デジタルヘルスとデータによるイノベーションが結核対策を飛躍的に向上させることができると専門家たちが発言

イベント報告 | 2019年8月28日に開催したTICAD7のサイドイベント「結核対策におけるデジタルヘルスとデータによるイノベーション」

2019年9月4日

ガーナ食品医薬品局、安全性管理局局長のジョージ・サブラ氏が2019年8月28日横浜市で開催されたTICAD7のサイドイベント「結核対策におけるデジタルヘルスとデータによるイノベーション」にて発言。写真提供:TICAD7

 

横浜 ― 結核は依然として世界で最も多くの命を奪う感染症ですが、デジタルヘルスとデータによるイノベーションの躍進によって、世界中で苦しむ何百万人もの結核患者が必要としている救済と治療対策を提供することが可能になる、というのが先日開催された第7回アフリカ開発会議(TICAD7)での専門家の意見でした。

議論が行われたのは、日本結核予防会(JATA)、ストップ結核パートナーシップ、ストップ結核パートナシップ日本、日本リザルツ、三菱UFJリサーチ&コンサルティング、国際エイズワクチン推進構想(IAVI)、国連開発計画(UNDP)のアクセスと提供に関するパートナーシップ(ADP)、国際協力機構(JICA)の共催によるTICAD7公式サイドイベントです。

当セッションには政府、企業、開発機関を代表する専門家のパネルが登壇し、三菱UFJリサーチ&コンサルティング、グローバル・ヘルス・アーキテクチャー・センター所長の小柴巌和氏がモデレーターを務めました。「デジタルヘルスとデータによるイノベーションは、アクセスと提供を含む効果的かつ持続可能な保健システムの構築に貢献する大きな可能性を持っており」、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)達成にも寄与するものです、と小柴氏は冒頭で述べました。

次にストップ結核パートナシップ事務局長のルチカ・デティウ氏から、過去何十年もの間に新しい技術的躍進がないまま蔓延しつづける古代の病気、結核の厳しい現状について説明がありました。デジタル技術などを通じて飛躍的な前進がない限り、毎年2パーセント以下にとどまる結核感染の低下率を、必要である5-8パーセントに高めることはできないであろう、と彼女は述べました。「何か違う方策が必要であることは明らかだ」と言いました。

2018年9月に採択された国連ハイレベル会合政治宣言は2022年までに毎年4千万人を治療するという高い目標を掲げ、国ごと、地域とグローバル・レベルにおいてこれまで以上の政治的コミットメントを呼びかけています(各目標についてはストップ結核パートナシップがまとめた概要をご覧ください)。

結核は、人工知能(AI)やデジタル技術などのイノベーションがどのように感染症対策に貢献できるのかを示す良い例となりうる、と彼女は述べ、ただ、現在使用されている技術やデータは「時代遅れ」であり、必要な規模で活用されていないとも発言しました。迅速な結核診断、検査方法、治療法の短期化、有望なワクチン候補の第II、第III相試験などの技術に前進があるが「私たちの道のりはまだ遠い」と彼女は述べました。2百万人の結核患者を擁するインドだけが、即時的なデータを有しています。

Photo: TICAD7

Photo: TICAD7

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Photo: TICAD7

Photo: TICAD7

Photo: TICAD7

IAVI結核プログラムのシニア・メディカル・ディレクターのデレック・タイト氏は、アエラス(現在はIAVIが合併)とグラクソスミスクライン(GSK)が開発した新しい結核ワクチン候補について、結核対策において「この百年の間で最も重要な前進である」と述べました。2年にわたってアフリカで実施された臨床試験の結果が昨年発表されましたが、GSKのM72/AS01Eのワクチン候補は、GSKによると結核感染予防において54%の有効性が見られました。実用化にはさらに5年以上かかる見込みだということです。重要なのは治験で採集されたサンプルを調べることによって、結核を発病する人たちの相関性の共通項、そうでない人たちの共通項などが解明できると、タイト氏は述べました。

ガーナ食品医薬品局安全管理局局長のジョージ・サブラ氏からは、国際的なレベルに達しているガーナ食品医薬品当局の承認制度による、結核の診断と治療の医薬品や医療技術の承認について説明がありました。世界保健機関(WHO)が事前承認した医薬品についてはより短期間で審査されるとのことでした。

ガーナの食品医薬品局は「アクセスと提供に関するパートナーシップ(ADP)」を通じてUNDPから数年にわたって、結核関連医薬品を含む医療技術の安全性の監視技術向上のため、医薬品安全性監視(pharmacovigilance)の分野での支援を受けている、とサブラ氏は述べました。その支援にはオンラインで申告するシステムと、副作用や治療不良を即時的に申告できる端末のアプリの開発と研修が含まれます。医薬品安全税監視データのデジタル化や端末アプリは、多剤耐性結核の治療レジメンに関する積極的な医薬品安全性の監視と管理が必要な現状で、結核の新規治療法へのアクセス促進のために重要な役割を果たします。

米国開発庁(USAID)開発協力局次長で外交官のステファニー・ミクレイセック氏は、USAIDの「結核終焉のためのグローバル・アクセレレーター」を紹介。当プログラムのウエブサイトは「結核流行の終焉に向け、国やセクターを超えた投資を促進しながら各国が自立していく新しいビジネスモデル」であると述べています。アクセレレーターは「患者や地域社会それぞれの診断、治療や予防ニーズに即し、偏見や差別にも取り組む結核対策」を目指す各国の自発的な解決方策を支援します。

アルティメット・インフォマティックスCEOでありボツワナ大学のコンピューターサイエンスの講師でもあるカギソ・ウンドゥロブ氏は、ボツワナには保健情報局があり、ローカルなデータ収集システムも存在するが、依然データの多くは手作業で集められている、と述べました。イノベーションは多くの場合、国のモバイル通信ネットワークから生まれている、とのこと。一つの例として、患者からデータを集めるコンタクト追跡のシステムが挙げられました。

サイドイベント閉会挨拶の中で、富士フィルム株式会社、メディカルシステム事業部、モダリティソリューション部マネージャーグローバルマーケティング・新規ビジネス統括である守田正治氏は、富士フィルム社が人工知能関連企業と共同開発し効果が期待される、高感度な診断機器に言及しました。同製品はコンピューターによる検出技術を使い、90-95%の確率で診断できるものです。この技術は結核やがんなどの疾患検出に特に効果的であり、同社は今年末の実用化を目指しています。

デジタルヘルスやデータによるイノベーションは、予防可能でありながら依然蔓延する結核に打ち勝つために必要な援護を与え、持続可能な開発目標である2030年の結核終焉に寄与することで結核対策に貢献することが期待されます。今回のパネルは、そのための技術革新が目前に迫っていることを明らかにし、イノベーションをインパクトにつなげる努力をさらに進める原動力となりました。