革新的なスタートアップ企業がアフリカを理想の投資先に

第3回 日本・アフリカ ビジネスフォーラム(JABF2021)にてセッションを開催(7月6日)

2021年8月4日

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)は、経済・社会的混乱と同時に、アフリカの現地スタートアップ企業とのパートナーシップを強化する機会をもたらしていると、アフリカ開発銀行主催の第三回日本・アフリカ ビジネス・フォーラムの全体会合4に参加した230人を超える人々へのメッセージが発信されました。

同全体会合4は、日本貿易振興機構(JETRO)、国際協力機構(JICA)、国連開発計画(UNDP)、国連工業開発機構(UNIDO)が「革新の大陸・アフリカ:躍進するスタートアップ企業と共に」というテーマで主催したもので、アフリカを魅力的な投資先にする可能性がある、アフリカの5つの地域を代表する現地の革新的なビジネスを紹介するものでした。

UNDPアフリカ局長のアフナ・エザコンワは、パンデミックは中小企業やインフォーマル・セクターへ大きな影響をもたらしましたが、若者や女性などの起業家は、アフリカが抱えている課題に対して革新的な解決策を提供することで、レジリエンス、情熱、そして独創性を示していると述べました。彼女は、「UNDPでは、現地発の技術革新を重要視しており、若者主導の大規模な発展のための豊かな基盤であると考えています」と強調しました。

アフナ・エザコンワUNDPアフリカ局長

同セッションで発表されたビジネスモデルの中には、妊婦健診のための携帯用超音波装置がありました。登壇したスタートアップ企業は、アフリカで最大の問題の一つである母親の死亡に取り組むものでした。世界保健機関(WHO)は、毎日800人を超える女性が妊娠や出産に関連した防ぐことができる原因で死亡しており、死亡の半数超がサハラ以南のアフリカで生じていると推定しています。

「当社の費用対効果が高く使用が容易な携帯用超音波装置は、医療施設にある大規模で電力消費が大きく、遠隔地の妊婦に対して利用するのが難しかった従来の超音波装置と異なり、在宅での母体検査を可能にします」とウガンダのMobile Scan Solution社の最高経営責任者(CEO)兼創業者であるメニョ・イノセント氏は述べました。

iCog Anyone Can Code社のCEOであるベテルヘム・デシー・アスネーク氏は、スタートアップ企業は雇用を創出し、経済成長に寄与する一方で、持続可能な開発目標(SDGs)の実現に影響を及ぼすと述べました。「スタートアップ企業のほとんどは、必要に迫られて生まれたものであり、便利さから生まれたものではありません。彼らは、新たな考えを持ち込むことで、アフリカの社会に存在する基本的な課題を解決しようとしています」と述べました。

iCog Labsは、エチオピアのアジスアベバに拠点を置く、世界中の顧客に高品質の製品を提供する人工知能研究やアプリケーションを開発することを専門とするソフトウェア専門家チームです。

アスネーク氏は、Mスキャンが従来の超音波技術を単純化して遠隔地の女性が利用できるようにしたのと同じように、スタートアップ企業は、世界中で利用されている技術をアフリカの人々の切迫したニーズや現地の事情に合わせて再発明するのに重要な役割を果たすと指摘しました。

モザンビークに拠点を置く、プラスチック廃棄物から低コストの義肢を製造するBioMec社は、2022年までに約4,000人の手足の一部を失った人々が義肢を利用し、より生産的な生活をすることができるようにするために、モザンビークの海岸で得たプラスチック廃棄物の20%を再利用するビジネスについて発表しました。

BioMec社のCEOであるマータ・ヴァニア・ウエテラ氏は、「モザンビークでは、毎年約4,600匹のウミガメがプラスチックを食べて死んでいます。一方、手足の一部を失った人々の90%は義手や義足を利用できません」と説明しました。

その他の技術革新として、農産物のより安価な貯蔵ソリューションの開発があげられました。セネガルに拠点を置くEcoBuilders社のCEOであるンデイェ・マリー・エダ・ンディエゲン氏は、貧弱な貯蔵施設や、貯蔵施設自体がないことによる収穫の損失がアフリカの多くにとっていまだに問題となっていることを指摘しました。

「例えば、セネガルでは、労働人口の70%が農業従事者ですが、毎年、貯蔵施設の不備のために収穫物の3分の1が失われています。当社のソリューションは廃棄物と天然材料を利用して、冷蔵のために必要な電気なしに収穫物を最長で6カ月間安全に保管することができます」と彼女は述べました。

EcoBuilders社は、再利用されたタイヤ、瓶、ビニール袋、天然材料を利用して、電気を使わずにタマネギやピーナッツを数カ月間、ジャガイモを3カ月間貯蔵することができる貯蔵施設を開発しました。

フォーブス・アフリカのビジネスコンサルタント、ジェフ・フュージオ・クンブ氏は、旧式のビジネス・システムはアフリカの新たな現実に対処するのに苦労しており、スタートアップ企業がアフリカの経済発展のための新たなビジネスモデルになりつつあることを指摘しました。

「アフリカと国際投資家の間の商業的関係は変化しており、スタートアップ企業がそのような変化を引き起こしている理由の一部です。例えば、今後約10年間で、彼ら[スタートアップ企業]はアフリカの経済に最低でも50%寄与することになるでしょう」と推定しています。

他のスタートアップ企業2社はデジタル技術―チュニジアでデータを収集し灌漑用水の必要量を算出するプラットフォームとカメルーンで高品質のオンライン・コンテンツを提供するデジタルeラーニング・ツール―を利用して、SDGsの問題に対処しています。

人工知能により灌漑に関するカスタマイズされたアドバイスを提供するチュニジアのプラットフォーム、Seabex社のCEOであるアミラ・シュニアー氏は、気候変動がもたらす水セキュリティへの影響や、小中規模農家のための適切な灌漑システムの欠如に関して、情報に基づかない灌漑に関する意思決定が農業に巨大な損失を与え続けると述べました。

「灌漑に関する意思決定に必要な専門知識や最新のデータにアクセスできないことは、10~50%の非効率性を生み出し、収穫の不安定、利用できる資源の濫用、小中規模農家の逸失利益につながります」とシュニアー氏は述べました。

Seabex社のイノベーションは、他のツールやプラットフォームを統合して設計されています。同社は、複数のソース(気候、衛星、土壌、作物、ユーザーデータ)からのデータを収集して、より良い灌漑を推奨するための中心的な情報源とし、農家の生産性と資源管理を向上させるためのシナリオを算出します。

カテゴリー別のオンライン再生およびダウンロード可能な高品質コンテンツを提供するデジタル・ラーニング・プラットフォーム、Dastudy社のCEOであるダヴィッド・ケンファック氏は、COVID-19のパンデミックで革新的なeラーニングや在宅教育のニーズが高まる中、eツールがそのような高まるニーズに対処することができることを指摘しました。

ケンファック氏は、「専門家や学生がそのスキルを習得できるようにする良質な知識へのアクセスに関する問題を解決するために、当社は、アフリカ社会の500を超える分野で15,000を超える無料の書籍、指導書、優良ソフトを提供するウェブ・プラットフォーム(https://www.dastudy.net)を設計しました」と述べています。

90分間のディスカッションのモデレーターを務めたJICA専門家の不破直伸氏は、このセッションで発表されたさまざまな創意工夫を高く評価し、スタートアップ企業が大陸にもたらす経済的・社会的なプラスの影響を検討し、日本の民間セクターとのパートナーシップを加速させるための理想的な機会であると述べました。不破氏は、発表された5社のスタートアップ企業との交流を通じて、ビジネスモデルの比較優位性やパートナーシップの入口が理解されるようサポートしました。

不破氏は、「2022年にチュニジアで開催される第8回アフリカ開発会議(TICAD8)に向け、幅広いステークホルダーを動員してイノベーションを推進し、アフリカと日本のビジネス・パートナーシップを促進する機運を醸成することを提唱する好機である」と述べました。

UNDPアフリカ局長のアフナ・エザコンワ氏は、信頼できる有能なパートナーシップの構築が決定的なミッシングリンクであると指摘し、「アフリカは準備ができています。我々の課題は、アフリカがこの機会をつかむことができるようにすることです」と強調しました。