よくあるご質問:人間開発指数(HDI)とは

・人間開発指数(HDI)とはなにか?
人間開発指数(HDI)は、保健、教育、所得という人間開発の3つの側面に関して、ある国における平均達成度を測るための簡便な指標である。1990年に刊行された人間開発報告書創刊版のために、パキスタン人の経済学者である故マブーブル・ハックがノーベル経済学賞受賞者であるアマルティア・センやそのほかの優れた人間開発の専門家の協力を得て考案した。所得水準や経済成長率など、国の開発の度合いを測るためにそれまで用いられていた指標にとって代わるものとして、この指数は導入された。

・HDIからなにがわかるのか?

一国の開発のレベルを評価するに当たっては、経済成長だけでなく、人間および、人間の自由の拡大を究極の基準とするべきであるという点を強調するために、HDIは導入された。また、HDIは、政府の政策の当否を論じるきっかけにもなりうる。この指数を参照することにより、2つの国の国民1人当たりの国民総所得(GNI)が同レベルでも人間開発のレベルが異なる場合に、その事実を浮き彫りにすることが可能になるのである。たとえば、バハマとニュージーランドは、GNIはほぼ同水準だが、平均余命と就学予測年数には大きな隔たりがあり、それを反映してニュージーランドのHDI値はバハマよりはるかに高い。このようなHDI値の際立った違いに触発されて、政府の政策がどのような優先順位に従うべきかについて議論が始まる場合もあるだろう。

・2011年版で、2010年版よりHDI算出国の数が増えているのは、なぜか?  
2011年版でHDIを算出した国と地域は187となっており、2010年版の169の国と地域に比べて、18の国と地域が増えている。マーシャル諸島、モナコ、ナウル、朝鮮民主主義人民共和国、サンマリノ、ソマリア、ツバルの7か国は、2010年版には含まれていたが、2011年版ではデータを入手できなかったためにHDIを算出できなかった。その半面で、2010年版でHDIを算出できなかった多くの国について、国連開発計画(UNDP)人間開発報告書室は、国際的な統計作成機関および各国政府の統計官庁と協力し、また、人間開発報告書作成チームの統計部門および統計諮問委員会の推奨する手法とモデルを用いることにより、欠けているデータの推計値を割り出した。

・2011年版では、2010年版と比べて多くの国のHDI順位が変動したのか?
2011年版では2010年版よりHDI算出国が18か国増えているので、必然的に各国の順位も変動する。また、国によって進歩のペースが異なる結果として、順位が変動したケースもある。しかし、順位変動の最大の要因は、統計作成機関が指数の改定をおこなったことにある。  

2011年版でのHDI算出国の増加、およびデータの改定が理由で、この2年間のHDI順位を単純に比較することはできない。HDIの値と順位の時系列変化をたどりたい場合は、異なる年度の人間開発報告書の数字を比較するのではなく、最新版の人間開発報告書の「統計資料表2」を参照することを勧める。人間開発報告書の「統計資料表2」では、毎年最新の算出方法を用いて過去の年度の数字も計算し直しているからである。そこに記された比較可能な時系列データを参照すれば、HDIの変化の軌跡を知ることができる。また、この表には、それぞれの国の順位の変動幅も示してある。順位変動幅が0と記されている場合は、2010年と2011年の間に、他国との比較において相対的にその国のHDIが改善も後退もしていないことを意味する。

・2011年版では、HDIを構成する指数に大きな修正がなされたのか?
国際的なデータベースは、毎年改定される。その際、過去のデータに関しても新しい方法で算出し直される場合が多い。平均余命:国連人口局は2011年、平均余命に関する統計の改定をおこなった。それにともない、過去、現在、未来の数値が変更された。ほとんどの場合、変化はごくわずかだが、多くの国で平均余命が上昇ないし下落した。就学予測年数と平均就学年数:国連教育科学文化機関(UNESCO)統計局は、就学予測年数と平均就学年数を算出するうえで土台となる就学率と教育達成度のデータを頻繁に更新している。UNDP人間開発報告書室は2011年版において、教育に関する新しい国勢調査データが入手できるようになった34か国について平均就学年数を更新し、UNESCO統計局の教育達成度表に基づいて8か国の平均就学年数を新たに推計した。1人当たりの。国民総所得(GNI)は、米ドル建ての購買力平価(PPP)に換算した形で示される。その推計の土台となるのは、現在の国家の単位で報告されている1人当たりGNI、国内総生産(GDP)デフレーター、現在の米ドル建て購買力平価(PPP)換算の1人当たりGNI、そして、2010年と2011年の実質GDP成長率に関する国際通貨基金(IMF)の試算値である。これらのデータは毎年、更新もしくは改定される。たとえば2010年版においては、2009年の1人当たりGNIのデータが存在しなかったので、IMFの試算値を代わりに用いた。しかし2011年版では、2009年の1人当たりGNIのデータが入手できたので、GNIの推計に使用した。また、2011年版では2005年の米ドル建てPPPに換算してGNIを示しているが、2010年版では2008年の米ドル建てPPPに換算している。このように換算の基準年が異なるので、両年の値を単純に比較することはできない。

・米国の2011年版のHDI順位は、2010年版と変わらず4位だった。しかし、それ以前は上位10か国に入っていなかった。この違いは、なぜ生まれたのか?
HDI値の算出方法を見直して、所得の数字の上限値を撤廃したことも順位変動の要因の1つだが、その影響はそれほど大きくない。所得の値が米国より高いにもかかわらず、HDI順位が米国より低い国として、ブルネイ、香港(中国特別行政区)、クウェート、リヒテンシュタイン、ルクセンブルク、カタール、シンガポール、アラブ首長国連邦といった8つの国が存在する。大きな変動を生み出した原因は、むしろ識字率に代えて、平均就学年数を教育面の達成度を測る指数として採用したことである。米国の平均就学年数は、1位のノルウェーより0.2年少ないだけのきわめて高い水準にある。一方、米国の識字率は99%に達していたが、開発のレベルが高い25の国で識字率が99%に達していたので、他国との差別化要因となっていなかったのだ。また、新たに取り入れられた相乗平均の手法は、人間開発の3側面すべてでバランスの取れた好成績を上げている国に有利に働くので、HDI順位で米国のライバルとなっていたスウェーデン、ドイツ、アイルランドといった国には不利な材料となった。

・HDIの諸指数は、国レベルでも用いることが可能なのか?
可能である。HDIを構成する諸指数は、ほかの側面で統計上の質をそなえていれば、国レベルの指標としても用いることができる。また、適切なデータが入手できるか、もしくは健全な統計手法により推計値を求めることができれば、一連の諸指数を国家より小さなレベルに分解し、一国内の集団間のレベルの違いや格差を描き出すことも可能である。事実、多くの国では、HDIの手法を用いて国内の格差を浮き彫りにすることにより、建設的な政策論議が促進されてきた。

・HDIのデータは、どこから得ているのか?
出生時平均余命は国連経済社会局のデータ、平均就学年数はBarro and Lee(2010)のデータ、就学予測年数はUNESCO統計局、1人当たりGNIは世界銀行と国際通貨基金(IMF)のデータに依拠している。ただしごく一部に、その国の国民全体の状況を映し出せる世帯調査のデータをもって、平均就学年数を推計した国や、国連の「国民経済計算データベース」からGNIの値を得た国もある。人間開発の根幹をなす領域の指数に関しても、いまだにデータが欠けているケースがしばしばある。人間開発報告書室は、人間開発に関するデータの改善を積極的に働きかけているが、原則として、また実務上の理由から、各国から直接データを集めることはおこなっていない。

・1人当たりGNIを米ドル建てPPP換算で表示するのは、なぜか?
HDIは187の多様な国と地域の人間開発のレベルを測定しようとするものであり、対象国の物価水準にはきわめて大きなばらつきがある。さまざまな国の経済統計を比較するためには、まずデータを1つの共通の通貨単位に換算しなければならない。その際にPPPを用いれば、為替レートで換算する場合と異なり、国家間の物価の違いを考慮に入れることができる。つまり、この方法で1人当たりGNIの値を示したほうが人々の生活水準を的確に反映することができるのである。理論上は、1PPPドル(=国際ドル)のお金の購買力は、どの国でも米国と変わらない。現在用いているPPP値は、2008年に採用されたものである。PPP算出の土台をなす最新の国際比較プログラム(ICP)の調査は、2005年に実施された。この調査の参加国は146か国で、前回に比べて26か国増えている。PPPについてさらに詳しくは、「人間開発の諸指数──2008年版統計アップデート(第2部)」を参照されたい。2011年版のHDI算出に当たっては、GNIを2005年米ドル建てPPP換算値で示した。この点は、2008年米ドル建てPPP換算値を用いた2010年版から変更した。変更の理由は、世界銀行とIMFが金銭的変数を2005年米ドル建てPPP換算値で示すことを基本としていることに全面的に準拠するためである。この変更による影響の大きさは国によって異なるが、影響は平均してきわめて小さい。

・「帰属」指数とは、なにか?どのような国々に帰属指数が用いられているのか?
ある国でいずれかの指数が入手できない場合、人間開発報告書室は、ほかのデータで代用するなり、国家間回帰モデルを用いるなりして推計値を求めている(割り出した推計値は、HDIを算出する前に、当事国政府に通知している)。たとえば、アンドラとリヒテンシュタインの平均就学年数は、それぞれの隣国であるスペインとスイスの値に基づいている。その国の国民全体の状況を映し出すことができる、国連児童基金(UNICEF)の複数指標クラスター調査(MICS)、人口保健調査(DHS)、および世界銀行の国際所得分配データベースといった世帯調査のデータをもとに平均就学年数の推計値を割り出した国も、27か国ある。アンティグア・バーブーダ、エリトリア、グレナダ、キリバス、セントクリストファー・ネイビス、セントルシア、セントビンセント・グレナディーン、バヌアツの8か国は、国家間回帰モデルによって平均就学年数を割り出した。就学予測年数に関しては、バルバドス、モンテネグロ、シンガポール、トルクメニスタンの4か国の値を国家間回帰モデルによって推計した。

・人間開発の達成度を測る指標として、HDIの代わりに、1人当たりGNIを用いることはできるのか?
それは不可能である。1人当たりGNIは、国民所得の大きさしか映し出さない。所得がどのように用いられているか、たとえば、すべての国民に医療や教育の機会を与えるために使われているのか、それとも軍事予算に使われているのかをまったく明らかにしない。むしろ、世界の国々の1人当たりGNIの順位とHDIの順位を見比べると、政府がどのような政策上の選択をおこなうと、どのような結果が生まれるのかがよくわかる。たとえば、クウェートは1人当たりGNIがきわめて高い国だが、成人の平均就学年数が低い。そのため、1人当たりGNIがクウェートの40%に満たないバルバドスより、HDI値が低いのである。

・2011年版のHDIは2010年版と同様、世界の国々をHDI順位に応じて、25%ずつHDI最高位国、高位国、中位国、低位国の4つのグループにランク分けしている。どうして、このような分類をしているのか?
2010年版以前は、国別の順位ではなく、HDIの絶対値を基準に国々をランクわけしていたが、具体的にいくらの値で線引きをするかという点で、どうしても恣意的な要素が入り込む。そこで、国別の順位に応じて国々を25%ずつに分類するという、完全に相対的な基準を新たに取り入れたのである。これにより、同一グループ内の国々の値のばらつきが小さくなった。旧方式では、HDI値が0.500~0.799の国をHDI中位国として分類していたが、現方式では、HDI中位国のHDI値はそれより狭い0.522~0.698(2011年版)の範囲に収まっている。ただし、この方式では、それぞれのグループに分類される国の数がHDI算出対象国の総数に左右されざるをえないので、2010年版に比べてHDIの絶対値は改善していても、2011年版では前年より下位のグループに分類された国もある。ソロモン諸島、サントメ・プリンシペ、パキスタンなどがそれに該当する。このようなケースに関しては、HDI値の時系列変化(「統計表2」参照)に注目する重要性を強調すると同時に、国のランクわけが絶対的なものではなく、あくまでも相対的なものであるという点を改めて指摘しておく。2011年版における各ランク別の国の数は、187か国中で、低位国が46か国、それ以外の中位国、高位国、最高位国がそれぞれ47か国ずつとなっている。

・どうして、2011年版のHDI値が2011年に関するものと言えるのか?
2011年のHDI値は、入手可能な最新のデータをもとに2011年に算出されたものである。出生時平均余命とGNIは2011年に関する値であり、教育関連の2つの指数は、2011年5月15日現在でデータが入手可能だった直近の値である。GNIについては、世界銀行の世界開発指数により2009年の値が入手できた。2011年のGNI値は、IMFの「世界経済見通し」により入手した2010年と2011年の1人当たりGDPの推計年間成長率をもとに推計した。

・HDIだけで一国の開発達成度を評価できるのか?
それは不可能である。人間開発とは、HDIや、人間開発報告書で取り上げたそのほかの総合指数(不平等調整済み人間開発指数、ジェンダー不平等指数、多次元貧困指数)で把握できるより、はるかに広い概念である。たとえば、HDIには、政治参加の度合いやジェンダーの不平等の度合いが反映されていない。HDIおよびそのほかの総合指数はあくまでも、人間開発、ジェンダーの格差、人間の貧困に関するいくつかの主要なテーマについて、おおよその状況を映し出すものと考えるべきである。一国の人間開発達成度のもっと全体的な状況を描き出すためには、本報告書の統計表に示したそのほかの指数や情報を分析する必要がある(本報告書の「読者への手引き」を参照)。

・2010年に刊行された人間開発報告書20周年記念版において、HDIの算出方法が改定された。どのような変更がなされたのか?
HDIが保健、教育、所得の主要な3つの側面における人間開発の達成度を測定する総合指数であるという点は、改定の前と後で変わっていない。旧HDIにおいては、保健の側面を出生時平均余命で、教育の側面を成人識字率および初等・中等・高等教育の総就学率の組み合わせで、所得(生活水準)の側面を米ドル建てPPP換算済みの1人当たりGDPで測定していた。このうち、保健の側面に関しては、改定後も出生時平均余命を基準としている。教育の側面は、2010年版以降、就学予測年数(現在、就学開始年齢の子どもが生涯を通じて受けると予測される学校教育の合計年数)および、25歳以上の成人の平均就学年数を組み合わせて算出するものとした。所得の側面は、米ドル建てPPP換算済みの1人当たりGDPに代えて、米ドル建てPPP換算済みの1人当たりGNIを用いるようにした。GNIは、海外送金の影響を考慮に入れることが可能なデータなので、多くの途上国の経済状況をGDPより的確に描き出すことができるからである。

・なぜ、人間開発報告書は、教育と所得の面での達成度を測る指数を変更したのか?

指数を変更した理由は、いくつかある。たとえば、旧HDIで用いていた成人識字率は、知識の獲得の面におけるその社会の達成度を測るうえで十分な指標とは言えなかった(ある人の識字能力を識字か非識字かという二者択一で評価する指数で、識字能力にさまざまな段階があることを考慮していなかった)。それに対し、平均就学年数と就学予測年数を指標として用いることにより、教育のレベルとその近年の変化を以前より的確に把握することが可能になった。また、GDPは、ある国で生み出されたモノとサービスの金銭的価値を評価する指標であるが、その金額のうちのどれだけが国内にとどまったかは考慮しない。一方、GNIは、ある国の住民が得た所得の金額を評価する指標である。つまり、GNIの値には、国外から流入した金額が加算される半面、国外に流出する金額は差し引かれる。この点で、GNIはGDPより正確に、一国の経済的な豊かさを描き出すことができるのである。2010年版の人間開発報告書で示したように、GNIとGDPの値の間には、ときとして際立った違いがある場合もある。

・HDIの算出方法が「相加平均」から「相乗平均」に改められ、また、最小値と最大値についても変更があった。これは、なにを意味するのか?
旧方式では、それぞれの構成データについて固定的な最小値と最大値を定めておいて、それを用いて各データを正規化して指数の形に変え、その個別の指数をもとに、それぞれの側面ごとの指数を計算し、さらにそれを相加平均することによって、HDIの値を求めていた。正規化とは、異なる単位で表される複数のデータを比較可能にするために、1~0の間の数字で表される(無単位の)指数に変換することを言う。旧方式と異なり、2010年版で導入された新しい算出方式では、相加平均に代えて相乗平均を用い、正規化の際に用いる最大値に関して、固定的な数字を設定せずに、HDI算出対象期間中に実際に記録された最も高い数値を採用するものとした。したがって、2010年版以降では、所得の値の「上限値」が撤廃されて、「実際に記録された」最も高い値を正規化の際に用いるようになった。また、計算方法を相乗平均に変更したことにより、HDIの値は低くなった。最も大きく値が変動したのは、3側面の開発レベルが不均等な国々である。ただし、HDI順位に及んだ影響は比較的小さかった。

・どうして、HDIの算出方法として相加平均より相乗平均が好ましいのか?
相乗平均を採用した新HDIが旧HDIと異なる点の1つは、人間開発の3側面間の達成度のギャップを考慮に入れられることである。旧HDIでは、ある側面で達成度が低くても、ほかの側面の達成度が高ければ単純に埋め合わせることが可能だったが、新HDIでは、ある側面の達成度が低ければ、それがそのままHDI値に反映されるので、3側面全体を通した達成度を把握しやすくなった。相乗平均を用いることにより、3側面の相互補完可能性が小さくなったうえ、たとえば出生時平均余命の指数が1%悪化した場合に、教育や所得の指数が1%悪化した場合と常に同等の影響がHDI値に及ぶようになった。したがって、人間開発の達成度を比較する基準としては、単純な相加平均より、諸側面間に内在する違いを尊重しやすくなったと言うことができる。

・HDI値の算出に当たって所得の「上限値」を撤廃したのは、なぜか?この変更により、どのような影響が生じたか?  
所得は人間開発に不可欠なものだが、所得が高くなるほど、それが人間開発の増進に寄与する度合いは小さくなる。旧計算方式では、所得の値(1人当たりGDP)に4万ドルの上限値が設定されていて、数値は対数的に変換されていた。このような上限値を設定していたのは、所得額が一定額に達すると、それより所得が増えても人間開発の機会が拡大しないという考え方を受けてのことだった。そのうえ、識字率、就学率、平均余命には「自然」の上限がある(たとえば、死亡率が100%を超えることはありえない)のに対し、所得は青天井で上昇し続ける余地があり、次第に、所得を原動力に値を伸ばす国々でHDI順位の上位が占められるようになりかねないという懸念もあった。

では、なぜその上限値を撤廃したのか。理由はいくつかある。第1に、所得水準が上限値近くに達する国が増えたという事情がある。2007年の時点で、1人当たりGDPが上限値を上回った国が13か国あった。その結果、所得に上限値を設定していては、所得の高い国の間で差別化が難しくなるという問題が現実化しはじめたのである。第2に、所得の上限値は元々、一定額を超える所得増の意義を完全に否定することを意図して設定されたわけではないという点を挙げることができる。

1990年代半ばに4万ドルの上限値が設定されたとき、実際にこの上限値を上回る所得水準に達している国は存在しなかった。所得に上限値を設けた目的はあくまでも、正規化の作業上必要な最大値を定めることにあったのである。第3に、相加平均に代えて相乗平均を採用した結果、値を対数的に変換することのメリットに関して「収穫逓減」の度合いが強まるという事情も、上限値撤廃の理由として指摘することができる。また、第4に、これは重要な点であるが、固定的な上限値の代わりに、実際に記録された最高値を用いるようにすると、人間開発の各側面の指数の値がおおよそ似たような数値の範囲に収まるようになり、その結果、各側面がHDIに寄与する比重の差を旧方式より減らすことができるという利点がある。

新HDIでは、10を底とする対数に代えて自然対数を用いている。この小さな変更は、大半の経済学文献で所得に関して自然対数を用いていることを受けておこなわれたもので、所得指数の値に影響を及ぼさない。人間開発の3側面の上限値はすべて、本報告書でHDIの時系列変化を示した期間全体(1980~2011年)で実際に記録された最高値に改められた。

・人間開発の各側面に関する指数の計算方法も変更されたのか?
変更された。2011年版人間開発報告書において、人間開発の各側面の指数は、HDIの時系列変化を示した期間全体(1980~2011年)で実際に記録された最も高い値を最大値として算出されている。各指数の最低値は、以下のとおりに設定した。出生時平均余命は20年、教育関連の2つの指数はいずれも0、1人当たりGNIは米ドル建てPPPで100ドルである(この100ドルという値は、実際に記録された最も低い値より、さらに低い数字である。つまり、自然な状態における絶対的な最小値とみなすことができる)。これらの値を最小値として選んだのは、それ以下の値では人間開発の可能性が皆無とみなせるからである。すでに述べたように、データの正規化に当たってこのような方法を用いることにより、各側面の指数の値がおおよそ似たような数値の範囲に収まるようになった。

・出生時平均余命の最小値を25年から20年に引き下げた根拠はなにか?

この修正は、歴史上のデータ(Maddison, 2010およびRiley, 2005)に基づいている。もし、ある社会なり、社会内の集団なりの平均余命が20年より短いとすると、その社会や集団は存続できなくなる。ルワンダのジェノサイド(民族大量虐殺)のような危機の際には平均余命が20歳より短くなる場合もあるが、それはあくまでも例外的なケースであり、そのような状況が続けば社会は存続できない。以下を参照。

Maddison, A. 2010. Historical Statistics of World Economy: 1-2008 AD. Paris: Organization for Economic Cooperation and Development. Riley, J.C. 2005. Poverty and Life Expectancy. Cambridge, UK: Cambridge University Press. Noorkbakhsh (1998). The Human Development Index: Some Technical Issues and Alternative Indices. Journal of International Development 10, 589-605.

・そのほかの指数の最小値の決定理由は、なにか?
一般論として、最小値は、社会が存続するために最低限必要とされる値に設定している。教育関連の2つの指数で、いずれも最小値を0に設定したのは、正規な教育なしでも社会が存続可能だからである。一方、所得については、1人当たりGNIで100ドルを最小値とした。この値は、近年の歴史を通じて世界の国で実際に記録された最も小さい数字(2008年のジンバブエ)よりもさらに小さい。これらの最小値は、基本的に固定されている。ただし、もしいずれかの国の1人当たりGNIが100ドル近くまで、もしくは100ドル未満まで落ち込むようなことがあれば、この最小値は変更されることになる。

・「実際に記録された最高値」を用いるということは、採用する値が毎年変わることを意味するのか?
HDIの時系列変化を示した期間(1980年以降)で実際に記録された最も高い値という性格上、最大値の数字は毎年変わる可能性があるが、値が変わってもHDIの順位にはまったく影響が及ばない。正規化の際に用いる最大値が変更されれば、HDIの値は変わるが、相乗平均を採用しているので、各国間の相対的な地位は変わらないからである。

・最大値が毎年変わることにより、状況の変化を監視することが難しくならないか?
その心配はない。本報告書では毎年、一貫した時系列データと新しい最大値をもとに、1980年以降のHDI値の時系列的変化を計算し直しているからである。いずれにせよ、HDIはそもそも短期の変化を把握することを目的とする指標ではない。政府の政策が平均就学年数や出生時平均余命などの指数に影響を及ぼすまでには、長い時間を要する。HDIの時系列変化が5年単位で示されているのは、それが理由である。

・どうして、所得以外の指数に「収穫逓減(ていげん)」の原則を適用しないのか?
「収穫逓減」現象を考慮して保健面と教育面の変数を変更することには、賛否両論がある。所得と同じように、保健と教育は、それ自体として価値があるだけでなく、HDIの3側面以外の側面で人間開発を促進するうえでも欠かせないものである(Sen.1999)。したがって、これらの指数のほかの側面への転換能力に関しても「収穫逓減」現象が起きる可能性がある。本報告書で採用したアプローチは、平均余命と就学年数に関しては、1年の価値を常に同等に評価するというものである。そのため、「収穫逓減」の原則は所得の指数にだけ適用されている。

・HDIの3側面は等しい比重を与えられているのか?
新HDIは、3側面の指数に等しい比重を与えている。教育の指数に関しても、2つの下位指数に同等の比重を与えて算出している。旧HDIでは、各側面の指数に等しい比重を与えていなかった。この点でHDIの算出方法を変更したのは、人間開発のすべての側面に同等の価値を認めるべきであるという規範的判断の結果である。このアプローチの正当性を裏づける学術論文としては、たとえばNoorkbakhsh(1998)、およびDecanq and Lugo(2009)がある。また、新HDIでは、旧HDIに比べて、それぞれの要素の指数の値が近似している。旧HDIより、実際に比重が均等化していることがここから見て取れる。次の文献を参照。Decanq, K. and Lugo, M.A.2009. Weights in Multidimensional Indices of Well-Being. OPHI working paper No.18(To appear in Economic Reviews).

・なぜ、HDIには政治参加やジェンダー、公平性の側面が含まれていないのか?
HDIはシンプルで簡便な指数という性格上、健康で長生きできること、知識を得られること、そして、人間らしい生活水準を享受できることという人間開発の3つの主要な側面に限定して、人間開発の平均達成度を映し出すように設計されている。UNDP人間開発報告書室は一貫して、HDIに「欠けて」いる側面の達成度を把握するための補完的な総合指数を編み出すことに取組み続けてきた。ジェンダー間の格差、不平等、人間の欠乏に関しては、本報告書のHDI以外の指標で取り上げている(ジェンダー不平等指数、不平等調整済み人間開発指数、多次元貧困指数)。政治参加や、幸福のそれ以外の側面は、さまざまな主観的および客観的指標をもとに評価し、本報告書でも論じている。人間開発のこれらの側面をどうやって数値評価するのが妥当かという点は、理論面と方法論の両面でさらに改善が必要な課題である。

・HDIの構成指数の変更と相乗平均の採用は、どのような影響をもたらしたか?

構成指数と算出方法の変更は、多くの国のHDI値に大きな変化をもたらした。相乗平均の採用により、すべての国でHDI値が下落した。これは、ある側面で好成績を記録することによって、ほかの側面の成績の悪さを埋め合わせることが以前より難しくなったからである。平均の下落率は約7%で、3側面の達成度にばらつきがある国ではとりわけ値が大きく落ち込んだ。

・ある国をHDI算出対象国とするか否かは、なにを基準に決めているのか?
UNDP人間開発報告書室は、少しでも多くの国連加盟国のHDI値を算出するよう努めている。HDIを算出するために必要なのは、HDIの3側面すべてについて、最近の、信頼性があり、比較可能なデータである。各分野の国際的な統計作成機関のデータを入手できることが望ましい。

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