を育んできたシルクロードの代表地です。現在、アラル海は過酷な環境条件や非持続可能な水管理といった人的要因で深刻な水不足に直面しています。現在、そういった状況を改善するため、社会経済的な開発プロジェクトが数多く実施されています。地域コミュニティは政府や開発機関に積極的に働きかけ、次の世代も、そしてその次の世代もこの地で生活していけるよう一生懸命努力しています。私たち個人としても彼らのためにできることがあります。アラル海地域の砂漠化を防止するため、UNDPは政府および民間企業と連携し、#GREENARALSEAというオンラインでの募金活動を実施しています。集まった資金でサクサルという耐乾性植物を植え、アラル海の緑地化を図っています。たった1本のサクサルの木で、4トンもの砂を固定し保持することができるのため、砂嵐による有毒な塩分の拡散防止に効果があります。ここで生活を始める前、カラカルパクスタンは私にとって砂漠地の一つにすぎませんでしたが、今となっては最も動向の気になる地の一つとなりました。そして、このブログを読んでくださった皆さんも同様に、今後カラカルパクスタン、そしてアラル海に注目してもらえることを願っています。

 


筆者:金子浩士
国連開発計画(UNDP)ウズベキスタン事務所・収入向上チーム 国連ボランティア

2012年に神戸大学海事科学部を卒業後、日系通信会社に勤務。その後、JICA海外協力隊(マーケティング)としてケニアでボランティア活動を実施した後、2020年にサセックス大学(英国開発学研究所)で開発学修士号を取得。2020年9月より国連ボランティア(※)として現職(2021年1月までは新型コロナウイルス感染症の影響で日本からリモートワーク)。


※国連ボランティアについては、国連ボランティア計画(UNV)ホームページを参照

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