第6回NY発 UNDPの援助最前線レポート: タイ深南部における平和構築への取り組み

2015/07/22

STEPフェーズ1により支援されたタイ深南部における女性グループへのビジネス訓練の様子。食品加工に関する研修を支援し、女性グループの収入向上に貢献した。Photo:UNDP Thailand


国連開発計画(UNDP)ニューヨーク本部対外関係・アドボカシー局ジャパンユニットの二瓶直樹です。今回はアジア地域でUNDPが実施する平和構築の取り組みについてご紹介させていただきます。

アジアの紛争地というとアフガニスタン、スリランカの内戦、フィリピンのミンダナオ、ミャンマー少数民族地域などがよく知られていると思います。私がUNDP本部で管理を担当する日本・UNDPパートナーシップ基金では、昨年と今年にアジア地域における2つの紛争地域のコミュティ開発・調停を支援しました。1つは、タイ深南部(Deep South)と呼ばれる地域での開発プロジェクトで、2015年5月に30万ドルを追加拠出しました。もう1つはバングラデシュのチッタゴン丘陵地のプロジェクトで30万ドルを拠出しました。どちらの地域も政治的にセンシティブで、緊張状態が続いています。異なる民族や宗教の住民間で長年にわたる対立があるなど非常に難しい問題を抱え、国際社会の介入が非常に難しい状態です。UNDPは国連という中立的な立場から、当該地域の貧困削減、住民同士の融和、コミュニティ開発事業に地道に取り組んでいます。今回はタイ深南部の話をご紹介いたします(チッタゴン丘陵地の取り組みは、チャカール亜依子職員による寄稿記事をご参照ください)。

タイ深南部とは、マレーシアとの国境に近い地域を指し、パッターニー県、ヤラー県、ナラーティワート県、及びソンクラー県の4つの県があります。14世紀頃にはパタニ王国として存在し、1909年にマレー半島を植民地支配していたイギリスとタイとの交渉によってパタニ王国が南北に分断される形で国境線が確定しました。現在の深南部はタイの統治下に置かれて以来、マレー系イスラム教徒の武装勢力がタイの支配からの解放を求めて長年戦ってきた地域です。2004年以降、同地域の紛争が再燃化し、現在も爆弾事件や襲撃事件などのテロ活動が相次ぎ、死者は計約6000人、怪我人は計1万人以上に及んでいます。紛争の影響による治安悪化に加え、社会経済指標の低下、例えば「教育指標が他地域より低い」などの悪影響がでています。

UNDPは日本政府からの2009年に40万ドルの資金拠出を受けて、2010年から4年間「タイ深南部エンパワメントおよび参画(Southern Thailand Empowerment and Participation: STEP)」プロジェクトをベルギー政府とも協力して実施してきました。2010年からの活動はフェーズ1として、地元政府・コミュニティの能力強化と市民社会のネットワーク強化を通じた住民間の調停・融和を目的に活動を実施しました。

フェーズ1の特徴は、住民衝突を防ぐために、地元メディアが公平な報道を行えるよう関係者に研修を行い啓発し、また紛争で配偶者を失った女性達への職業訓練、ビジネス支援活動に力を入れて、社会的立場の弱い女性の所得や能力向上に貢献したことが挙げられます。

2015年5月に開始したフェーズ2では、フェーズ1から得られた成果や教訓を土台に、特に現地コミュニティにおける平和をこれまで以上に強固なものにするため、地元住民間のネットワーク強化、脆弱な住民への社会サービスの強化、さらに、地元住民の経済活動能力強化に取り組んでおります。

在タイ日本大使館の望月寿信参事官は「タイ深南部の問題は深刻であり、地元コミュニティは支援を必要としています。あまり注目を集めないタイ国内の不安定地域の課題に対処する意味でもSTEPプロジェクトは重要なプロジェクトです」と話しています。また、UNDPタイ事務所でSTEPプロジェクトを開始当初から担当するイェンサバイ・ソムチャイ職員は「フェーズ1による成果をベースにフェーズ2では、住民参加型によるコミュニティの結束強化や地元政府と現地住民間の信頼構築といった平和構築を中心に取り組みます。日本政府からの支援に感謝します」と話しています。

ある程度の経済発展、社会開発を遂げた中進国においては一般的に、経済成長の側面ばかりに目がいきやすく、タイのように局所的な紛争の問題を抱え、社会開発の遅れている地域が存在することを国際社会は忘れがちです。局所的な紛争課題や国内格差については、政府開発援助(ODA)による支援を検討する上で、今後も特別な配慮が必要となります。また、政治的な問題を抱える地域の課題については、UNDPのようなコミュニティレベルでの開発ノウハウが蓄積され、かつ中立性の原則により公平な立場で支援活動が可能である国連機関と連携することで、効果的な支援が可能と考えます。

紛争の問題は政治的な解決にも左右されますが、フェーズ2の活動を通して、タイ深南部におけるコミュニティの平和が少しでも保たれ、蓄積された住民間の共生や協働が将来起こりうる紛争のリスクを少しでも軽減させ、同地域の経済が少しでも開発されることを期待しております。

日本によるタイ支援
日本は1954年からタイへの政府開発援助(ODA)を開始し、現在日本は、中進国であるタイをASEANの中心的存在として、持続的に社会・経済を発展させていくため、戦略的な開発パートナーとして競争力強化を通じた更なる経済成長に協力することを掲げて支援を継続。現在、日本によるタイへのODAは、円借款によるインフラ支援を中心に、防災や社会保障、また国境をまたぐクロスボーダーの取り組みとなっている。日本が国際機関を通じての支援は、UNDPを通じての「タイ深南部エンパワメントおよび参画」や農林水産省ODA拠出によるASEANにおける食料安全保障等がある。


二瓶直樹
UNDP対外関係・アドボカシー局ジャパンユニット・JICA/日本連携アドバイザー
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2003年、国際協力機構(JICA)入構。以降、政府開発援助(ODA)業務に従事。2009-2012年、中央アジアのウズベキスタンにて、市場経済移行期の社会・経済開発を目的とした民間セクター及び法整備支援、運輸・電力インフラ支援に従事。2012年8月よりUNDPニューヨーク本部にて勤務。早稲田大学社会科学研究科修士卒。

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