開催報告: TICAD7に向けて#11

アフリカ開発会議 (Tokyo International Conference on African Development: TICAD)は25周年の節目を迎え、2019年8月28日~30日には横浜で第7回目の首脳会議が行われます。これに先駆け、UNDP駐日代表事務所ではアフリカ開発について語る対話シリーズとして、2018年6月末に「AFRI CONVERSE」を立ち上げました。

2019年5月31日(金)に開催した「AFRI CONVERSE」の第11回では、平和と安定に関する国際協力担当政府代表で,アフリカ開発会議(TICAD)担当特命全権大使でもある岡村善文氏、東京大学大学院総合文化研究科教授の遠藤貢氏、認定NPO法人 日本紛争予防センター(JCCP)理事長・JCCP M株式会社取締役の瀬谷ルミ子氏を迎え、アフリカにおける平和構築の現状と今後の課題について、政府、大学、国際機関、民間企業、NGOから集まった約130名の日本、アフリカ諸国からの参加者と協議しました。

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冒頭、東京大学の遠藤貢氏は会場の参加者に対して紛争後の社会を「平和」な社会にするために必要な要素は何かと問いかけました。遠藤氏は、「平和な社会を築いていくためには、社会基盤に必要な制度の構築やメディアの整備、市民の暮らしの安全と安定の確保、生活を続けていくための雇用の創出がとても重要である。しかしアフリカの場合は、平和構築に向けて一歩進んでは、二歩下がり、二歩進んでは一歩下がりと、とても時間がかかっているのが現状。」とアフリカの平和構築の難しさを説明しました。続いて、「これまでアフリカでは様々な紛争が起き、その度に多くの人を苦しめてきました。しかしその原因やそれを取り巻く環境は時代とともに変化している。」と説明し、「平和構築に向けて、紛争の原因をしっかりと突き止めることや、複雑に絡み合う課題をしっかりと理解することが重要である。」と強調しました。

続いて、外務省の岡村善文氏は、アフリカの平和構築について、これまで日本政府として携わってきた経験を基に解決に向けた取り組みについて説明しました。岡村氏は、ルワンダ、コソボ、コートジボワールや国連ニューヨーク本部等において紛争対処や紛争後の平和構築に携わる中で、「国際社会によるアフリカ諸国へのアプローチ方法に違和感があった。これはどうにかしなければならないと思い、元アフリカ諸国首脳5名 [1]にアフリカの平和構築に向けた新しいアプローチ方法を提案したところ、それぞれ賛同してくれた。」ということで、昨年8月に5名を日本に招いて「アフリカ賢人会議」を開き、アフリカの平和と安定の実現に向けてアフリカ自身が取り組むべき課題等に関して有意義な議論を行ったことを明かしました。そこで出てきたアフリカにおける平和構築におけるヒントとして、1)国民の一体性確保、2)アフリカ自身によるリーダーシップとオーナーシップ、3)制度(治安、司法、行政、財政)の構築による統治の脆弱性克服、4)市民社会や農民の能力強化と教育、5)伝統社会の価値観・制度の活用、6)紛争に乗じて利益を得る勢力の撲滅、7)紛争の原因を作る経済開発の見直しの7つが必要な要素だと紹介しました。


[1] シサノ元モザンビーク大統領、ソグロ元ベナン大統領、ムカパ元タンザニア大統領、オバサンジョ元ナイジェリア大統領、ムベキ元南アフリカ大統領
 

東京大学の遠藤貢氏

外務省の岡村善文氏

最後に、日本紛争予防センター(JCCP)理事長・JCCP M株式会社取締役の瀬谷ルミ子氏が平和構築に携わるきっかけや思い、現在の活動について発表しました。高校生の時に起こったルワンダのジェノサイドがきっかけで平和構築の分野に興味を持ち、それ以来、紛争の被害に近いところで活動していると話しました。瀬谷氏は「平和構築とは紛争が再発することを防ぐこと。予防が重要だと皆分かっているが取り組みが遅れている。近年の紛争はテロも対象になるが、テロの場合、紛争と犯罪のどちらに当てはまるかなど、はっきりした境界線を引くのが難しい」と述べました。予防・解決のためには、従来の平和構築のアプローチに加え、加害者や当事者に対する個別具体的な対策が必要であると強調しました。JCCPがケニアやソマリア、南スーダン、トルコで活動しており、紛争解決人の育成や紛争を未然に防ぐ仕組みづくり、テロ・過激化の予防、ジェンダー問題の解決に向けた事業等、多岐に亘るプロジェクトを紹介しました。多くの場合紛争の起こる前には予兆があり、兵士やテロリストの勧誘にも典型的な手法があるため、現地団体、女性リーダーや学校の先生などに対してテロ・過激化やカウンセリングの研修をした上で、子どもや若者の過激化を未然に防ぐセーフティネットを築くアプローチの成果についても実例を説明しました。さらに、紛争の原因や手段は変化しており、デジタル技術やマーケティング戦略の高度化に対応するため、民間企業の協力や連携が大切だと述べました。

日本紛争予防センター(JCCP)理事長・JCCP M株式会社取締役の瀬谷ルミ子氏

参加者との活発の意見交換も行われました。

参加者からは登壇者それぞれに対して、多くのコメントや質問が挙げられました。日本やアフリカ諸国出身の大学生・大学院からは、テクノロジーを用いたソーシャル・メディアの発展は、紛争地域や難民キャンプで生活している人々にどのように影響しているのか、紛争によって利益を得ているのは誰なのかといった質問が挙げられました。

今回のセッションでは、アフリカにおける平和構築について多くの学生も参加し、活発な議論が行われました。次回のAFRI CONVERSEのでは感染症対策の功績と展望をテーマに協議する予定です。