トラウマを乗り越えて~再定住地モルディブ・ドゥバーファル島での津波避難訓練~

2018/03/28

生徒を誘導する教員 (UNDP Maldives)

国連開発計画(UNDP) はアジア・太平洋の18か国で、津波から命を守るための避難訓練の普及事業を行っています。実施国の一つ、モルディブに勤める日本人職員・大阿久裕子から、現地の避難訓練を視察した際の様子が届きました。現地の人々が、2004年のインド洋大津波の悪夢を乗り越え、訓練に励む様子を伝えます。

「あの日は私の人生の中で最悪の一日でした。子どもたちは泣き叫び、津波は私たちの家など島のすべてを飲み込んでいきました」2004年のスマトラ沖地震に伴って引き起こされたインド洋津波をまるで昨日のことのように、ドゥバーファル環礁中高等学校のモハメド・ナシール校長は語りました。「教職員を含む島のすべての人がこのような経験をし、今も鮮明に記憶しているのです」。

モルディブ・ラー環礁ドゥバーファル島の島民は、2004年にインド洋津波が発生するまでは同環礁カンドゥルフドゥ島に住んでいましたが、津波により、モルディブ国内で最も大きいとも言われるほどの壊滅的被害が島を襲います。生活用水である地下水は汚染され、当時の島民3600名は家を失い、故郷からの退去を余儀なくされました。環礁内の国内避難民キャンプに身を置き、国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)の支援により建設されたドゥバーファル島に再定住したのは、震災から4年以上後の2008年末のことでした。

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インド洋津波後のカンデゥルフドゥ島の被害 (IFRC)
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カンデゥルフドゥ島民が避難生活を送ったキャンプ(IFRC)
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現在のドゥバーファル島(UNDP Maldives)
非常持ち出し袋に入れるものを考える中学生たち(UNDP Maldives)非常持ち出し袋に入れるものを考える中学生たち(UNDP Maldives)

そんなドゥバーファル島で3月21日に行われた津波避難訓練は、ドゥバーファル小学校、環礁中高等学校の2校同時開催で、全校生徒と教員合計約1000名が参加しました。訓練に先立ち、UNDPモルディブ事務所、モルディブ警察、国防軍、国立災害管理センター、モルディブ赤新月社で編成されたチームが5日前より現地入りし、生徒、教員及び地域の人々を対象に津波教育プログラムを実施。生徒や教員は、津波避難訓練に関する基礎講習に加え、国防軍の火災・救助チームによる火災事故訓練、赤新月社による応急処置訓練など、多岐にわたる内容を学びました。また、教員の4割は主にインド南部出身の外国人教師という現状を受け、教員に対してのプログラムは現地語のディベヒ語と英語の両言語で行われました。

「警報が教室に届いた瞬間、数名の生徒がパニック状態になりました。泣き始める生徒を見て、私自身もパニックしました。本当に津波がきているように感じたのです」と訓練後の全教師対象の反省会で語るのは、生徒の避難の安全を担当したインド出身のスブラ先生。日本では、「お・か・し・も・ち(おさない、かけない、しゃべらない、もどらない、ちかづかない)」が避難の基礎と言われていますが、前日予習したにも関わらず、訓練中は初めての経験に興奮し、叫んだり、走ったりする生徒が目立ちました。また興奮してしまったのは生徒だけではありません。事前にほんの数名の保護者に対し、訓練のために子どもを連れ帰ろうとする演技をしてほしいと頼んでいたにも関わらず、当日は20名以上の母親たちが集結し、全校生徒が集合していた体育館に無理やり入り込み、子どもたちを連れだそうとしたため、避難場所の校舎3階に移動するのが遅れるというトラブルも発生しました。また集まった母親の中には、インド洋津波時の情景を思い出してしまったのか、涙ぐんでいる人も数名いました。

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集合場所の体育館に集まる中高生 (UNDP Maldives)
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生徒の避難経路に集結する母親たち(UNDP Maldives)
運営スタッフ対象の反省会を仕切るソナスさん (UNDP Maldives)運営スタッフ対象の反省会を仕切るソナスさん (UNDP Maldives)

「日本に行き、東日本大震災が発生した際に翌朝まで屋上に避難して全校生徒が助かった学校や、避難計画がなかったため生徒の大半が亡くなってしまった学校を見学しました」と語るのは、中高等学校の避難訓練の総括を担当したモルディブ赤新月社のソナス・アブデゥル・サタール災害管理官。ソナスさんは昨年、日本政府、国連訓練調査研究所(UNITAR)、国連国際防災戦略事務局(UNISDR)が防災に関わる小島嶼開発途上国出身の女性リーダーを対象に行った10日間の研修に参加し、東日本大震災や阪神・淡路大震災の経験や日本の災害に対する取り組みについて学びました。「避難訓練や計画など「備え」の重要さを学びました。通常は避難場所となる高台や内陸地がこの国にはないため、避難訓練は困難が多いですが、日本での学びをモルディブすべての学校やコミュニティーに広げて、次の災害に備えたいです」と意気込みました。

モルディブでは、2017年9月に第1回目の訓練をガーフ・アリフ環礁で行って以来、津波避難訓練をこれまでに5環礁6つの学校で実施し、生徒・教員延べ2800名が参加しました。モルディブは国土の平均海抜が平均1~1.5メートルという低地にあり、人々が住む188のすべての居住島が津波などの自然災害に対して脆弱な環境にあります。

ドゥバーファル島 (UNDP Maldives)ドゥバーファル島 (UNDP Maldives)

私は、自然災害が頻発する日本で生まれ育ち、避難訓練を学校教育の中で定期的に経験してきました。今回、文化や地形の異なるモルディブでの避難訓練に参加し、「高台に逃げる」「走らない」など一般常識だと思えることを実践することの難しさを痛感しました。災害時に人命を救う避難訓練が制度化し、誰もが安全に避難できるよう、これからも根気強くこのような取り組みを続けていきたいと思います。

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大阿久 裕子(おおあく・ゆうこ)

モルディブ国連常駐調整官事務所/調整専門官・常駐調整官補佐官

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