UNDP邦人職員リレーエッセイ「開発現場から」 第38回 UNDPスーダン・エルファシャ事務所 天野裕美さん

2016年10月28日

2016年10月28日

 

プロジェクト活動コミュニティである北ダルフール州のダグダグ村で、2016年国際青少年デーのお祝いの際、ダグダグ村より、ユースボランティア・プロジェクトの活動を評価され、ユースボランティアと共に、感謝状を受ける筆者。

 

思考能力も身体能力も、もう大人並み、さらに豊かな感受性と飛躍的に成長する潜在能力を持ち合わせている。でも社会における立場では、まだまだ一人前として扱ってもらえず、社会で挑戦していくには制限がたくさんある。これが私の思う「若者(ユース)」です。

もっと学びたい、成長したい、社会の役に立ちたいと願っている若者たちが、チャンスをもらえず、無為に時間と若さを無駄にして過ごしていくことは、非常にもどかしいものです。そして、こういった現実に失望した若者が争い事に参加し、犯罪に手を染めていくことは、珍しいことではありません。若者たちが、視野を広げ、自分の能力を十分に発揮できる「チャンス」を得られるよう手助けしたいと思い、2013年3月から、国連開発計画 (UNDP)スーダン事務所で「生計復興プログラム:青年ボランティア・ダルフール復興プロジェクト(以下、ユースボランティア・プロジェクト)」に従事しています。

私が赴任するスーダンのダルフール地方は、スーダン西部に位置し、フランス全土とほぼ同じ大きさがあります。ダルフールでは、2003年に紛争が勃発してから、すでに10年以上の月日が経っておりますが、いまだ部族間や政府、反政府勢力間の紛争が多々あることから人道援助が続けられ、国際社会の援助疲れ、ダルフール内の援助依存も問題となっています。

ユースボランティア・プロジェクトは、ダルフールの大学卒業者を対象に、主にビジネスと環境に関するトレーニングを行い、訓練卒業者をユースボランティアとして、それぞれの出身コミュニティに9か月間派遣します。ユースボランティアは、ビジネス及び環境に関する訓練をコミュニティメンバーに実施すると共に、小中規模ビジネス企画の発案支援、マイクロファイナンス機関への橋渡し等を行い、地域住民の生計向上および環境に考慮した貧困削減を目指しています。また、ユースボランティア・プロジェクトは、ダルフールの5つの州をカバーしており、2015年から始まった第2フェーズの現在は、150人のユースボランティアが45コミュニティで活動しています。このように、本プロジェクトでは、ダルフールの若者の能力を活かすことで、通常支援が届きにくい僻地を含め、かつてない規模でダルフールの紛争被災コミュニティへの生計向上支援ができます。

本プロジェクトにおいて私は、プロジェクト運営をリードする役割を任されており、非常にやりがいを感じています。ダルフールの若者による、ダルフールの人々への生活向上を促進しており、少しずつでもダルフールにおける自助努力が高まることも目標に活動しています。この現場での活動は、もちろん大変なこともありますが、ダルフールの平和と発展のために役に立ちたいと思っている若者と出会うことができ、共に働くことができるのは非常に嬉しいことです。また、その若者がコミュニティの人々のために生き生きと働く姿や、コミュニティの人々の若者への見方が変わるところを目撃することも、大変な励みとなっています。

やる気あるダルフールの若者とこのプロジェクトのことを、国内外の多くの人に知ってもらえるように広報活動にも力を入れており、今年はじめにはプロジェクトのフォトストーリーも作成しました。今月は、その第2弾となるフォトストーリーをつくりました。また、トレーニングやイベントの際には、拠出国である韓国についても常に言及しています。この際には、ユースボランティアやコミュニティの方々から、韓国人職員と思われて「韓国ありがとう!」というお言葉を時々いただきます。こんな時は、中立な国連職員として、また韓国の拠出国としての認知を混乱させないよう、あえて正さずに「頑張ってね!」とお返ししています。日本人として「頑張ってね」と言いたい気持ちを抑えつつ、国際協力の分野で働いていて嬉しいことの一つは、このように、異国の人々がダルフールの若者を応援してくれているということが伝わり、この遠いダルフールの村でその国の存在が身近になるということです。また、国連で活動するに当たり、そのシステムや活動方法にはまだまだ議論および向上の余地があるとは思いますが、韓国大使館の参事官から「このプロジェクトによって、韓国の人々のお金が本当にダルフールの人々に役に立っていると言える」というお言葉をいただいた時は、本当に嬉しく、気が引き締まる思いでした。

現在、プロジェクトチームにも恵まれ、更に実りある活動をしようと意気込んでいます。プロジェクト開始当初より、プロジェクトチームには、国連ボランティア(UNV) と国際協力機構(JICA)提携の国連ボランティア特別枠によって派遣された日本人国連ボランティアが勤務しています。日本から直線距離でも約10500キロメートル。遠い遠いダルフールですが、日本の皆さまにも、ダルフールの若者たちや本プロジェクトのことを、少しでも知っていただければ大変嬉しいです。


天野裕美(あまの・ひろみ)
UNDPスーダン・エルファシャ事務所、プロジェクトアナリスト
 
2003年成蹊大学文化学科卒業後、2004年に英国エセックス大学にて人権学修士号取得。ブリュッセルにて欧州議会及びNGOでのインターンシップを経て、2007-2009年まで、青年海外協力隊(青少年活動)としてヨルダンに赴任。在カタール日本大使館専門調査員として勤務したのち、2012年2月よりJICA国連ボランティア特別枠によるUNVとして、UNDPスーダン事務所に勤務。2015年1月より現職。

本記事は2016年10月28日に掲載されたものを、2021年6月1日に再投稿しました。