開催報告:AFRI CONVERSE 2020 #2

躍進の大陸・アフリカのビジネスチャンス -アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)の展望-

2020年9月17日

国連開発計画(UNDP)と国際協力機構(JICA)が共催した2020年2回目の対話イベント「AFRI CONVERSE」には、アフリカと日本から250人以上が参加し、アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)を中心に、アフリカにおける貿易と投資について議論をしました。

会合でモデレーターを務めたJICA国際協力専門員の本間徹氏は、アフリカにおける貿易と投資の強化を重要な柱の一つとしていた第7回アフリカ開発会議(TICAD7)との関連性を含め、AfCFTAに関する議論の背景について説明しました。アフリカ大陸の人口(現時点で12億人)が2050年までに25億人に成長することを考えれば、AfCFTAはその規模という点で、世界貿易機関(WTO)結成以来、最大の自由貿易圏の一つとなります。

AfCFTA事務局のシルバー・オジャコル首席補佐官は、アフリカにおける貿易と投資、および、AfCFTA協定の概要を説明しました。オジャコル氏は、広大な耕作可能な土地(8億7,400万ヘクタール、うち耕作中の面積はわずか2億7,400万ヘクタール)、鉱物資源の埋蔵量の多さ、豊富な水産資源を引き合いに出し、投資機会をアピールしました。他方、アフリカにおける域内貿易量の少なさ、狭隘な輸出基盤、一次産品輸出への過度の依存、産業化の遅れなど、アフリカ大陸が抱える問題も指摘しました。そして、協定のねらいが、製品とサービスの単一市場を創出し、人々の移動の便宜を図ることにより、持続可能でインクルーシブな成長に向けた工業開発を促進することにあると示しました。オジャコル氏はさらに、関税・非関税障壁の段階的撤廃、通関の効率化と貿易の円滑化、投資・知的財産・競争政策に関する協力、紛争解決メカニズムの確立など、AfCFTAの主な規定を紹介しました。関税に関する詳しい説明も行われ、協定の発効と同時に、関税分類品目の90%に対する関税が段階的に自由化される一方で、3%は除外品目に、また、7%は3年から5年の間に自由化すべきセンシティブ品目に指定できることも明らかにしました。自由化に伴い、AfCFTAはアフリカ域内貿易を年間約350億ドル増大させるものと期待されています。

ジョイ・カテゲクワUNDPアフリカ担当戦略顧問は、アフリカの貿易と投資に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が及ぼす影響について説明し、破壊的影響と回復の両方の側面があると論じました。アフリカの貿易構造はグローバル市場とつながっており、大半の一次産品製品の取引価格が低下しているために、そうした一次産品の輸出が影響を受けている点を、石油を基盤とする経済への打撃や、それぞれ7%と6%の価格下落によって痛手を受けたコーヒーとココアの輸出業のケースを引用し、説明しました。カテゲクワ氏は、保健その他の社会部門への公的支出がCOVID-19の世界的大流行(パンデミック)への対策で必要となるまさにその時に、多くのアフリカ諸国が債務に苦しみ、国庫が底をついている状況にあることを指摘しました。同時に、COVID-19は、それ以前の貿易政策では生まれてこなかった「メイド・イン・アフリカ」製品の販路を広げる余地も作り出していると述べました。例えば、あるケニアの実業家は、欧米に輸出する衣料の生産ラインを個人用防護具(PPE)に切り替え、現在はこれを東アジア地域その他に輸出しています。このことは、現地生産の振興に向いていなかった貿易政策からの回帰を示しています。また、カテゲクワ氏は、変革を呼ぶ投資の機が熟している分野として、Eラーニングを挙げました。こうしたチャンスをつかむためには、AfCFTA交渉の本格的な妥結を図り、現地産業の生産能力を強化するための産業政策に重点を置くとともに、新たな投資体制モデルを推進する必要があると述べました。

経済産業省大臣官房参事・アフリカ首席駐在員(JETROヨハネスブルグ)の菅野将史氏は、AfCFTAが日本の民間セクターに及ぼす影響を中心に説明を行いました。まず、アフリカ大陸でビジネスをリードする日本企業の顔ぶれを紹介した菅野氏は、そうした日本企業がアフリカ籍幹部の採用、国際企業や現地企業とのパートナーシップ、現地生産基盤の拡大などにより、アフリカ大陸に根を下ろしてきていることを強調しました。このことから菅野氏は、アフリカ域内貿易の制約が、日本の企業にとって重大問題となっていることを指摘しました。菅野氏は、アフリカ域内ではプラスチックや鉄鋼、自動車といったほとんどの工業製品に対する関税の現行税率が軒並み高く、20%を超えている点に触れ、既に導入されている対策として、地域共同体(REC)内の自由貿易協定(FTA)を挙げました。そして、日本企業にとっては、すでに広がりを見せているこれら地域FTAを活用することが重要であると述べました。また、国境警備や輸送インフラの非効率性の問題は、重要な事項ではあるが、こうした貿易協定の価値をすべて損なうわけではないため、切り分けて考えることが重要だという点を説明しました。菅野氏は、AfCFTAはこうした現行の地域FTAを基盤としつつ、これらに包摂されていない新たな貿易経路(例えば東アフリカと南部アフリカ、エチオピアとケニア、コンゴ民主共和国と近隣諸国、西アフリカとモロッコを結ぶもの)の発展を促進できることを指摘しました。また、AfCFTAが効力を持つには当該国がこれを批准している必要があることも強調しました。現在までに30か国が批准を済ませたとしていますが、大陸最大の経済国であるナイジェリアを含め、まだ24か国が未批准の状態にあります。

JICAコートジボワール事務所広域企画調査員の徳織智美氏は、アフリカ地域経済共同体(REC)による地域統合の達成状況、これらがAfCFTAの履行に及ぼす影響、および、継続中の貿易円滑化活動に関する説明を行いました。徳織氏によると、アフリカ連合(AU)によって承認されたRECは8つ存在し、うち4つのREC(EAC、SADC、COMESAおよびECOWAS)がFTAを設けており、中でも東アフリカ共同体(EAC)は、貿易統合という点で最も高い水準に達していると評価を受けている点に触れました。また、EACと南部アフリカ開発共同体(SADC)、東南部アフリカ市場共同体(COMESA)との三者間FTAは、まだ未批准の国が多いことから、成立の目途が立っていないと説明をしました。徳織氏は、アフリカにおける現行の貿易取極めには独自の原産地規則、基準などがあるため、複雑に入り組んでおり、AfCFTAが全面的に運用されたとしても、これら既存の貿易取極めは維持されることを指摘しました。また、アフリカの貿易円滑化に対するJICAの支援についても触れ、西アフリカ成長リング、北部回廊、ナカラ回廊を優先する「回廊開発マスタープラン」の一環として、税関の近代化とワン・ストップ・ボーダー・ポスト(OSBP)の確立が重視されていることも紹介しました。

域内貿易の実現に向けて予測される課題について質問を受けたオジャコル氏は、インフラの相互接続性がないことを指摘し、その具体例として、EACと西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)を結ぶ道路がないこと、基準の等価性がないために、医師や弁護士のような専門職のほか、製品の域内活用にも支障が出ていること、さらに支払・決済の問題については、現時点でAfCFTA事務局が各国中央銀行やアフリカ輸出入銀行との連携により、汎アフリカ決済システム(PAPS)の立ち上げを図っていることを挙げました。加えて徳織氏も、非関税障壁の撤廃や、国境を越えた税関システムの統合など、ソフトサイドの相互接続性の必要性を指摘しました。

COVID-19のAfCFTAに対する影響に関し、カテゲクワ氏は、オンラインで交渉を妥結させることが難しく、協定の運用開始が遅れているという課題を指摘しました。また、医薬品など、新型コロナウイルス対策に必要なものを含め、アフリカ域内貿易に欠かせない品目が協定の範囲から除外されないようにするため、各国が提出した除外品目リストを精査する必要があると述べました。さらに、アフリカの人々にとって真に意義のある協定にするための必須条件として、アフリカ諸国が現地で生産基盤を拡大できる能力の強化に投資する必要性も強調しました。

日本企業がAfCFTAから恩恵を受けるための具体的なヒントに関する質問に対し、菅野氏は、アフリカ諸国が貿易・産業化政策を他と切り離して考えているわけではないとしたうえで、日本企業はJETROやJICAの支援を受けながら、加盟国と緊密にやり取りし、どの産品に焦点を置いたらよいか、すなわち、3%の除外品目リストや7%の段階的自由化品目リストに何を載せるべきかを選ぶための最適戦略の策定を支援する必要があるのではないかと語りました。

協定を支援するパートナーシップの可能性に関し、徳織氏は、東南アジア諸国連合(ASEAN)をはじめとするその他地域FTAとノウハウや経験を共有することの重要性と、AfCFTAの運営・機能開始を支援するさまざまな開発パートナーが、世界貿易機関の貿易円滑化協定に基づく活動と整合する技術的ロードマップや調整機構の設立を通じて協調を図る必要性を指摘しました。本間氏はこの点に関し、JICAがAfCFTAに関する調査を実施中であり、同調査の中でASEANの経験からの教訓を引き出そうとしていることを紹介しました。

産業化が遅れ貿易規模が比較的小さい国に及ぼす影響に関しては、登壇者達は、インクルーシブな地域的バリューチェーンを確立することにより、そうした国でも恩恵を得られるという共通の見解を語りました。また、仮にAfCFTAがなかったとしても、このような国はすでに、中国や欧州その他の国からの輸入品に大きく依存しているとの指摘もありました。セーフガード措置に関するAfCFTAの規定を活用すれば、悪影響をさらに管理できるようになりうるとの見解が述べられました。

COVID-19のパンデミックで再確認された通り、域内貿易と現地生産強化の必要性は、これまで以上に高まっています。参加者の多くは、この会議がタイムリーな話題を提供し、有意義なものであったと評価しました。協定が運用に向けて進化を遂げる中で、TICADに関与する主なステークホルダーは、その進捗状況を見守りながら、その前途について話し合うためのプラットフォームを引き続き提供していきます。