SDGキャンペーンでLuc Stevensタイ国連常駐調整官と川上補佐官(写真左)Photo: UN Women

 

環境やガバナンスなど幅広い分野で開発支援に携わる国連開発計画(UNDP)。あまり知られていないのですが、そんなUNDPには、多様な国連機関の調整役という、もう1つの顔があります。

各国のUNDP事務所代表は、国連常駐調整官(United Nations Resident Coordinator)という役職も兼ねています。国連常駐調整官は、国連事務総長の代理として、駐在国の開発に関する活動の全般的な責任を負っており、各国連機関の代表で構成される国連国別チームのトップでもあります。駐在国における国連システムの「大使」と「議長」を合わせたような役割だと言えます。他方、UNDP独自でも各国で多くのプロジェクトを実施しているため、各国のUNDP事務所では、UNDPの国所長(Country Director)や副代表(Deputy Resident Representative)が配置され、UNDP独自のプロジェクトの細かい管理をしています。

そもそも、なぜ国連常駐調整官は必要なのでしょうか。国連機関や他の援助機関がバラバラに活動し、ドナーからの資金を競い、自らの組織の拡大を目指すばかりでは、様々な弊害が生じます。例えば、支援の内容に重複があったり、バランスを欠いたり、個々の機関の特長をうまく活かせなかったり。政府にとっても、数多くの機関と個別に対応する負担は少なくありません。個々の機関の使命を尊重しつつ、国連として政府との全般的な連携を深め、より効果的・効率的に支援を実施すること。また、国連機関が一丸となって、国連の理念や価値を現地の人たちに伝えること。これらの目的に寄与するために、UNDP管理の下、国連常駐調整官制度は今日まで改良を重ねながら続いてきました。

私は2年前から、タイで国連常駐調整官の補佐官を務めています。当地の国連国別チームには、UNDPはもとより、国連児童基金(UNICEF)や国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)など22機関が名を連ね、私が所属する国連常駐調整官事務所(UNDP事務所の一部署、スタッフ7人)が国連常駐調整官と国別チームをサポートしています。よって、UNDPのスタッフではありますが、すべての国連機関のために働くことが求められ、例えば私のメールアドレスもドメインはundp.orgではなくone.un.org(「ひとつの国連」)となっています。

オフィスは国連開発計画(UNDP)の中にありますが、UNDPのプログラムに携わっている訳ではないので、同僚からも「国連常駐調整官事務所って、どんな仕事をやっているの?」と尋ねられることもあります。国連機関同士の調整と一口に言っても、なかなかイメージし難いため、私が携わってきた仕事を幾つか具体的に紹介しながら、ご説明したいと思います。

  • 【平和・安全】2014年の軍事クーデター後のタイの政治・社会情勢について、国連機関、大学・研究機関、大使館、非営利組織、メディアの関係者を集めて、情報・意見交換の会議を定期的に開催。国連本部・政務局(DPA)の事務次長補のタイ訪問に合わせて、外務副大臣らとの面会を設定。2016年8月のタイの新憲法草案の賛否を問う国民投票では、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)による選挙監視団に加わり、バンコク都内の投開票所を回り、選挙が自由・公正に実施されているか確認した。
  • 【人権】市民と政府が人権状況や課題について率直に話せる場を作ろうと、タイ法務省高官ら政府関係者と市民団体の代表ら計150人参加の「人権対話」(Human Rights Dialogue)を企画し、司会のUN Women地域局長を補佐。また、タイ政府の人権条約機関への報告・審査に際し、駐在国の国連機関として情報をとりまとめて提供し、条約の履行に向けて政府に働きかけた。
  • 【広報】2015年11月から1年間に渡って、タイ全土で「持続可能な開発目標(SDGs)」のキャンペーンを実施。一般の人たちを対象にバンコク都内で4日間の展示会を開催し、その後は地方6大学で展示を回覧。各大学のオープニングでは、各機関の広報官の協力を得て作成したビデオを上映し、国連常駐調整官に加えて世界保健機関(WHO)や国連工業開発機関(UNIDO)の現地代表らがスピーチに出向いた。
  • 【緊急支援】国連機関の代表や職員を対象にタイ国内で大規模な自然災害が起きた際の対応策を検討するワークショップを開催。国連人道問題調整事務所(OCHA)の指導を仰ぎながら、各機関のオペレーション・マネージャーらと既存の緊急時対応計画を改訂し、国別チームの年次合宿で完成版を発表した。
  • 【開発】国連常駐調整官の発案で、タイが直面する「高齢化問題」のセミナーを主催。在タイ日本国大使館の協力を得て、JICAアドバイザーが日本の現状や年金・介護制度を説明した。これを受けて、専門家によるパネルディスカッションが行われ、政策提言として文書にまとめられた。国連人口基金(UNFPA)から司会、国際労働機関(ILO)からパネリストが参加した。

国連常駐調整官と私たち国連調整官事務所のスタッフは、国連の3つの柱である「平和と安全」「開発」「人権」に部門横断的に携わるだけでなく、個々の国連機関が共通の目標に向かって分野を超えて協力を深められるような環境作りを進める役割があります。

私が国連常駐調整官の補佐官として勤務する過去2年間で最大の任務は、タイの開発課題や政府の開発計画を踏まえて、国連国別チームとして向こう5か年間(2017年―2021年)の支援方針を明記した文書(国連パートナーシップ・フレームワーク)を策定することでした。2011年に高中所得国(2011年当時の基準は国民1人当たりの国民総所得(GNI)が3976—1万2275ドル)入りしたタイは、都市と地方の格差は大きいものの、経済・社会開発が進んできたことから、先進国ドナーや各援助機関は支援を縮小してきました。半面、タイ自身が近隣国を中心に技術協力を熱心に進めており「援助国」への道を歩み出しています。こうした変化を背景に、国連が今後もタイで果たす役割について、国連機関同士、そして関係省庁や非営利機関との対話を何度も繰り返し、文字通り一字一句を巡る協議を続けました。

国連常駐調整官事務所の仕事の魅力は、国レベルの国連システムの仕事を見渡し、ハイレベルの意思決定に貢献できることが挙げられると思います。その一方で、どの機関もそれぞれの仕事があくまで優先のため、機関をまたぐ、もしくは全体に関わる仕事については、どうしても二の次になりがちで、スムーズに進まないことも少なくありません。このため、普段の仕事のやり取り等を通じて、様々な機関の代表や同僚たちと信頼関係を築くことの大切さを実感しています。

私にとって、1国の国連システムのリーダーをすぐ側で支える経験は掛け替えのないものとなっています。国連常駐調整官や同僚たちから受けた沢山の学びは、国連の理念の実現に向けて、将来にわたって還元していきたいと考えています。本稿を通じて、国連常駐調整官事務所の仕事について、また「ひとつの国連」の取り組みについて、ご関心を持っていただけたなら幸いです。


川上裕央
UNDPタイ事務所、常駐調整官補佐官

兵庫県洲本市出身。2005年に慶応大学総合政策学部卒業後、朝日新聞社で記者として勤務。2012年9月からロンドン政治経済学院(LSE)で平和構築を学び、国際関係学修士号。UNDP東ティモールでインターン、UNDPフィリピンで国連ボランティアとして平和構築担当官を経て、2015年2月からJPOとして現職。
*フィリピンでの業務については国連フォーラム上のエッセイをご参照ください。

本記事は2017年2月24日に掲載されたものを、2021年6月1日に再投稿しました。

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