第1回 キルギス発「平和と開発」の現場レポート

2017/02/14

キルギス・タジク国境地域におけるPBF平和構築プロジェクト・プロジェクト合同運営会議に参加した際の様子(2017年2月2、3日、首都ビシュケクにて。左側より後部2列目の7人目が筆者)


国連開発計画(UNDP)キルギス共和国事務所の二瓶直樹です。UNDPニューヨーク本部勤務時に、「NY発 UNDPの援助最前線レポート」を計13回に渡って執筆しました。今年1月から、キルギス共和国の首都ビシュケクにて勤務することになり、改めまして、キルギス発「平和と開発」の現場レポートと称し、キルギス国内や中央アジア地域の活動現場から情報を発信していきます。

キルギスは、1991年に旧ソ連から独立後、中央アジア5か国の中で最も早く民主化と市場経済化の移行を推進しました。しかし、その発展への道のりは容易ではなく、2005年チューリップ革命によるアカエフ政権の崩壊、2010年バキエフ大統領の独裁色強化に反発した市民の蜂起により、2度の大統領の国外脱出および国内の混乱を経験しました。いまだ国内政治が安定せず、脆弱性を備えた国です。2010年6月には、南部地域にてキルギス系住民とウズベク系住民が大規模な民族衝突(死者200人以上、一時は10万人近いウズベク系住民が難民としてウズベキスタンへ避難)を経験し、国内に不安定要因を抱え、開発上の大きな課題となっています。

UNDPキルギス事務所は、独立後の早く1993年から現地で事業を開始し、主に4つの柱――(1)社会経済開発及び雇用創出、(2)ガバナンス・行政能力向上、(3)環境保護及び災害リスク軽減、(4)民族間融和及び平和構築を支援しています。これらの支援は、キルギス政府の国家開発計画により定められた経済成長、平和構築、等の方向性に合致します。

UNDPキルギス事務所は、過去に日本政府と連携し、選挙支援や危機・防災管理能力の向上及び防災分野の中央アジア地域内協力促進等の分野で支援を行いました。特に、2005年度と2010年度の大統領選挙後に2度国内の混乱を経験しているキルギスにおいて、2015年10月の議会選挙が成功裏に実施されたことは大きな意義を持ちます。同時に日本による支援はキルギス政府から大きな評価を得ています。2015年10月には、安倍首相が日本の首脳として初めてキルギスを公式訪問し、ODA等を通じて日本とキルギスの関係が強化されつつあります。

現在私が勤務するUNDPキルギス事務所では、各分野でのプロジェクトを実施するスタッフを含めて計約170人の職員が複数の事務所に分かれて勤務しています。UNDPキルギス事務所はビシュケク市内のUNハウスと呼ばれるビルの中にあり、私はその中でUNDPが運営する国連常駐調整官事務所に勤務しています。私の事務所はキルギスに存在する全ての国連機関の全体総括・調整を担っており、ヘッドである国連常駐調整官(UNDPキルギス事務所のアレクサンダー・アヴァネソフ常駐代表が兼任)を含め10人ほどの事務所で、そこで平和・開発担当として業務しています。私のほかには、政務、防災、平和構築、総務、広報等を担当する同僚(調整官と私以外はキルギス出身者)がいます。なお、キルギスでは計26の国連機関が活動をし、その内UNDP、国連児童基金(UNICEF)、国連人口基金(UNFPA)等14の機関が現地に事務所を置いています。それ以外の国は近隣国からの出張ベースでの活動となります。

上述の通り2010年6月に民族衝突を経験したキルギスでは、南部のオシュ州とバトケン州が隣国のウズベキスタンとタジキスタンと複雑に引かれた国境線に接しており、飛び地等の問題もあり、民族問題のリスクを抱えています。3か国が複雑に国境を接しているフェルガナ盆地と呼ばれる地域は、キルギス系とウズベク系、キルギス系とタジク系住民間それぞれにおいてコミュニティ間で水資源や土地をめぐる衝突のリスクを有しており、民族間融和及び地域の経済開発が同地域の重要課題となっています。

UNDPキルギス事務所は、UNICEF、UNWOMEN、国連世界食糧計画(WFP)、国連食糧農業機関(FAO)等の国連機関と共同で事業を形成し、国連平和構築基金による資金拠出(計2800万ドル)を得て、2010年以降平和構築・紛争予防プロジェクトを実施しています。オシュ州とバトケン州の国境地域における現地コミュニティの紛争モニタリングの能力強化、経済社会インフラの支援、民族間融和のための教育、ジェンダーに配慮した支援、地方行政能力の向上等に取り組んでいます。私はUNDPをはじめとする国連機関の平和構築の取り組みに対して指針や助言を与えることや、紛争予防に繋がる支援が現場で適切に行われているかを現地で監督、必要に応じ助言し、また国連間の共同事業が強化されるよう関係を構築することが主な役割です。また時にはキルギス政府に対して、将来キルギスにおける民族紛争が再発しないよう、平和構築や紛争予防に関する政策や活動を提言することが期待されています。

近年、世界各地で起こるテロ活動に繋がる過激主義の高まりと、キルギスを初めとする中央アジア地域の人々との関係が注目されるようになっております。トルコ国内で発生したいくつかのテロ活動の容疑者が中央アジア地域出身者であったことが報道されており、今後キルギス政府と国連が共同する過激派対策のための政策立案や開発援助プロジェクトの形成、実施等のために業務し、将来の過激主義への人々の傾倒を少しでも予防することが私の役目として期待されています。

2017年はキルギスの将来を左右する大事な時期です。今年後半に現職の任期満了に伴う大統領選挙が控えており、キルギスの民生の安定が再び試されることになります。私はこれから、この国で民主化、市場経済化、平和構築等のさまざまな側面から開発業務に従事すると共に、現場からの声を日本のみなさまにお届けしたいと思います。

キルギス共和国
ソビエト連邦の崩壊に伴い、1991年に独立。人口約560万人。アジアと欧州、ロシアと中東を結ぶ重要な地域に位置するものの、エネルギー資源に乏しく、水資源は豊富だが産業に恵まれておらず、独立国家共同体(CIS)諸国の中でもタジキスタンと共に低開発国。2005年のチューリップ革命(アカエフ政権の追放)、2010年の市民革命でバキエフ政権の追放を経験。2010年6月、南部にてキルギス系とウズベク系住民の大規模衝突が発生し、不安定要因を抱える。自然が豊かで中央アジアのスイスと呼ばれており、観光業でポテンシャルを有する。国語はキルギス語で、ロシア語は公用語。日本とは今年で国交樹立25周年。

平和構築基金(Peacebuilding Fund:PBF)

2006年10月に設立。国連平和構築支援事務局(PBSO)の管轄の下でUNDPマルチドナー基金が管理・運営。紛争終結後の脆弱な国家における国づくりの過程で、紛争の再発を予防するための活動を実施する国際機関やNGOに対して資金支援。2017年2月時点での各国からの拠出総額は7億3000万ドル。日本は、イギリス、スウェーデン、オランダ,ドイツ、ノルウェーに次いで拠出額6位(総計4600万ドル)。PBFは過去27か国にて200以上のプロジェクトに拠出。

二瓶直樹
UNDPキルギス共和国事務所、キルギス国連常駐調整官事務所 平和・開発担当顧問
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2003年に国際協力機構(JICA)入構以降、開発途上国における政府開発援助(ODA)に従事。2006-2009年JICA本部基礎教育グループ、2009-2012年JICAウズベキスタン事務所駐在員、2012-2015年UNDPニューヨーク本部対外関係・アドボカシー局日本連携アドバイザー、2016年JICA本部中央アジア・コーカサス課主任調査役を経て2017年1月より現職。早稲田大学大学院社会科学研究科修士卒。

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