市民権獲得を目指して30年

キルギス共和国でパスポートを得るために奮闘した男性の物語

2021年11月11日

ハリムジャン・アブディライモフ氏がID登録の申請を行なっている様子

ハリムジャン・アブディライモフ氏は、キルギス共和国の市民権という最も重要なものを失い、人生の困難に直面していました。ハリムジャン氏は1958年、当時はまだキルギス社会主義共和国だったオシュ州アラヴァン地区のテペ・コルゴン村に生まれました。ソ連のパスポートを独立国キルギス共和国のパスポートに変更するためには、住宅や住民票の登録など多くの行政手続きが必要でした。

2011年に、病に伏し、寝たきりの生活を送ることになりました。さらに不幸は続きます。ある夜に家が火事に遭い、ハリムジャン氏は体に重度の火傷を負い、身の回りのことや自立して動くことが一部できなくなってしまったのです。それ以来、ハリムジャン氏は松葉杖を手放せない生活を送ることになりました。

残念なことに、ハリムジャン氏はパスポートがないため、社会的支援を受けることも、障害者手帳や年金手帳を申請することもできませんでした。同様に、医療サービスを受ける際にも困難がつきまといました。

2020年6月、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応を目的とした、キルギス共和国政府への多国間包括支援および日本政府の財政支援の一環として、国連開発計画(UNDP)は地方のパイロットコミュニティにおける法的情報へのアクセスと法的支援の改善を目的とした取組を開始しました。これらの取組の中で、UNDPは、非営利団体「フェルガナ渓谷:国境なき弁護士団」と協力し、6つのパイロット・コミュニティの市民に対し、新型コロナウイルスに係る疫学的基準に関する法的支援を行っています。

ハリムジャン氏は、村の友人から地域に根ざした活動を行う弁護士が無償で法律支援をしていることを聞き、2020年12月、テペ・コルゴン村に設立されたコミュニティ・ベース・サービス・センター(CBSC)で、弁護士であるヌルラン・イスタノフ氏に出会いました。

旧ソ連市民でありながら、独立国キルギスのパスポートを当初申請していなかったため、ハリムジャン氏は約30年の間、法的に明確な身分を持たない状態でした。「そのような人たちは、国家登録サービス課の市民権委員会で必要な手続きを行うことで市民権に関する身分を文書化することができる」と弁護士は説明しました。ハリムジャン氏の場合、上記の市民権委員会への申請には、ソ連時代のパスポート、出生証明書、過去5年間のキルギス共和国での永住権を証明する書類など、数多くの書類を提示する必要がありました。しかし、一部の書類は紛失していたため、自力では用意することができず、公文書館で検索して取り寄せる必要がありました。

ハリムジャン氏は法的支援を受けられた結果、すべての必要書類を準備することができました。地方自治体の様々な公文書館や登記所での諸々手続き、また出生証明書のデジタル化や暗証番号の取得など、多くの手続きがその支援の一環として行われました。

必要な書類をすべて集めた後、ハリムジャン氏は山場を迎えます。それは、アラヴァン地区の市民身分記録・パスポート化・人口登録課での複雑な手続きです。

市民権委員会は、すべての資料を審査した結果、2021年2月10日にアブディライモフ・ハリムジャン・チビロビッチ氏のキルギス共和国の市民権への帰属について結論に至り、同氏をキルギスの市民として認めました。それまでは様々な困難により取得が叶わなかったキルギス市民権の承認を得ることができ、長きにわたる市民権獲得という挑戦の幕が下りたのです。

待望の身分承認決定書を受け取った後、弁護士はハリムジャン氏にとって初めてのキルギスパスポート取得に向け、さらに書類一式の準備を手伝ってくれました。そして3月初旬、キルギス社会主義共和国だった時代からずっと、毎度市民登録所でハリムジャン氏の対応を担当していた職員が、ハリムジャン氏にキルギス国民としてのパスポートを手渡しました。

ハリムジャン氏は、すべての法手続きを無償で支援してもらえたことを最後まで信じることができませんでした。今では、医療サービスを受けることも、選挙で投票することも、銀行サービスを利用することもでき、自身の権利を享受し、その重大さを実感しています。

ハリムジャン氏とUNDPのプロジェクトの一環で提供した弁護士のヌルラン・イスタノフ氏

しかし、この話はここで終わりではありません。弁護士であるヌルラン・イスタノフ氏が、ハリムジャン氏の障害者年金申請の登録をサポートしてくれるというのです。このようにして、持続可能な開発目標を達成し、「誰一人取り残さない(Leave no one behind)」という原則の実現に向けて、一歩ずつ進んでいくのです。

法の整備は、健康や経済、教育といった人間の安全保障(Human Security)に関するサービスへのアクセスの根底を成す、持続可能な開発に欠かせない要素です。人々が等しく、これらの基本的な権利を享受できるよう、政府、国際機関、民間、NGOそしてコミュニティが一丸となってよりよい社会の構築に取り組んでいくことが望まれます。

左からハリムジャン氏、弁護士のヌルラン・イスタノフ氏とUNDP職員