IPCC報告書に関するアヒム・シュタイナーUNDP総裁の声明

科学に耳を傾けることが気候危機から脱するのに必要な道 –国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が発行した新しい報告書に寄せて

2022年3月4日

世界の人口の半数近くが気候変動の影響に対して非常に脆弱な状態にあります。海面上昇、干ばつ、さらに以前にも頻度と激甚さが増している気象現象など、人々の命や生活、家などが危険に晒されています。私たちは、温暖化が悪化の一途をたどり、地球が衰弱していることを認識しなければなりません。そして、気候変動がもたらす壊滅的な影響に適応できるように、直ちに各国を支援することが必要なのです。気候変動に関する科学的知見を評価するために国連が設置した気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が新たに発表した報告書では、重要な結論として、このような迅速な行動の必要性が述べられています。

IPCCが発行した新報告書「影響、適応と脆弱性 (Impacts, Adaptation and Vulnerability)」では、科学を無視し続ければ、人類と地球はかつてないほどの危機にさらされると論じています。同時に解決策も提案し、人々の命や生活、生物多様性などを守るためにも、気候変動への適応策を強化し、それをグローバルな気候対策の中心に据えるべきと述べています。昨年、英国のグラスゴーで開催された第26回気候変動枠組条約締約国会議(COP26)では、適応策に向けた資金を200億米ドルから400億米ドルに倍増させるということが誓約されました。これは最優先課題であり、最初の一歩としては良いものの、協調への努力がより必要となるでしょう。アントニオ・グテーレス国連事務総長は「すべての気候対策資金のうち適応策が占める割合を50%まで押し上げる」べく働きかけています。気候に対して強靭性を持った開発投資の重要性は、未だかつてないほど増しており、より大きな規模で行われることが必須です。

UNDPが実施する気候変動対策には、IPCCの調査結果を科学的根拠として引き続き活用することを約束します。UNDPのプログラムは、報告書からのデータに基づき慎重に進められ、各国が行う適応策へのサポートを必要に応じて進化あるいは変化させ、発展させることが可能です。

UNDPが「気候の約束(Climate Promise)」を通して支援した120の開発途上国のうち96%を超える国々が、パリ協定に基づいて決定した計画の中で適応策の強化を進めています。気候変動の悪影響を最も大きく受けている脆弱なコミュニティに対してはさまざまな支援が行われており、「気候の約束」はその一つです。これまで20年間以上、UNDPは、食糧安全保障の強化、生態系の保護、さらには早期警報システムの展開まで、後発開発途上国や小島嶼開発途上国などが行う様々な適応策を強化する一助を担ってきました。

私は、すべての国がグラスゴーでの公約を守り、パリ協定で定められた目標に沿って気候対策への意欲を高め、産業革命以前に比べ世界の気温上昇を1.5度に抑えるという国連事務総長の呼びかけを支持します。

2022年11月にエジプトのシャルム・エル・シェイクでの開催を予定している「アフリカでのCOP (“Africa COP”)」は、気候対策の加速に向けた非常に重要なステップとなるでしょう。しかしながら、我々は必要な変化を起こすのに、それまで長くは待てません。とりわけ先進国の政府が排出量の曲線を大幅に下げ、気候適応策への支援を拡大すること、また、市民が政府に対して今すぐ行動に移すべきと、声を上げることが重要となります。さらに、国際社会は、合意されたものの、未だ充足していない気候変動資金の調達に向け、それぞれが応分に資金を提供することが必要です。

もし世界が科学を無視することなく耳を傾けるならば、この気候危機の中で、人と地球にとって持続可能な未来へと世界を導く光明が見えてくるでしょう。

アヒム・シュタイナー 国連開発計画(UNDP)総裁