開催報告:シンポジウム「躍進する大陸・アフリカとの共創と協働」

2019年8月に横浜で開催される第7回アフリカ開発会議(TICAD7)に向けて3月9日(土)にシンポジウムを開催しました。

2019年3月28日

UNDPは3月9日(土)都内にて、今年8月に開催されるTICAD7開催を見据えてアフリカ諸国との協創や協働を考えるシンポジウムを政策分析ネットワーク、市民ネットワークfor TICADと共に開催しました。行政、企業、国際機関、NGO/NPOより約300人の参加登録が集まり熱気あふれる会となりました。また、当日の様子は同日にNHK国際放送でも紹介されました。

本イベントでは、様々なセクターから15名のゲストスピーカーをお招きし、各々の日本とアフリカの関係を発展させるための取組みと連携の可能性を共有し、TICAD7への期待と決意を表明しました。

まず、モデレーターを務めた外務省アフリカ部・国際協力局参事官、TICAD担当大使の紀谷昌彦氏が開会挨拶を行いました。紀谷大使は、TICADはアフリカの開発に向けて日本が主導し、主要国際機関と四半世紀にわたり共催してきた首脳級の国際会議であり、その間にアフリカは政治的にも経済的にも大きな変革を遂げるとともに、国際社会のアフリカに対する関心も一層高まってきたと期待を述べました。また、今やアフリカ諸国の主要な関心はビジネスとイノベーションに移行しつつある中で、持続可能な開発目標(SDGs)の達成、人間の安全保障や平和と安定も引き続き大きな課題であることに触れ、これらの課題に取り組み新たな機会を生かすためには、産官学の幅広い連携が不可欠であるため、本シンポジウムでは様々な組織・団体・分野をリードする方々にご登壇頂いているという趣旨を説明し、開会しました。

国会議員の有志を募り結成された日本・アフリカ連合(AU)友好議員連盟で会長を務める逢沢一郎氏は、今後30億、40億へと増えていくと予想されるアフリカの人口を引き合いに地球規模で問題意識を持つ必要性があると提起しました。そのうえで、TICADプロセスによるアフリカの成長への貢献とアフリカによるオーナーシップ、そして国際社会の協力の重要性を述べました。また、「アフリカの若者のための産業人材育成イニシアチブ(African Business Education Initiative for Youth)」をはじめとする日本とアフリカの接点を強調し、インド太平洋地域でのより一層の交流を通して22世紀に通じるアフリカの成長に向けてTICAD7の準備を進めていきたいと決意を表明しました。

逢沢一郎 衆議院議員

6年ぶり、3回目のTICAD開催都市となる横浜市からは渡辺巧教副市長が登壇し、市の取り組みとしてアフリカと横浜市の人材交流やイベント開催、国際技術協力の拡大、ビジネス支援の強化、女性の活躍推進、次世代育成・市民交流の充実などの施策を紹介しました。横浜市は”アフリカに一番近い都市”として「アフリカと横浜、あふれる力でともに未来へ」という取組テーマを掲げ、今夏のTICAD7にむけて市をあげて産官学の力を結集し、アフリカと共に「成長する未来」を創っていく決意を表明しました。また、会議の成功に向けて全力で支援するとともに、参加者を横浜らしい温かいおもてなしでお迎えすると述べました。

また、第1回のTICADから共催者として本会議を支える国連開発計画(UNDP)の近藤哲生駐日代表は、UNDPのTICADに対する取り組みの歴史やアフリカの開発を支える民間セクターの役割を説明しました。現在アフリカに進出している日系企業は約800社ありますが、その多くが南アフリカに集中している。アフリカの現地課題の解決を通じたSDGs達成のために、より多くの民間企業がアフリカへの進出、事業拡大を目指してほしいということを強調しました。さらに、課題と解決策のマッチングを図るためにUNDPがアフリカ32カ国で新たに立ち上げるUNDPのアクセラレーターラボなどの取り組みを活用して、民間セクターを含む全セクターからの幅広い関係者と協働していくと決意を表明しました。

同じくTICADの共催者として世界銀行の宮崎成人駐日特別代表が登壇し、国際復興開発銀行(IBRD)や国際開発協会(IDA)、国際金融公社(IFC)多数国間投資保証機関(MIGA)といった世界銀行グループのそれぞれの役割と強みやTICADに向けての取り組みについて説明しました。一例として世界銀行は前回のTICADVIでユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)促進フレームワーク「UHC in Africa」を立ち上げたことを紹介し、保健分野での取り組みを強調するとともに、IFCの投融資やMIGAの投資保険を活用したアフリカ各国への民間セクター支援にも力を入れていることを述べました。また世界銀行では各国の成長を支えるイノベーションを促進させるためのデジタルエコノミーの基盤構築にも注力しており、多角的な手法を用いて貧困の撲滅に取り組んでいくという決意を表明しました。

大島賢三 アフリカ協会理事長

アフリカ協会の大島賢三理事長はTICAD7に向けて準備中の2つの提言を紹介しました。1つ目は、「TICAD情報センター」の設立です。AU本部のあるエチオピアに拠点に立ち上げ、TICADホームページを作ること、アフリカおよび世界向けに、日本の対アフリカ協力の実績などをもっと効果的に情報発信すること、ABEイニシアティブの帰国生など人材情報を上手に活用すること、日本企業、大学、研究所などを含めてのオール・ジャパン的な情報ネットワークを作ること、などが目的です。2つ目は、日本とASEANとの協力体制からヒントを得た「日本・アフリカパートーナシップ基金」の設立です。基金設立の目的として日本の対アフリカ官民連携の支援にも注力していく必要があることを強調しました。

市民社会(NGO/NPO等)からは、市民ネットワーク for TICADの稲場雅紀氏が登壇しました。稲場氏は、アフリカの課題に取り組む日本の市民団体は100団体以上あり、現在30カ国以上で活動していますが、「市民ネットワーク for TICAD」はこれらの団体を取り纏め、また、アフリカの市民社会と連携して、TICADを真にアフリカの人々にとって有益なものとして取り組んでいると説明しました。一方、本企画のタイトルにもあるように、アフリカが「躍進する大陸」となっていく中で、NGOなどの在り方にも変革が必要です。直接のサービス提供などから、アフリカの政府と市民の関係やガバナンスの在り方の変化を促したり、様々な課題への協働を通じてアフリカとアフリカ域外の市民社会の連携の強化をするなど、新たな役割に変化していく必要があると述べました。また、アフリカと日本の結びつきについて、経済面のみならず、文化・芸術面や知的交流なども含めた包括的な関係強化の必要性を訴えました。

政策決定の場に若者の声を届ける、持続可能な社会に向けたジャパンユースプラットフォーム(JYPS)の山口和美氏は、TICADの会合で若者のエンパワーメントについて議論されているものの、若者本来の可能性を見据えてサポートする体制の不足などの問題意識を掲げました。JYPSはTICAD7に向けて、ユース宣言の採択や外務省との対話を通じたアドボカシー、“TICAD Youth Summit”や公式サイドイベントを開催するアウトリーチ、前回のTICADで発足したAfrica Japan Youth Platformを通じたネットワーク強化、SNSやメディアを通じた若者の意識向上を行っていくと発表しました。そして、「若者なくして若者の政策なし」としてボトムアップな政策提言を展開し、日本とアフリカのユースの連携をさらに強めていくとの決意を表明しました。

横井 靖彦 豊田通商株式会社 顧問

長年アフリカで幅広い事業を展開する豊田通商で顧問を務め、経済同友会アフリカ委員会委員長を務める横井靖彦氏は、企業にとってアフリカは魅力的な市場であり、将来は重要なパートナーになると強調しました。一方で、アフリカにおけるビジネスの難しさに加え、特に日本企業はアフリカに馴染みが薄いがゆえ、二の足を踏んでしまう状況があるとも指摘しました。そして、この壁を乗り越えるうえで、日本国内の関係者同士の協力が不可欠と述べました。経済同友会は、昨年9月に、民間企業がTICADプロセスにより深く継続的な形で関与する体制の構築について提言し、また、アフリカで事業を展開する日本企業を対象にインタビューを実施し、その結果を「アフリカ進出のすすめ~進出企業30社の声~」という報告書として2月末に発表しています。横井氏は、こうした活動について報告をし、今後も企業のアフリカ進出、そしてアフリカが自らの力で成長する後押しをしていきたいという強い意気込みを語りました。また、政府間協議によって、アフリカのビジネス環境整備を推進するとともに、それぞれの関係者が各々の役割を果たして、セクターの壁を超えて連携していくことがTICADを進化させる鍵であると語り、日本全体で力を結集することを会場に呼びかけました。そして、そうした中で、経済同友会としては、ビジネスコミュニティにおける機運の醸成、政府や国際機関とのネットワーク強化に取り組むと決意を表明しました。

同じく経済同友会アフリカ委員会で副委員長を務め、シブサワ・アンド・カンパニーの代表取締役を務める渋澤健氏は、アフリカで起業をする日本の若者を応援するための「アフリカ起業支援コンソーシアム」を紹介しました。同アフリカ委員会の同志らの私的活動として立ち上がった同コンソーシアムは、企業会員の会費を財源としてアフリカで起業にチャレンジする日本人若手を支援するプログラムであり、支援金の用途は事業に限定せず、生活面のサポートでも活用できます。選考プロセスにはSDGsへの意識や取り組みを考慮するなど、経済的なリターンだけではなく社会的なインパクトも重視しています。SDGsの「誰も取り残さない」という理念を、「ひとりひとりずつから取り残さない」という大規模な事業でないからこそ、目に見える成果を今後も積み上げていくという決意を表明しました。

アフリカの天然素材を使ったナチュラルスキンケアブランドJUJUBODY創設者の大山知春氏は、起業家視点から発言しました。大山氏はオランダMBA留学後にガーナへ渡航し起業。しかし、舌癌を患ってしまい、日本に帰国して治療に励む中で「体に取り入れるものが体になる」と考えるようになったと説明しました。前述の「アフリカ進出支援コンソーシアム」の支援を受けながらスーパーフードのモリンガに注力して事業を進めていく予定です。TICAD7の開催される今年は、モリンガに対する認知度を高め需要を安定させることに挑戦し、現地生産者の生活向上により一層貢献していくという決意を表明しました。

名古屋大学アジア共創教育研究機構および国際開発研究科の山田肖子教授は “Skill and Knowledge for Youth (SKY)”というアフリカの産業人材の技能評価に対する研究について説明しました。2018年度の世界成長率トップ10のうち4カ国がアフリカの国であり、アフリカの高成長による投資の関心が高まる一方、労働生産性が低いという課題に対し、産業界のニーズに応じた人材育成がなされるよう研究成果を活かして働きかけています。アフリカ各国では多くの予算が職業教育に割り当てられている最中、産業を発展させ安定させるにはどの様な人材が必要なのか学術的に測定し、投資決定の一助になること、さらに企業へも政策提言をしていきたいと決意を表明しました。

塩﨑祐子 日本経済新聞社 執行役員

 

日本経済新聞社の塩﨑祐子氏はTICAD7にむけたモメンタムを形成するグループ全体のプロジェクトを紹介しました。日経グループでは5月9日(木)に開催予定をしているイベント「アフリカビジネス5.0-新たな連携で実現するビジネスモデル(仮)」をはじめとして、TICAD7開催前後にイベントや大型特集を企画していることを発表しました。また、同時に日経各誌の特集や、日経新聞の朝刊と傘下のFinancial Times共同編集特集を企画し、それぞれの視点でアフリカを紐解いていくという決意を表明しました。さらには世界の大きな脅威となっている感染症につき、TICAD7の開催に合わせて「日経アジア・アフリカ感染症会議」を開催し、国内外の有識者を誘致して感染症対策に関する議論の促進を図っていくと述べました。

NHKの味田村太郎氏は、2014年にヨハネスブルグで支局が開設され、同氏が支局長として赴任して以来、若手を中心にアフリカの取材に関心をもつ記者が増えてきたと述べました。また、宮崎駿に影響を受けてアニメーターになった南アフリカのタウンシップに住むコンゴ出身の男性を紹介しながら、様々な課題を乗り越えようとしているアフリカの若者たちの姿を放送映像とともに紹介し、等身大のアフリカを伝えるよう心掛けてきたことを紹介しました。また2016年ナイロビにて開催されたTICADVIでは日本の地方にある中小企業がアフリカの人たちに技術をアピールしている場面に接し、交流が増えているのを実感したことを踏まえ、「次はアフリカの人たちが日本にアピールできる場をつくる番」と今年のTICAD7への期待を述べました。

ケニアの伝統楽器ニャティティ奏者・日本ケニア文化親善大使のアニャンゴ氏は、自身が伝統楽器の奏者になるまでの経緯とアフリカとの交流にあたって音楽や文化のもつ力を共有しました。本来選ばれた男性しか演奏することのできないニャティティですが、3か月にわたる説得の上、弟子入りを果たしました。世界で初めての女性奏者となったアニャンゴ氏は、師匠から「私のいけないところまであなたが行ってこの楽器を奏でてきなさい」と希望を託されたと話しました。損得なしで友情を育むときに音楽や文化は非常に有効であり、今回のTICAD7でも文化を通じてアフリカと日本の懸け橋になりたいと決意を表明しました。

ケニアの伝統楽器ニャティティ奏者・日本ケニア文化親善大使のアニャンゴ氏

 

外務省アフリカ部長の牛尾滋氏は2008年のTICADIV以後のアフリカの発展について触れたうえで、大陸全体での成長が注目される一方、国ごとの格差が顕著になっていると警鐘を鳴らしました。TICADはアフリカ諸国がオーナーシップを持って彼らが望んでいる議題を取り上げられる強みがあるとし、想定されるTICAD7の重点アジェンダとして民間投資への環境整備、UHC、若者の雇用、気候変動の適用対策と防災、平和と安定をあげました。さらにTICADの付加価値を高めていくためには各団体によるサイドイベントの充実が鍵となるとし、日本、国際機関や市民社会から国際社会の新たな規範を作るような提案が出てくることを期待していると述べました。

当日来場された衆議院議員、日本・アフリカ連合 (AU) 友好議員連盟会長代行の三原朝彦氏は、起業家の事例などを挙げ、会社の規模に関わらず民間の方がアフリカへ進出し、Win-winの関係を構築すべく考えていきたいとコメントしました。また、同じく衆議院議員・日本・アフリカ連合 (AU) 友好議員連盟の幹事長を務める山際大志郎氏は、一様ではないアフリカをバランスをとりながらTICADを盛り上げ、日本とアフリカ諸国との関係を発展させていく旨の発言がありました。

今回のイベントでは各セクターを代表する15名のスピーカーから決意表明を頂き、TICAD7に向けてより一層機運が醸成され、セクター間の連携が高まる契機となりました。また、参加者からは幅広い分野の話が聞けたことが良かったという声がありました。一個人や一団体では乗り越えることのできない挑戦もパートナーシップによって乗り越えることができます。UNDPはTICAD7の共催者として今後も様々な機関、団体企業と協働しアフリカの発展を共に目指していきます。


【アフリカ開発会議(TICAD)とは】
アフリカ開発会議(Tokyo International Conference on African Development: TICAD)は、日本政府、国連開発計画(UNDP)、国連、世界銀行、アフリカ連合委員会が四半世紀に亘って共催し、は、産官学の幅広い関係者がアフリカ開発の現状と課題を協議し、支援重点分野に対する合意を形成する国際会議として成長してきました。第1回会議では参加者1,000名から始まり、時々の社会経済状況や援助潮流を組み込みながら変革を続け、第6回会議では参加者11,000名規模に成長しました。2019年8月28-30日に第7回会議が横浜市で開催されます。