UNDP、コロナ禍対策として世界の最貧層女性に対する臨時ベーシックインカムの支給を要請

2021年3月8日

Photo: UNDP Bangladesh/Fahad Kaizer

ニューヨーク、2021年3月4日 –国連開発計画(UNDP)の新たな報告書によると、世界の開発途上国で暮らす数億人の女性を対象に臨時ベーシックインカム(TBI)を支給すれば、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的大流行(パンデミック)による貧困の蔓延とジェンダーの不平等拡大を防げる可能性があります。

コロナ禍により、女性は所得を失ったり、労働市場から離れることを余儀なくされたり、ケア労働で重い責任を担ったりすることで、男性よりも大きな打撃を受けています。「国際女性デー」にあわせて発表されたUNDPの調査結果では、臨時ベーシックインカムを支給すれば、短期の金銭的保証を提供することで、体系的なジェンダーの不平等に取り組む将来への投資に向け、道が開ける可能性も示唆されています。

UNDPが提案する大規模なTBIの仕組みを見ると、開発途上国のGDPの0.07%に相当する510億ドル[購買力平価(PPP)]を毎月、投資すれば、貧困の中で暮らす就労年齢女性6億1,300万人に必要不可欠な所得を提供し、こうした女性が日常的に直面する経済的困窮を緩和できることが分かります。

今後6カ月間、絶望的な状況にいる女性への支援に少しばかりの予算配分を行えば、それぞれの生活において、経済的な自由度も高まるでしょう。

アヒム・シュタイナーUNDP総裁は「各国政府は今すぐに、毎月GDPのわずか0.07%を直接、深刻な社会経済的困窮を抱える女性に割り当てることにより、対策を講じることができます。未曽有の危機に見舞われた今でも、毎月のベーシックインカムがあればなんとか生活することができるからです。このような有意義な投資は、女性とその家族がコロナ禍で受けた打撃を緩和するのに役立つだけでなく、金銭や生計、人生の選択について、女性が自分で決定を下せるようエンパワーメントを図ることにもつながります」と語りました。

UNDPが提言するTBIの仕組みは、万能の緊急措置ではありませんが、アプローチを拡大して、受益者の層を広げることを可能にします。例えば、弱者層も含めるよう支給基準を引き上げた場合、支給対象となる女性は13.2億人、そのコストは1,340億ドル(PPP)と、GDPの0.18%に達します。対象者を開発途上地域の女性全員にあたる20億人へとさらに広げれば、そのコストは2,310億ドル(PPP)と、GDPの0.31%に上ることになります。

報告書の著者たちは、コロナ危機が女性に、男性とは異なる影響を与えていることから、女性が社会保障制度の対象となるよう、直ちに行動すべき緊急性があると述べています。

世界中の女性が従事している仕事は、たとえ有給であっても賃金が低い傾向にあるほか、社会保障やセーフティーネットがないことが多く、しかもケア労働や接待業など、世界的な都市封鎖(ロックダウン)によって休業を強いられた部門が多くを占めています。

女性はまた、無給労働に従事する割合が高く、労働力からますます排除され、ロックダウンにより安全でない家に閉じ込められることで、急増する家庭内暴力の被害者にもなっています。

女性を対象とするTBIは、女性が生活に必要な物資を手に入れられるよう支援するだけでなく、女性を経済的に自立させることにより、貧困の中で暮らす男女間の格差を縮め、家庭内の経済力のバランスさせることもできると、著者は論じています。

UNDPジェンダーチームを率いるラクウェル・ラグナス氏は次のように語りました。「ジェンダーの不平等は、所得格差と不当な役割分担を通じて永続化します。TBIは特効薬とはいえないまでも、女性がまさにこの危機の中で、その権利を拡大することに役立ちます。TBIは、女性がそれぞれの関心とニーズに応じて生活を組み立て、社会にもっと積極的に参加できるようにするための経済的安定を一定期間、提供するものです」

数百万人の女性が、インフォーマル・セクターで働くか、しばしば育児や介護の主たる責任者として、無給の労働に従事しています。その国に社会保障制度があったとしても、受給資格がないために、はざまで放置されてしまうおそれもあります。

著者たちも述べているとおり、女性向けTBI自体が万能薬というわけではありません。UNDPのチーフエコノミストは、このような仕組みの導入に伴い、制度的レベルでも保護を強化すべく社会変革も必要になると述べています。

UNDPの戦略的政策関与(SPE)責任者でチーフエコノミストを務めるジョージ・グレイ・モリーナ氏は、「私たちが分析対象とした国には、十分な社会的セーフティーネットも、失業保険も、困窮した女性を対象とする給付金の支給もありません。そこで私たちは、コロナ禍の中で女性を守るためのこの暫定措置に加え、各国政府との連携で、雇用状況に関わらない社会保障への長期的投資の枠組み作りも図っています」と語っています。

報告書で提案されたTBIは、すでに世界で導入されている政策に代わるものではなく、これを補足するものであるため、立法や差別的社会通念への取り組みなど、構造変革を目指す長期的な措置を伴うべきです。

UNDPは、コロナ禍からの復興に関する国連システムの社会経済的主導機関として、全世界の国々で社会・経済復興戦略を実施しています。その中には、TBIやその他の社会保障スキームの新規導入や延長を図る各国への支援活動が含まれています。UNDPは関係機関と連携し、ジェンダーの平等をコロナ対策に欠かせない要素とするよう努めています。


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