SHIP特別セミナー「アフリカの今 –平和構築からビジネスまで–」開催報告

2020年2月5日

スピーカー略歴:槌谷恒孝(UNDP中央アフリカ共和国事務所 プログラムスペシャリスト) 岐阜県出身。青年海外協力隊でブルキナファソに赴任。帰国後商社に勤務しアルジェリアに駐在。退職後、イギリス留学を経て、JICAアフリカ部特別嘱託、JICAコンゴ民主共和国事務所企画調査員、国連WFP東京事務所コンサルタント、UNDPコンゴ民主共和国「警察改革プロジェクト」プロジェクトマネージャー、「南ウバンギ州における紛争影響コミュニティの安定化と再統合のための緊急プロジェクト」プロジェクトマネージャー、「北キヴ州ルチュル地域における元児童兵の社会復帰のための国連共同プログラム」プログラムコーディネーターを経て現職。

1月15日(水)、国連開発計画(UNDP)駐日代表事務所はJapan Innovation Network (JIN)オフィスにて、SDGs Holistic Innovation Platform (SHIP)特別セミナー「アフリカの今 −平和構築からビジネスまで−」をJINと共催しました。当日はUNDP中央アフリカ共和国事務所でプログラムスペシャリストとして勤務する槌谷恒孝を迎えて、民間企業、省庁、教育機関、大学生など様々な分野で活動する参加者約30名と共に、中央アフリカ共和国の現状や、アフリカにおける日本企業のビジネス機会、UNDPをはじめとする国際協力分野でのキャリアについて考える場となりました。

1. アフリカの今 −平和構築からビジネスまで− 中央アフリカの事例から

イベント冒頭の槌谷による講演では、まず人間開発指数が189ヶ国中188位と厳しい状況の続く中央アフリカ共和国の歴史や現状について説明がありました。「中央アフリカを国名ではなく地域名称だと思っている人が多い」と槌谷が述べたように、日本における中央アフリカ共和国の知名度はまだまだ低いのが現状ですが、1960年の独立以降クーデターが多発し、平和構築、人権、保健衛生など様々な面で国際社会の支援を必要としています。UNDP中央アフリカ共和国事務所では、所得向上を通した平和構築への取り組みを中心に、開発アクターの特徴である中長期的な視点に基づいた様々なプロジェクトを実施しています。

槌谷は、プロジェクト実施時に直面する課題についても解説しました。社会経済インフラの未整備や低い技術レベルなどの物理的な問題のみならず、援助を待ってしまいがちであるなどの心理的な問題も根深く残っています。さらに、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)などの人道支援機関とUNDPを含む開発援助機関の活動の違い、働く中で直面する課題、槌谷の考えるアフリカにおける日本企業のニーズなど、自分の経験を踏まえてわかりやすく解説。また、中央アフリカの街並みや、日本食品も棚に並ぶ意外にも品揃えの良いスーパーマーケットなど、遠い異国で働く日本人ならではの視点から、写真とともに現地での生活についても紹介しました。

Cash for Workの現場で受益者と。 女性の多くは現場仕事は初めてですが、うまくリーダーシップを発揮して仕事を進め、インフラ整備は女性にはできない、というイメージを変えました。

UNDPプロジェクトの職業訓練を受講する受益者。 UNDPでは女性の起業を支援するためにニーズに合わせて様々な職業訓練を提供しています。

 

2.アフリカにおけるビジネス機会

セミナー後半では、UNDP駐日代表事務所の渉外・広報官の保田由布子から、UNDP、JICA、JETROによるアフリカでの民間ビジネス支援枠組みや日系企業によるアフリカでのビジネスの好事例など、アフリカでのビジネス機会について説明がありました。昨年開催された第7回アフリカ開発会議(TICAD7)において採択された横浜宣言の三つの柱の一つが「イノベーションと民間セクターの関与を通じた経済構造転換の促進及びビジ ネス環境の改善」であったことからも分かるように、民間企業が今後ますますアフリカに進出していくことで、日本企業にとってのビジネス利益と途上国における開発の両方の促進が期待されています。UNDPおよびSHIPは、今後も様々なアクターと連携してビジネスを通じた持続可能な開発を促進していきます。

3.質疑応答

質疑応答では、最初にインターンから、イベント参加者からの事前質問をもとに以下の通り、国連・JICA・民間企業など異なるセクターでの職務経験について質問しました。

−これまでJICA、民間企業、国連(UNDP, WFP)仕事する中で、それぞれの組織の違いに驚かされたこと、あるいは他の組織での経験が役に立ったエピソードがあれば教えてください。
 

槌谷:特にアルジェリアで商社の駐在員として働いていた際に自動車メーカーの販売代理店に関連するビジネスに携わっていました。当時の業務で培ったエクセルのスキルや5Sカイゼン手法(※)は、その後国連職員として働いていくなかで、自身の仕事の進め方やプロジェクト提案に大いに役立っていると考えています。

※5つの「S」、すなわち整理・整頓・清掃・清潔・しつけを心がけ、無駄をなくし効率を上げ、安全性を高める手法のこと。「カイゼン」とは「改善」を指し、日本語がそのまま使われています。
 
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会場からの質疑応答では、以下のように中央アフリカ共和国の現状から日本との二国間関係、さらには人道支援と開発援助の違いにまつわる質問など、参加者の皆様から多くの質問が寄せられました。
 
−実際のところ中央アフリカ共和国の治安は悪いのでしょうか。
 

槌谷:中央アフリカ共和国では2019年に和平合意がなされたものの、複数の武装勢力が割拠している状態です。首都であるバンギは他のアフリカの国の首都と比較しても、通常時の治安は悪くないと思っていますが、国連職員は夜10時以降は原則外出禁止です。何かきっかけがあれば急激に治安が悪くなるという可能性は否定できません。

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−中央アフリカ共和国は今後国家としてどうなっていきたいのかビジョンはありますか。また、日本はそのビジョンに対してどんなことを支援できるでしょうか。
 

槌谷:通常、国家が開発計画をたてるのですが、中央アフリカ共和国の場合は国家開発計画ではなく「復興・平和構築計画」で開発への道がまだ曖昧です。簡単に表現すると「紛争をなくして、経済発展を目指す」なのですが、発展のための手段や枠組みはまだ詰めていく必要があると感じられます。日本はローカルコミュニティに根差した支援に強みがあり、評価されていると実感しています。

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−中央アフリカ共和国と日本の二国間関係について教えてください。
 

槌谷:現時点で在中央アフリカ共和国の邦人の数は非常に少ないですが、実は日本と中央アフリカ共和国には長い支援の歴史があり、かつて日本に留学したことがあるといった人も多いです。将来的には中央アフリカ共和国の優秀な人材を活用することも可能だと考えています。

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−人道支援はイノベーティブだとおっしゃっていたのですが、具体的に教えてください。
 

槌谷:人道支援の領域では特に既存の枠組みだけに縛られない、状況に合わせた解決策を考える必要があります。お金をたくさんかけずに多くの人を救う効率の良いシステム作りに長けている領域だと考えています。例えば生体認証の技術を難民認定に取り入れたり、電子バウチャーを使った食糧配布といったことが行われています。

Cash for Workの現場で受益者と。 Cash for Workでは失業中の若者(半数は女性)が日本政府からの資金でUNDPの管理のもとインフラ整備に従事し、そこで得た賃金を元に起業をします。

4.懇親会

近藤哲生駐日代表による閉会挨拶の後に、同会場で懇親会を行いました。キャリア相談をはじめ、アフリカでのビジネスや文化にも話題が及ぶなど様々なテーマで議論が盛り上がり、とても賑やかな会となりました。

5.関連リンク


企画・運営・編集:UNDP駐日代表事務所インターン(阿部・鄭・邉見)