ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)への道筋~UNDPと日本政府の取り組み

2015/10/23


第70回国連総会期間中の9月28日、ニューヨークにて、日本政府はフランス、リベリア、タイ、セネガルの各国政府、世界保健機関(WHO)、世界銀行、世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)と共に「UHCへの道筋~ポスト2015期の開発における公平な国際保健と人間の安全保障の推進」をテーマにした保健イベントを開催しました。

第1部では、安倍晋三首相が基調講演を行い、「公衆衛生危機に対応するためのグローバル・ヘルス・ガバナンスの強化」と「全ての人が支払い可能な費用で必要な保健サービスを受けるためのユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)実現の重要性」を、国際保健分野における2つの課題として言及しました。

第2部は、 HIV/エイズ、結核、マラリアの三大感染症、エボラ出血熱など世界規模の感染症の流行、非感染症疾患、母子保健など様々な保健課題への対応に、UHCをメカニズムとして活用できないか、パネリスト達* が各国・各機関でのUHCや保健システム強化への取り組みについて、またそれらが人々に与える影響ついて議論しました。

田中明彦国際協力機構(JICA)理事長(肩書は当時)は、社会的弱者の保健ニーズに対応する際の日本の立場として「UHCは人間の安全保障を実現する上で必要不可欠で、母子保健の推進、エボラ出血熱をはじめとする感染症の抑制、ドナー間の援助協調が重要です」と言及しました。

マルティネス・ソリマンUNDP政策プログラム支援局長は「UHCは持続可能な開発目標(SDGs)3の主要なターゲットの1つであり、社会的弱者をUHCに含めるためには、HIV/エイズ感染のリスクに晒されやすいグループ(キーポピュレーション** )の人たちへの偏見や差別、罰則付きの法律など、保健サービスへのアクセスを阻む非経済的障壁の克服に向けて取り組む必要がある」と強調しました。また、SDGsは社会的弱者を対象とするだけでなく、紛争・危機後の最も困難な状況に直面している国々でも実現されるべきだと述べました。

最後にマーク・ダイブルグローバルファンド事務局長が総括をし、「健康で教育を受けた人々無くしてはSDGの目標はどれも実現できない。若者、特に女子、キーポピュレーションなどを含む健康で教育を受けた全ての人々がUHCに平等にアクセスできることが人間の安全保障の実現に欠かせない」と述べました。その上で、UHCは今年12月に東京で開催される世界エイズ・結核・マラリア対策基金第5次増資準備会合や、来年のG7伊勢志摩サミット、アフリカ開発会議(TICAD)VIで非常に重要な役割を担うことになると述べました。

UHC実現のため、UNDPはこれまで日本政府の支援のもと2013年より、ロンドン大学衛生学熱帯医学大学院ストライブ研究コンソーシアムで、アフリカ諸国に対し「分野横断的な協調融資」研修を行ってきました。この融資は、保健財政を増やすことに焦点を当てるのではなく、保健分野が社会、経済、環境に与える影響を総合的に理解した上で、既存の国家予算を一元化し、複数の分野で同時に効果が見込まれる公共事業に投資することを目的とした画期的な方法です。例えば、マラウイでは、毎月わずかな現金給付を女児に対して行ったところ、女児の就学維持が可能になっただけでなく、10代の望まない妊娠を減らしたほか、HIV/エイズの感染率を3分の2まで減らすことができました。この事例は、現金給付(現金移転)という1つの事業が、教育、ジェンダー平等、保健、HIV/エイズ、リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康と権利)といった複数の分野で抱える課題に対し、より良い相乗効果を生むことを証明しました。UNDPではこの事例に対する評価を元に、「分野横断的な協調融資メソッド」を確立し、これまで南アフリカ、エチオピア、マラウイ、タンザニアに対し、研修と技術支援をしてきました。この融資方法は、支払い可能な価格で必要な保健サービスが誰でも受けられることを目指すUHCの実現にとって、国家予算をより効果的に投資する価値ある融資方法といえます。今後、アフリカ以外の地域でも同メソッドの展開が見込まれています。

また、UNDPでは、日本政府の拠出により、2013年から5年間、公益社団法人グローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund)、WHO、PATHとの共同で、1)結核、マラリア、顧みられない熱帯病(NTDs: Neglected Tropical Diseases)のための医療薬やワクチン等の研究開発支援プロジェクト 2)途上国が必要とする医薬品・ワクチン・診断薬へのアクセスと供給のための保健システム強化を目的とした途上国政府の能力強化プロジェクトを実施しています。NTDsは1日1.25ドル未満の収入で生活している世界の最貧困層10 億人(ボトム・ビリオン)に特に深刻な影響を及ぼすと言われています。今後は三大感染症に加え、NTDsを撲滅することが必要不可欠であり、そのため、持続可能な開発目標(SDGs)3では、NTDsが対象の1つに挙げられました。

UNDPではこれまでタンザニア、ガーナ、インドネシアを対象に、技術革新の観点から、途上国の保健医療における法整備や政策提言を行ってきました。UHCの実現には、途上国の保健システムの強化が重要と言われています。特に、薬のアクセスには途上国の医療サービスの制度改善や、技術革新分野での政策や法の制度の整備、能力開発の支援が求められています。UHCの実現のため、UNDPは今後もこの3か国を含む低中所得国を対象に、患者が必要とする医薬品が適切な価格で提供され、アクセスできるための人材育成を支援していく予定です。

(特別寄稿:UNDP本部政策・プログラム支援局・エイズ、保健と開発グループ 吉村麻美)



*ニェンスワ・リベリア保健副大臣、田中明彦JICA理事長、ホーヴェン独経済協力開発省局長、ハンセン世銀副総裁、マルティネス・ソリマンUNDP政策プログラム支援局長、ンジャイUNICEF次長、デュガン・プロダクト(RED)CEO、メルンガGFANメンバー

**男性間性交渉者、トランスジェンダーの人、セックスワーカー、薬物使用者などHIV感染のリスクが高いグループ

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